26 女神ですが人形で決闘します
#26
リーリーリーリーリ……リーリーリーリーリ……。
遠くから虫の声が聞こえる。
「クエスト開始だ……」
ネルソン君が剣を抜いた。
鞘走る鋼の音が大神殿に響いた。
「お前を、裏世界へ……連れて行く……《交 唱 方 陣》!!」
ネルソン君がかっこいいセリフを吐いた途端、空間が裏返る。
白い床が黒く染まり、赤茶の椅子が青緑に変色する。ネルソン君を中心に、色の反転した空間が広がる。
そして唐突に、テーブルセットが床からゴゴゴゴゴッと迫り上がってきた。透かし細工と猫足がオシャレな青銅製のガーデンテーブルだ。天板の上には大神殿の絵が入ったコースターが何枚も並べてあり、コースターを足場に手のひらサイズの人形が乗っている。
テーブルのこちら側には、全身黒タイツで白い翼の人形。プラチナブロンドの後ろ髪がふわりと背中に広がって、呼吸をするように肩が動いている。デフォルメ気味に頭がちょっと大きいので、髪の毛のボリュームもすごい。
テーブルの向こう側には、シンプルな鎧を着た紺色の髪の人形と、流線型の全身甲冑をまとった二体の白騎士人形。それぞれ剣と大盾を持っている。それからミニチュアの【青色水晶】が一柱。内部から青色LEDのような光を漏らしまくってひときわ存在感を放っている。
いつしか風の音が止んでいた。色がアベコベの大神殿は夜のしじまに包まれた。
『【システム通知】:【コマンドバトル】を開始します。アイコンをタッチして、コマンドを視覚化してください』
「……は?」
BGMが唐突に始まった。トランペットが高らかにファンファーレを歌い上げる。バイオリンの旋律が音階を駆け上がり、ドラムがドロドロと恐ろしげなリズムを刻む。
この曲は、ワイバーンに追いかけられたときに鳴り響いた処刑用BGMだ。
私は頭の中が真っ白になって取り乱した。
「ななな!?」
透明なバリアのようなものにぶつかる。鼻が痛い。
アベコベ色の限定空間から逃げられない。
ネルソン君があらわれた。
白騎士Aがあらわれた。
白騎士Bがあらわれた。
青色水晶があらわれた。
『おおお!? ほんとに湧いたのです』
舌足らずな甘え声の《念話》が脳内に聞こえてきた。いつの間にか青色水晶がネルソン君のすぐ横にそびえ立っていた。
水晶柱の内部には、まん丸な目を見開いてキラキラさせた“私”がいる。目を合わせると、緑の虹彩をモルダバイトのように輝かせた。
『ナイス羽根! なのです』
直球な賞賛の声。親指を立てるジェスチャーをしたくてたまらない、といった顔だ。我ながらお気楽なコンチクショウである。こっちはある意味命懸けなのに!
水晶にガッチリ固められてポーズが取れないので、どうにも締まらない。かわりに私がグッジョブしてあげよう。グッ!
しかし、影法師の都市伝説って、まともに姿を見てしまうとやばいパターンが多かった気がするのだけれど……案外大した事はないようだ。キャラクターの容姿が作り物のせいか。自分が嫌いだったリアル中二の頃の私だったら、精神を揺さぶられてヤバかったかもしれないが……。
「そろそろ……いいか……?」
ネルソン君が人形を見て言った。不機嫌そうに腕を組んでいる。
もうひとりの“私”は、マイペースにノイシュ人形をガン見している。
「あのこれ、どうすればいいのです?」
『さあ?』
「ええー」
ずっと見ていても飽きそうにない。優雅に翼を広げてファイティングポーズを取るノイシュ人形は、まさに『ナイス羽根』にふさわしい佇まいであった。
見かねたネルソン君は、目の前の空間を指差して指をぐるぐるした。自分の鳩尾の前方、腕を伸ばしたくらいの位置だ。
「この辺に……四つのアイコンが、ある……。見えないか……?」
「ふむむ??」
ネルソン君からレクチャーを受ける私がいる。いつもムスッとした顔をしているわりに、困った人を見かけると意外と親切な性格である。
「それが……【攻撃】、【防御】、【妨害】、【支援】だ……」
テニスボールくらいの丸いアイコンが、テーブルの下でくるくる回っていた。子供キャラのせいで想定外に身長が低かったらしい。
一歩下がると、胸の前に四つのアイコンが輪になって回っているのが見えた。
「とりあえず、【攻撃】?」
私は、幾何学的に図案化された、燃え上がる剣のアイコンをパシッと掴む。するとノイシュ人形がパタパタ飛んでいって、ネルソン君人形をビシバシ殴り、元の位置まで戻った。
ネルソン君人形が仰け反って、「110」と数字が踊った。
なんというか、はためく白い翼が眩しい。腰羽は自分で自分の羽根を愛でやすくて超お気に入りなのだが、第三者視点の羽ばたく純白も素晴らしかった。
「羽根羽根羽根ェ」
『ぱたぱたぱた……』
ノイシュ人形の行動の軌跡が明示盤に刻まれる。
『【システム通知】:ノイシュの《殴Ⅴ=ベアナックル》! ネルソンに110ダメージ!』
ネルソン君人形は、体勢を立てなおして剣を掲げる。すると、お馴染みの剣の絵柄のアイコンが輝き、青白いオーラが足元から炎のように吹き上がって全身を包み込む。時折バチバチと青白い稲妻が走る。
なにこれ格好いい! 《剣スキル》か!
