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白い翼のノイシュ  作者: ワルキューレ
『やっぱりゲームだったよ』
27/32

31 冒険者ですが要塞解禁です

#31


「報告いたします。お嬢様は学院で待機せよと、閣下の仰せです。特別区に火事は見当たらず、放火しようとしていた犬を捕らえました。【六時門】の状況は不明ですが、既に別邸から伝令を送ったとのことです」


 シックス家紋章をつけた騎士が、オーレリア姉様のもとに(ひざまず)き、伝令を(しら)せる。

 それから、騎士は一歩退き、廊下に立つ人物に礼を()った。

 飾り気のない鎧を装備した青髪の戦士である。


「まあ! お兄様! ご無事でしたのね!」


「うむ……。まあ、なんだ」


 ネルソン君があらわれた。

 お姉様の顔色がパァッと明るくなった。

 そういえば、オズさんの黒猫メイルで殴り倒して以来のご対面である。

 気まずい。


「ちょっと、来てくれ」


「はいほい?」


 私は教壇を離れ、教室の入り口まで小さい歩幅でトコトコ歩く。

 ネルソン君は、鋼の剣と盾と鎧に身を包んだ完全武装状態である。華美な装飾も紋章もなく、冒険者然とした超やる気の装備だ。


『大物を、討伐するらしい』


 ネルソン君は、《念話》でコソコソ話を所望した。


『いやいやいや、無理無理無理……』


 私は首を左右に振ってイヤイヤをする。

 野球やろうぜみたいなノリで死地に誘わないでいただきたい。


『というか、何人でやるの? 装備と薬は?』


 プレイヤーキャラクターは死んでもあまり問題ないが、私はどうなるか分からない。死んだらそれで終わりかもしれない。


「お? ワイバーン殺るノカ? おジョーさま。ソチラさんは盾キャラか」


 制止する騎士の頭を掴んで黙らせながら、イモスナさんが近寄ってきた。

 脳筋力の高いプレイヤーは誰にも止められない。

 ネルソン君はくるりと振り返り、頭ひとつ背の高いイモスナさんと向かい合う。

 バスト一つの大きさがネルソン君の頭くらいある。


『やるか』


(おう)。狙撃はマカセロ』


『よろしく頼む』


 なにか、十秒くらいで話がついた。

 ネルソン君とイモスナさんはガッチリ握手をした。


 オーレリア姉様と騎士たちは、ネルソン君の言いつけで学院に残った。別れ際に抱擁(ハグ)され、お兄様のお手伝いをなさいと命じられた。肺が押しつぶされて返事が出来なかった。手加減を覚えていただきたい。

 イモスナさんも【ハナ族】の皆さんに、「ハッキリいってお前らでは戦場についてこれない。帰ったら特訓してヤル。強くなれ」といって留守を命じた。「アオンアオン」と騒がしかった。




「一金貨1ゴールドで買います。盾どんくらい居るかね」


「一金貨1ゴールドで買います。噴水、野良三名追加。盾1弓1幼女1」


「一金貨1ゴールドで買います。そろそろ組むか」


「攻撃薬一つ、労働薬一つ売ってください。噴水前」


「一金貨1ゴールドで買います。【三時門】まだかー? 置いてくぞー」


 所変わって、謎の活気に満ちた噴水広場。【ソレラの街】の中心部である。

 武装したの老若男女が数十名、思い思いの場所に座り喋っている。金貨トレードは何かの暗号だろうか。


「お、【ハナ族】か。珍しいな」


「イモスナってモンだ。ソッチもな」


「俺の名はミナヅキ。拳王(けんおう)ミナヅキだ」


 水色の無精ヒゲを生やした人魚が、(かいな)を掲げてニヤリと笑った。

 白銀の獣人もクロスボウを上げて挨拶を返した。

 人魚さんは上半身裸で、下半身はブルーに輝く見事なウロコである。下腹に生えたヒレに、三本足用のサーフパンツ? のようなものを引っ掛けて穿()いている。


「なぁなぁ、ムッチャ寒くネェ?」


「めちゃくちゃ寒いわ。今服作ってもらっとるわ」


 イモスナさんと人魚さんは、何が面白かったのか、終電に乗り遅れた酔っ払い集団のように笑い出した。

 その横では、地味なローブを目深にかぶった女性がせっせと針仕事をしている。目の覚めるようなブルーの生地を縫い合わせて、甚平(じんべえ)のような和風の上着を(あつら)えているようだ。


