マリーロゼとお母様。
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「受け入れて貰えて良かったあ。 リチャードが話の分かる人で良かったよ。
じゃあ、私はマリーロゼの所へ行くね。 マリーロゼも、お母さんとの話が終わったみたいだし。
ああ、リチャードって呼んでも良いでしょ?……ダメなら、他に考えるけど?」
リチャードの答えに満足げな笑みを浮かべていたゆうりは、首を傾げてリチャードとヴィクターへと名前呼びの許可を 確認する。
「是非、リチャードとお呼び下さい。」
「私のこともヴィクターとお呼び頂ければ光栄にございます。」
「あっは、良かった。 ああ、アクアとバースも付いて来たいならどっちでも良いよ。 でも、マリーロゼには優しく対応してね。」
「心得ましたわ。」
「御意っ!」
ゆうりの正体を知り緊張した態度で対応する二人に対し、今までの威圧的な態度を一変させ気安く声を掛け、マリーロゼの元へ向かうことをゆうりは告げる。
そのままリチャードとヴィクターへ背を向け、アクアとバースをお供に部屋を出て行こうとする。
しかし、扉をくぐる直前に思い出したかのように振り向き、緊張のあまり微動だにしていない二人へもう一度声を掛けた。
「ああ、そうだ。 そんなに二人は不安にならなくても良いよ。
私は、マリーロゼを悲しませたくないからさ、マリーロゼが大切にしている“もの”は極力壊すつもりはないし……。
でも、例えマリーロゼを泣かせることになっても、彼女が危険な時は譲るつもりはないけどね。」
その言葉を残してゆうりは、リチャードとヴィクターのいる応接間より今度こそ立ち去るのだった。
「……その言葉の何処に安心できるのでしょうね……。
要するに、敵に回れば容赦しないという事では有りませんか……。」
緊張が解けたのか疲れたように身体をソファに預け、リチャードは目元を己の手で覆ってため息を付く。
「大変な事態となりましたな、旦那様。」
リチャードの内心をおもんばかり、ヴィクターもまたため息を付く。
「……少なくとも、この男爵領の民と家族だけでも守らねばなりません。 ヴィクター、これから先も苦労を掛けるがよろしく頼むよ。」
「私めに勿体なきお言葉です。 この不肖、ヴィクター必ずや旦那様のお役に立って見せましょうぞ。」
リチャードは自身の中で優先順位をはっきりと意識する。
貴族としては失格かもしれないと己を嗤いながらも、王や高位貴族、王国などよりも、男爵領の民と家族を優先する事を心に決めたのだった。
これから先の己の行動に考えを巡らせながら、リチャードはまだ来てはいない遥か未来を思い描くのだった。
※※※※※※※※※※
己の叔父達とゆうりが剣呑な会話を繰り広げているとは露知らずマリーロゼはゆうりのことや、ゆうりが見せてくれた幻想的な光景の数々を、母の前ではまだ幼い少女らしく好奇心で一杯の輝く瞳で語っていた。
「お母様、私は生まれて初めてあのような幻想的な光景を眼にしましたのっ!
小さな精霊達はとても可愛らしかったですわ! お母様にもお見せしたかったです……。」
「ふふふ、ロゼは本当に嬉しかったのですね。 ロゼ、私にも見せたいと思ってくれてありがとう。
でも、大丈夫ですよ。 私も、この窓からその光景を眼にする事が出来ましたもの。」
ベッドの側に座り、身を乗り出すように話すマリーロゼの頭を優しく撫でながら穏やかに微笑むのは、一人の儚げな女性だった。
漆黒の髪に、理知的な穏やかな翡翠色の瞳は、マリーロゼへ温かな眼差しを送っている。
彼女こそ、マリーロゼの母親である"セレナーデ・エラスコット"だった。
「貴女の新しい大切なお友達に私もお会いしてみたいですわ。
こんなにも貴女を笑顔にしてくれたのだもの、私からもお礼を言わなくてわね。」
その言葉と共に、ベッドより起き上がろうと身体に力を込める母へマリーロゼは制止の言葉を掛ける。
「待って下さいましっ! お母様の身体に障りますわっ!
それに、お姉様は待っていればここに来てくれますのっ!」
そのマリーロゼの言葉に、母親であるセレナーデは厳しい顔を向ける。
「マリーロゼ、心配してくれる気持ちを母はとても嬉しく思います。
けれど、例え病に倒れていようとも感謝を述べる相手に足を運ばせるなど非礼に当たります。
どんなに親しい間柄であったとしても、淑女たる者、決して礼儀を忘れてはなりません。」
激しい口調では無いが厳しいセレナーデの言葉に、マリーロゼは自身の間違いを指摘され反省する。
「……申し訳ありません、お母様。 私は、お姉様へ甘えて礼を欠いてしまう所でした。」
セレナーデの言葉に悲しそうな顔で俯いてしまうマリーロゼの両頬を、セレナーデは己の両手で包み、顔を上げさせる。
「マリーロゼ、そんな悲しい顔をしないで。
誰でも、間違う事はあります。 取り返しの付かない間違いを犯す事をしないために、人は小さな間違いを起こし反省していくのです。
それこそが、学び、成長していくという事なのですから。」
「はい、お母様。 マリーロゼは、いつかお母様のような立派な淑女になって見せますわ。」
「まあ! うふふ、母を目標にしてくれるとは嬉しいですわ。 ありがとう、マリーロゼ。」
セレナーデとマリーロゼは、向き合って微笑み合う。
穏やかに諭す母の言葉を受けてマリーロゼは、心の中に“立派な淑女になる”という目標を掲げる。
ある意味、悪役令嬢“マリーロゼ・アウラ・イスリアート”の誇り高い魂は、このセレナーデという厳しくも、温かな母親の存在があったからこそ生まれたのかもしれないのだった。