二体の白騎士人形が、ガシャガシャと金属音を響かせてテーブルの上を突進してくる。ノイシュ人形は姿勢を低くして迎え撃つが、足を止めての殴り合いなので攻撃を受けてしまう。
私のキャラは回避特化スタイルなのに、【コマンドバトル】だとガチンコ勝負をするしかなさそうだ。なにこのクソゲー。
私がプリプリ怒っている間も、ノイシュ人形はダメージエフェクトを明滅させながら、果敢に応戦する。
白騎士たちは一当てした後、喧しい足音をたてて元の位置へ戻っていった。
『【システム通知】:
ネルソンの《剣Ⅴ=スピードスター》! 加速戦闘の魔法効果!
白騎士Aの《剣Ⅱ=スラッシュ》! ノイシュに242ダメージ!
白騎士Bの《剣Ⅱ=スラッシュ》! ノイシュに239ダメージ!
ノイシュの反撃《蹴Ⅲ=サイドキック》! 白騎士Aに77ダメージ!
ノイシュの反撃《蹴Ⅲ=サイドキック》! 白騎士Bにクリティカルヒット! 305ダメージ!
青色水晶は様子を見ている!』
【マイ・キャラクター】
HP: 625/1106
MP:3390/3390
剣戟が途切れた。メタメタにやられまくった。
……と思ったら、再びノイシュ人形がパタパタ飛んで行き、ネルソン君人形をぺちっと殴って元の位置まで戻った。
「二回攻撃……だと……」
ノイシュ人形は一ターンで二回攻撃できるらしい。最強にかわいい。
ネルソン君人形は鉄兜の絵柄のアイコンを出して防御姿勢を取り、「18」という数字に打たれた。
『【システム通知】:ノイシュの追撃!
ネルソンは《重装Ⅲ=アーマーガード》で18ダメージ受けた!
ノイシュはHP133/MP407回復した!
ネルソンは回復した!
白騎士Aは回復した!
白騎士Bは回復した!
青色水晶は回復した!
ノイシュはHP45/MP136回復した!
ネルソンは回復した!
白騎士Aは回復した!
白騎士Bは回復した!
青色水晶は回復した!』
【コマンドバトル】は時間の流れが特殊なせいか、いつもより濃密に《祝福スキル》の回復が入るようだ。
第一ターンが終了して、【攻撃】【防御】【妨害】【支援】四つのアイコンが復帰した。
【マイ・キャラクター】
HP: 803/1106
MP:3390/3390
《祝福スキル》の回復が入って大分持ち直したが……。
私の最大HPは白騎士アタック五回分だ。ネルソン君の攻撃次第では……ヤバイ死ぬかも。死んだらほんとに死ぬかも。
「というか、なんかすっごいヤバイのです。しぬしぬ死んじゃう! 死にたくないよう」
『……骨は拾うのです。ドロップしたら拾うのです』
「やめて! ゆるして!」
もうひとりの“私”は、冗談がキツかった。
もっと楽勝かと思っていた。私のキャラのアイコンスロットは、融合を経て二倍に増えている。レベルも100だ。
なんでこんなに苦戦しているんだろう。ネルソン君と戦うのも想定外だったけれど、相手もレベル100なのかな?