「んん? ネコジンさん?」


 ローブかぶった人物が顔を上げる。

 軽やかで(つや)のあるソプラノ・ボイスが耳に届く。


「あら。学校サボり?」


 ぎゃあああああ。はいそうです。


「いや折角、動けるんだしな」


「そうね」


 ネコジンさんが、パシッと勢いよく青い上着を広げて見せた。

 和風の柄が散りばめられて、背中の部分に大きく「朏芒」と刺繍してある。


「せっ……ひ、ほう? なんだろ?」


「おおう! ついに完成したか! (すすき)(みかづき)! ギルドマスター、拳王(けんおう)ミナヅキだ! よろしくな」


 裸のセイウチみたいな物量が押し寄せてきた。肉の津波のようだった。


「どうも、です」


「なるほど、設立資金で使い果たしたわけね」


(まこと)に済まん。仕立て代は約束通り後日……」


 ネコジンさんの一言で、肉の津波が引いていった。

 その後、ネコミミローブを被って薬売りをしていたオズさんと合流して、ネルソン君、ネコジンさん、イモスナさん、拳王? さん、私の六人パーティを組んだ。

 周囲の人もパーティを組んでいる。脳筋同士で仲良しパーティみたいな班があったり、なんというか適当な布陣である。

 こんなのでワイバーンが倒せるのだろうか。百メートル級だぞあれ。


「一金貨1ゴールドで買います。南ゲートに集まってー。九時十五分に【転移石】投入」


「一金貨1ゴールドで買います。……いま!」


 噴水の近くにあるアーチ状のオブジェに、青いノイズが走る。

 金貨トレードのおじさんを先頭に、武装した集団が次々に虚空の中に消えていく。

 私も、後ろのネコジンさんに急かされて青い空間に突入した。


 ワープアイテムとかあったのか!




 不可思議なトンネルを抜けると、巨大な要塞がそびえ立っていた。

 空の様子がガラリと変わり、暗雲垂れ込めて薄暗い。随分と遠くへ転移したようだ。


「……ここ、どこ?」


 鋭角に枝分かれした城壁が攻撃的なシルエットを空に穿(うが)つ。しかし、砦の門は打ち壊され、木っ端微塵の残骸が転がっている。


 ダンジョンか何かだろうか?


 上空にはコウモリとカラスを足したようなモンスターが飛び回り、不吉な鳴き声で侵入者の存在をアピールしているようだ。


「アレレ? 来るとき見なかったの? ここは【Lの砦】ダヨ? ちなみにボク達は【Cの砦】で死ぬ目にあったよ……」


「あーー。モンスターてんこ盛りで、三キロ以内に近付かなかったから」


 そういえば、ワイバーンとニアミスした際に、一度だけ建物に突っ込んだ。

 芋虫みたいなモンスターが詰まっていて、入り口にワイバーンの鼻が詰まって、トラウマものだった。

 もう何も覚えていない。


「一金貨1ゴールドで買います。圧縮ラブPT(パーティ)右通路、色物PT(パーティ)左通路。本隊このまま前進。ボス発見までは虱潰(しらみつぶ)しで」


 うちのパーティは色物だったらしい。犬成分と魚成分か。


 金貨トレードしまくってる人をリーダーに、団体様がまっすぐ進んでいった。

 要塞の中は無駄に曲がりくねり、分厚い石壁に囲まれて、まさにダンジョン探索といった雰囲気である。

 ネコジンさんが掲げるランプの光が揺らめき、辺りを照らす。

 鉄格子のはまった窓からわずかに陽光が漏れてくるが、ときおり風の抜ける「ビョォォォ」という間延びした音が、なんとも気持ち悪い。

 拳王さんが、ぴったんぴったん四つん這いで付いてくる。

 ギャグである。


「手がヌルヌルだ。こりゃあ、手袋も頼まんといかんな」


「ウヘェ!」


 素足のイモスナさんも、洗ってない犬みたいになっている。

 私はちょっと浮いているので、革靴は新品同様だ。


「三匹、来るぞ。《戦技Ⅴ=守護剣(リーデイングエッジ)》!」


『【システム通知】:ネルソンの《戦技Ⅴ=守護剣(リーデイングエッジ)》! 色物パーティに、反応装甲の魔法効果!』


 【システム通知】さんが真面目に仕事をしている。


 ランプの明かりの向こうから、首がニュッと長いハゲタカのようなモンスターが現れた。二本の足をバタつかせて走ってくる。昔のゲームでキメラと呼ばれた鳥をちょっと思い出すが、首から上だけ羽毛を引っこ抜いたようなブツブツの赤い鳥肌がゾンビっぽい。

 鳥のくせに、なんで暗いダンジョンに引き篭もっているのか謎である。


「はあああああああ!! 拳王、《殴Ⅵ=フィンガースナップ》!!」


 人魚さんが両手を鳴らすと、パッチーンといい音がして、二匹のハゲタカが同時に仰け反った。

 戦い方もギャグっぽかった。


「《弩Ⅰ=ピアシングボルト》」


 イモスナさんは必要な動作だけ行って、三匹目のハゲタカの頭を射抜いた。


「《銃=シルバーブレット》」


 甲高い爆発音が響き、仰け反っていた鳥の頭が弾けた。

 オズさんが両手で抱えた太い筒から白い煙が出ている。銃というよりバズーカ砲みたいな外見である。

 銃まで出てくるとは。ファンタジー世界で銃刀法だいじょうぶか。


「とう!」


「《鉈Ⅵ=エルンテフェスト》!」


 様子を見ていた私とネコジンさんは、最後に残ったハゲタカを攻撃して止めを刺した。

 モンスター三匹が数秒で全滅した。


「案外弱かったな、敵リンクなしだ」


「戦技レーダーか? 便利なもんだな」


「銃もってンの!? スゲェ! 狙撃銃ある? 撃たせてクレ!」


「いあ、コレしか無いヨ?」


 初戦闘でテンションが上がっているのか、パーティメンバー大騒ぎである。

 ネコジンさんがランプで私の顔を照らし、大きな目で覗き込んできた。


「女神ちゃん、なんで本で殴ってるの?」


「すきるあげ……」


 帝国御用達の《本スキル》は、さっぱり上がる気配がなかった。



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