精霊王とこの世界の精霊のあり方。
いつも読んで頂きありがとうございます。
気が付いたら、300ポイント達成していました。
思わず二度見してしまう程に嬉しかったです。
ありがとうございます。
「いやあ、あははは。 取り乱すなどお恥ずかしい姿をお見せして申し訳ありません。
なんせ、喋る狼なんて生まれて始めてみたもので。」
「そうですな、旦那様。
私も長年執事をやっておりますが、喋る狼の姿をした精霊様を客人としてもてなすのは初めてにございます。」
鳶色の髪に銀縁眼鏡をはめた柔和な笑顔が印象的なリチャード・エラスコットと、男爵家の執事であるヴィクターはほけほけと笑いあっている。
最初は驚いている二人だったが、白い狼が精霊であることが分かると屋敷の応接間へ通してもてなし始めたのだった。
笑い合う二人にマリーロゼは、白い狼ことゆうりが突然目の前に落ちてきたことや、友人になりたいと言っていることなど事の子細を説明する。
その話しを聞いた二人は、嬉しそうにマリーロゼと一緒に二人がけのソファに座っているゆうりへ困惑した視線を向けてしまう。
「あの精霊様、お聞きしても宜しいですか?」
「なーに? ああ、別にゆうりって呼んでも良いよ。 マリーロゼの家族と執事だし。」
「宜しいのですかっ?!」
ゆうりの言葉にリチャードとヴィクターは目を丸くして驚いてしまう。
「……お言葉に甘えて、ゆうり様と呼ばせて頂きます。
ゆうり様、我が姪であるマリーロゼはまだ幼く、“精霊召還の議”すら執り行っていません。
それなのに貴女様は姿を現し、“契約”では無く友人となることを望むのは何故ですか?」
リチャードは、居住まいを正してから、先程とは一変した厳しい表情でゆうりへ問いかける。
「質問に答えるのは全然構わないんだけど、その前にマリーロゼに精霊について説明してあげてよ。
私が説明しても良いけど、精霊と人間では認識が違っているかもしれないし。」
ゆうりはその問いに答える前に、“精霊召還の議”や“契約”など聞いたことのない言葉に首を傾げているマリーロゼに気が付き、精霊に関する説明をするようにリチャードに求めた。
“精霊”、それは主に光、闇、炎、水、風、地の6つの属性。
そして、精霊の力の強さを最高位、高位、中位、低位、その他の5つとしている。
時折例外もあるが多くは貴族の子息に魔力を持つ者が多く生まれ、そんな貴族の子どもたちは必ず15歳になれば精霊や魔力の使い方を学ばせるための“学院”、王立エレメンタル学院へ入学させる事が義務づけられている。
学院の一年目では、座学を中心として精霊や魔力について学び、二年生への昇格試験として“精霊召還の議”が執り行われる。
その時初めて、自身の力に見合った精霊を召還して、その精霊に気に入られることが出来れば“契約”を結ぶことが出来る。
しかし、全ての者が呼び出せる訳でもなく、呼び出したとしても精霊から契約を拒否されることも有る。
そのうえ、何故かその時に召還することも、契約を結ぶことも出来なければ、それ以降は全く可能性が無いと言っていい程に精霊を召還することも、契約を結ぶことも出来ないのだ。
なかには、複数の精霊と契約する者もいるがそんな者は百年に一人いれば良い方だと言える。
強い力を持った精霊と契約することが出来れば、どんな身分であったとしても重用される。
なぜなら、この世界での魔法とは契約した精霊の力を借り受けて行使する物であるため、精霊の力で威力は決まるのである。
「そういう訳でマリーロゼ、今回ゆうり様のように突然精霊が姿を現すことは王国史上おそらく初めてじゃないかな?」
マリーロゼに丁寧に説明を終えて、改めてゆうりの様子を観察する。
リチャード自身も、本当は半信半疑なのだ。
突然、精霊を名乗る白い狼が現れては疑念を抱くのもしょうがないと言える。
しかし、マリーロゼには言わなかったが精霊の機嫌を損ねることは自然を敵に回す事と同じなのだ。
もし、白い狼を精霊と認めずに疑って掛かり対応すれば、真実白い狼が精霊であった場合に被る被害は少なくないとリチャードは判断したのである。
「……そうなのですね。 あの叔父様、もう一つ宜しいですか?」
「うん、なんだい?」
「どうして、叔父様とヴィクターはお姉様が名前で呼ぶことを許した際に驚かれたのですか?」
不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる可愛らしい姪の姿に、緊張するべき場面であるが頬が緩みそうになってしまうリチャード。
誤魔化すように一つ咳払いをしてマリーロゼへと説明を続けるリチャード。
「……ああ、精霊は名を呼ぶことを許した者、つまりそのほとんどが契約者なんだけどね、それ以外の者に己の名前を呼ばれることをとても嫌う者が多いんだよ。」
「まあ、名前を呼ぶだけで怒ってしまうのですね。」
納得した様子で頷くマリーロゼの姿に、精霊に関する説明が終わったことを感じてゆうりは口を開いた。
「説明が終わったみたいだし、さっきの質問に答えるね。
私は、マリーロゼの魂が気に入ったから現れただけ。 契約じゃなくて友人という立場を望んだのは、マリーロゼがもうちょっと大きくなって自分の意志で判断して欲しいからだよ。」
「私の魂……?」
己の魂を気に入ったのだというゆうりの言葉に、マリーロゼは疑問の声を上げてしまうが、ゆうりはマリーロゼが視線を向けてくれた事に嬉しそうに笑みを浮かべ疑問に答える。
「そう、魂だよ。
精霊はね、力が強ければ強い程に人間の魂を感じ取る事が出来るんだよ。
そうやって、召還された時に契約するに値する人物なのか判断するんだ。
私から見たマリーロゼの魂はね、今はまだ蕾だけどいつかきっと、美しい大輪の薔薇のように堂々と誇り高く咲き誇ると感じたんだ。」
もっとも、私は貴女が生まれる前からずーっと大好きだったけどね、という想いは口にしないゆうり。
改めて、ゆうりは黄金の瞳に己の意志を強く込めて言葉を続ける。
「だから、まずは友人で良いから側にいちゃダメかな?」
真っ直ぐなゆうりの瞳と言葉にマリーロゼは、頬を赤く染めて照れてしまう。
「そんなに褒められてしまうと恥ずかしいですわ。」
その様子を見ていたリチャードは一つの決断を下した。
「分かりました。 マリーロゼ、将来契約をするかもしれない御方だ。
粗相の無いようにするんだよ、良いね?」
「分かりましたわ。 このマリーロゼ・エラスコットは貴族として相応しい行動を取って見せますわ。」
そのリチャードとマリーロゼの遣り取りをハラハラと見守っていたゆうりは、二人の出した結論を聞いて尻尾を振り回し、全身で喜びを表現する。
「やったあぁぁ! マリーロゼ、これからよろしくね。」
「はい、お姉様。 未熟者ではありますが、よろしくお願いします。」
嬉しさの余り尻尾を激しく振るゆうりと、己の側にいられることに此処まで喜んでくれるゆうりの姿にマリーロゼも笑みを浮かべ、二人は暫し笑顔で微笑み合うのだった。