こっそり遠くから《賢者Ⅰ=ステータス》で覗いておけば……。
いや、ネルソン君はフレンドだから、《念話》で賢者スキルが漏れるかも。ネルソン君まで妙な事件に巻き込むのは避けたい。
いやしかし、命を大事に! 命を大事に! 命を大事に!
『というか、癒しパワーすっごい負けてるのです。なんか三倍くらい負けてる感じなのです。なんでなんで??』
「どん、まい」
『みみみみみ……』
とりあえず、気分を落ち着けよう。テーブルセットに座ってみる。
緑青銅のレトロな椅子だ。服越しのひんやり感が気持ちいい。座面はツルツルで鎌倉大仏みたいな色合いである。お尻が汚れたりはしないだろう。しかし、グッと後ろにもたれ掛かると、羽根が当たって具合が悪い。背もたれの透かし細工もゴツゴツしていて痛い。
「ふう……」
『現実に戻って来なさーい』
「ふう……。お茶とか出ないんですかね」
『あ、でた』
テーブルの上に湯飲みが三つ出た。魚の漢字がいっぱい書いてある。
「というか、どこから……」
『の、飲めないいいい……うぐぐ。クソゲ! クソゲ! クソゲ! しかしこのテーブルセットで湯飲みに緑茶とは。ナイス、パンチ、ナノデス……』
「ふう……。すごくおちついたのです」
なにか末期の水っぽくて不吉だなと思ったが、茶柱が立っていた。
暑いのか寒いのか分からないアベコベ世界で、ひんやりした椅子に座ってすする熱いお茶は、生きてるって感じがした。
「うーん。この感じ……【支援】?」
第二ターン。
私は、幾何学的に図案化された、羽の生えたハートのアイコンを掴んだ。迷ったらネルソン君のマネっ子安定である。自己強化を大切にね!
しかしイメージが纏まらない。なにか良いスキルはないものか。オズさんの黒猫鎧でも借りてくれば良かった。
などと考えていると──。
『【システム通知】:魔素の操作が上達し《魔象形装Ⅰ》を習得しました!』
《魔象形装Ⅰ=サモナーフォーム》 【任意】【顕現】【自在】【魔導】
消費MP221 【魔装投射体】を召喚して自在に操る。【アトリビュート・アイコン】
『あ、なんかでた』
「……ん?」
『なんか猫っぽい』
「黒猫メイルの宅○便!?」
ノイシュ人形の横に、同サイズの鎧の人形が立っていた。デフォルメされた兜は大きく、手足もずんぐりしている。
私は慌てて【魔象形装Ⅰ】の玉を出現させ、明示盤の穴に放り込む。
「《魔象形装Ⅰ=転移召喚》!」
宇宙服の絵柄のアイコンが光を放つ。織り成す光が導線となり、金属甲冑が実体化する。そして、背後から捕食するように私を包み込む。
股関節に100ダメージ。
すごい音がして青銅製のガーデンチェアーが噛み砕かれた。
合体するのは人形だけかと思ったら、“私”本体が鎧に取り込まれた。今のこの“私”を本体といっていいものか微妙なところだが。はやく本体と合体して一息つきたい……。
『【システム通知】:ノイシュの《魔象形装Ⅰ=転移召喚》!
ノイシュは【魔導兵装】黒猫メイルを呼び出した!』
【魔導兵装】黒猫メイルがあらわれた。
「これは……オズの鎧か……?」
ネルソン君人形は、左手の大盾を突き出し、右手は剣を槍のように引きしぼった上段霞の構えで滑るように走る。そして、ノイシュ人形と合体した黒猫メイル人形を剣で突く。白騎士人形たちもガシャガシャと追従する。
剣が振られ、黒猫メイル人形にダメージを示す数字が踊る。
しかし、決戦兵器『黒猫メイル』は全身を隙間なく覆うプレートアーマーなので安心だ。
『【システム通知】:
ネルソンの《剣Ⅵ=デモリッシュコーズ》! 魔導兵装に154ダメージ!
白騎士Aの《剣Ⅲ=スマッシュ》! 魔導兵装に187ダメージ!
白騎士Bの《剣Ⅲ=スマッシュ》! 魔導兵装に191ダメージ!
青色水晶は様子を見ている!』
……一瞬焦ったけれど、思ったより痛くなかった。
【マイ・キャラクター】
HP:2432/2964
MP:3300/3441
さらに追加行動で、黒猫メイル人形に羽が生えた。
バサッバサッと大きく羽ばたき、テーブルから浮き上がる。いい風が吹いてくる。
ハート形の輪っかのような雲が風に流されてきて、黒い鎧の人形がその真ん中を潜る。人形は前傾姿勢で鋭角に翼を狭め、純白の先端から飛行機雲のような白いエフェクトを棚引かせる。
『【システム通知】:魔導兵装の追撃《飛行Ⅵ=臨界推進》!
高速飛行の魔法効果!
魔導兵装はHP356/MP413回復した!
ネルソンは回復した!
白騎士Aは回復した!
白騎士Bは回復した!
青色水晶は回復した!
魔導兵装はHP119/MP138回復した!
ネルソンは回復した!
白騎士Aは回復した!
白騎士Bは回復した!
青色水晶は回復した!』
『はね生えた』
「え、こんなエフェクトあったのです?」
『オシャレ感、グッジョブ』
「黒アーマーに白い翼もなかなか」
私たちの羽根鑑賞会は始まったばかりだ。
第二ターンが終了して、四つのアイコンが催促するようにくるくる回りだした。
ちなみに今のHPは2907/2964。
魔導兵装を装着した時に完全回復して、後に負ったダメージも《祝福スキル》で回復した。MPも減っていない。疲れ具合からみて、恐らくスタミナも全快だ。
──勝ったな!
しかしネルソン君はともかく、白騎士コンビはけっこうヤバイ奴らしい。
「そろそろ……始めていいか……。クエストを、終わらせる……」
『がんばれネルソン君!』「まけるなネルソン君!」
「祝福は中止だ……。魔眼でカバーを頼む……」
『おっけーなのです!』「はいなのです!」
「シックス伯爵令嬢ノイシュ……! お前が何なのか……確かめてやる……!」
『おおー!』「がおーっ! 【攻撃】」
調子に乗ってきた私は、ガンガン攻撃した。
《吐息スキル》の着弾エフェクトがビシバシ飛び散って気持ちいい。
「勇者よ! 死ぬがよい!」
『【システム通知】:魔導兵装の《吐息Ⅵ=魔神砲》!
ネルソンにクリティカルヒット! 239ダメージ! 119ダメージ!
白騎士Aに164ダメージ! 82ダメージ!
白騎士Bにクリティカルヒット! 251ダメージ! 125ダメージ!
青色水晶にクリティカルヒット! 265ダメージ! 132ダメージ!』
結論からいうと、ネルソン君のクエストは終わらなかった。
黒猫メイル人形の大暴れで、ネルソン君人形は四ターンで沈み、青色水晶の方も、《吐息スキル》の流れ弾でいつの間にか粉砕されていた。
《祝福スキル》を止めたら、実に回復手段の乏しい集団である。
【マイ・キャラクター】
HP:1005/2964
MP:3357/3441
第七ターン。残るは白騎士人形が二体。
攻撃力も防御力も高水準らしく、黒猫メイルの装甲をもってしてもヤバそうな敵だ。
さらに、殴り技も、蹴り技も、《吐息スキル》も打ち止め。
なんか急に息切れがして、疲れると思ったら、《吐息スキル》はスタミナ技だった。《吐息Ⅵ=魔神砲》なんてレーザーみたいなブレスを吐くのに、MP使わないとか詐欺みたいなのです。
スタミナ技は気軽に使えるけれど、本気で疲れると移動すら難しくなったりする。当然戦闘どころではない。調子に乗って連打すると、急に力が抜けたりするので、スタミナ技には気を使う。ペース配分や限界の読みやすいMP技とは感覚が違ってくる。
というわけで第七ターンは、MPを使って時間稼ぎなのです。
【妨害】──幾何学的に図案化された、電撃を放つ杖のアイコン──を手に取る。
「人魚さん直伝のぉぉ──!!」
黒猫メイル人形の前方に、水の塊が出現する。《深淵Ⅲ=鉄砲水》による水流攻撃だ。
思ったとおり、白騎士人形たちは大波に流されて行動できない。
「ハメ殺しリフレクション!!」
『【システム通知】:魔導兵装の《深淵Ⅲ=鉄砲水》!
白騎士Aは《重装Ⅵ=ホーリーガード》で47ダメージ受けた! 白騎士Aは【スタン】した!
白騎士Bにクリティカルヒット! 《重装Ⅵ=ホーリーガード》で115ダメージ受けた! 白騎士Bは【スタン】した!
魔導兵装の追撃! 白騎士Bは《重装Ⅲ=アーマーガード》で42ダメージ受けた!』
私の指示した【妨害】コマンドに呼応して、黒い鎧が暴れまくる。
絶妙なデフォルメ感の羽ばたく白が最強にかわいい。
水流攻撃でハメて、疲れが抜けるまでハメて、余裕が出てきてからもハメる。
魚のヒレのように変化したハネが、青く輝き大瀑布を生む。
竜の皮翼に変化したハネが、ほんのり紫に光ってレーザーブレスを放つ。
《深淵スキル》でハメながら、《吐息スキル》を連打する。
白騎士人形は単純なアルゴリズムで動いているらしく、最後までハマって死んだ。
第二十二ターンで敵は全滅した。見事な脳筋パーティであった。
今度ちゃんと回復系のスキルを調べておこう……。
【コマンドバトル】が終わり、裏返った空間が元に戻った。
ネルソン君の本体がガクンと膝を突き、そのまま重力に引かれて頽れた。いわゆる土下座状態である。
「わわっ! ……と」
顔面から床に激突しそうなネルソン君を抱き止めた。鉄のガントレットが当たって、ゴキッとヤバイ音がした。ヤバイ。やってしまった。
【マイ・キャラクター】
◆アバター:【魔導兵装】シックス伯爵令嬢ノイシュ with 黒猫メイル
レベル:100
種族:ハネミミヒト族 職業:女神/貴族 年齢:8 性別:♀
HP: 837/3002
MP:1373/3441
身体:《筋力AA》《耐久AA》《感覚AAA》《反応SSS》《知力E》《精神SSS》
技能:《祝福XIV》《飛行XIV》《風纏Ⅵ》《聴覚Ⅱ》《森羅Ⅱ》《魔眼XIV》《疾走XI》《吐息Ⅵ》《蹴Ⅶ》《水泳Ⅳ》《深淵Ⅳ》《殴Ⅵ》《軽装Ⅵ》《斧Ⅰ》《魔象形装Ⅱ》
生活:《整髪Ⅲ》《日焼止Ⅱ》
権能:《樹界語XII》《人界語Ⅳ》《賢者Ⅵ》
称号:【■■■■】【■■■■■】【癒しの天使】【人界の斧聖】
◆アイテム:1% 所持金:27ジェイド
装備:〈魔導ハーネス〉〈魔導兵装〉
収納:〈ヒレ族の服〉〈ヒレ族のビキニ〉〈鉄の戦斧〉〈寝巻〉〈スリップ〉〈ブラ〉〈パンツ〉〈ポケットティッシュ〉〈宝石の詰まった袋〉
◆メインアーム:〈魔導マニピュレータ〉〈魔導ロコモータ〉
アトリビュート・スロット1《魔象形装Ⅰ=転移召喚》
コモン・スロット2《水泳Ⅲ=蹴伸》
コモン・スロット3《深淵Ⅱ=銀明水》
コモン・スロット4《深淵Ⅲ=鉄砲水》
コモン・スロット5《殴Ⅴ=ベアナックル》
コモン・スロット6《蹴Ⅲ=サイドキック》
◆サブアーム:〈魔導マニピュレータ〉〈魔導ロコモータ〉
アトリビュート・スロット1《祝福Ⅰ=武運長久》
コモン・スロット2《祝福Ⅱ=交通安全》
コモン・スロット3《祝福Ⅲ=無病息災》
コモン・スロット4《祝福Ⅳ=商売繁盛》
コモン・スロット5《祝福Ⅴ=家庭円満》
コモン・スロット6《祝福Ⅵ=天壌無窮》
◆メインアーム:〈魔導マニピュレータ〉〈魔導ロコモータ〉
アトリビュート・スロット1《魔眼Ⅰ=行逢神》
コモン・スロット2《疾走Ⅱ=疾駆》
コモン・スロット3《吐息Ⅱ=風神砲》
コモン・スロット4《吐息Ⅵ=魔神砲》
コモン・スロット5《蹴Ⅱ=ステップキック》
コモン・スロット6《飛行Ⅵ=臨界推進》
◆サブアーム:〈魔導マニピュレータ〉〈魔導ロコモータ〉
アトリビュート・スロット1《祝福Ⅰ=武運長久》
コモン・スロット2《祝福Ⅱ=交通安全》
コモン・スロット3《祝福Ⅲ=無病息災》
コモン・スロット4《祝福Ⅳ=商売繁盛》
コモン・スロット5《祝福Ⅴ=家庭円満》
コモン・スロット6《祝福Ⅵ=天壌無窮》
鎧ロボに閉じ込められた私がいる……。胴体部分に収納されて、手足が縮こまった状態なのでとても窮屈だ。
どうやったら出られるのです?
まさかMP切れまでこのまま?
MPは徐々に減っているので、放置すれば空っぽになりそうだけども……。あるいは消費の大きい《深淵Ⅲ=鉄砲水》あたりを連打するか。
見れば、大神殿の床は冷たい水で満たされている。
二体の白騎士が水に浸かって煙をふいている。時折バチバチと火花が散る。
嫌な予感がしたので、爆発する前に《収納術》に放り込んでおく。
大神殿の最奥では、青色水晶が砕け散り、もうひとりの“私”が水面にプカァ、と浮いている。
私はネルソン君を長椅子の上に寝かせ、バサリと空をひとつ打って亜麻色の水着の乙女の元へ舞い降りた。鎧ロボに搭乗した状態でも、水溜りをバシャバシャ歩くより飛ぶほうが楽だった。
ところで、最大の懸案事項なのだけれど……。
──融合って、どうやるのです?
とりあえず触ればいいのかな?
融合前の記憶は、夢か幻のようにぼんやりしている。
確かあの時は、オーレリア姉様を両手で抱えて後ろに飛んだら、スカートの中に突っ込まれたような……。
水着の股ぐりから伸びる脚を触ってみる。ペタペタ。
「んっ、んゆっ、うう~ん……」
もうひとりの“私”がピクピク身悶える。
確か肌と肌を合わせて、ぬるっと融合したような気がするのだが、なかなか融合できない。
あ、黒猫メイルで触っても駄目かも。
……ほんとこれ、どうやって脱ぐんだろう?
《念話》漏れを気にして、目をつぶったまま呪文を唱える。
『《賢者Ⅱ=ワイドサーチ》』
荘厳な大神殿が、安っぽいワイヤーフレームに置き換わる。
床に寝転がるキャラクターは、原初の海に散らばる光のつぶになる。そのまわりを【システム通知】が衛星のように回っている。
私は密やかに意志の剣を伸ばす。
『《賢者Ⅲ=ラチェットロック m.blu.0001.070726》』
『【システム通知】:m.blu.0001.070726の操作権限がありません』
プレイヤーは弄れないらしい。とにかく融合しないと……。
リーリーリーリーリ……リーリーリーリーリ……。
虫の声でふと気が付くと、私は床の上に寝ていた。砕けた水晶が散らばって、背中がチクチクする。水着がびしょ濡れで寒い。
──塔の出窓──眠り姫──瑠璃色の天井──
──人魚の親子──角ウサギ──奴隷の女神──
──思い出した!
『《賢者Ⅲ=ラチェットロック m.blu.0001.070726》』
どうやら“私”は上手くやったらしい。
機械仕掛けの時計のように歯車が噛み合い、ガチャリと音を立てたイメージが脳裏に浮かぶ。私の内部構造が変化して、強固な鍵が掛かったのが分かった。
『【システム通知】:そこに居るなら、聞いてください』
『うるさいだまれ。《賢者Ⅳ=タルパユゴルム》』
恐らく今のが、妙なクエストを乱発して困らせ、ネルソン君まで巻き込んだ真犯人だろう。無力化できたようだ。
どうしてくれようか……。
まあ、それはあとでじっくり考えるとして、今すぐ後片付けしないとヤバイ気がする。影響範囲を鑑みれば、元通りにしておいたほうが、後からサーバログを辿られても心証がいいだろう。
『《賢者Ⅵ=クリエイション》』
世界憲章に記された権限により、オブジェクト生成が命じられた。
大神殿の最奥に水晶の破片を集めたら、いい感じに青色水晶が生えた。中学生くらいまで大きくした女神のコスプレ少女が入っている。
これでもう“私”が水晶に詰められることもないだろう。
水浸しだった床はすっかり元通り。
証拠隠滅完了である。
「ねむい……。ねよう」
私はログアウトした。




