精霊王とお忍び行動 後編。
いつも読んで頂きありがとうございます。
なんだか、ゆうりに真面目な感じで会話させると凄く違和感を感じてしまいました。
主人公である姫との出会いは13歳くらいのこと。
どの騎士団だったかは覚えていないけど、騎士団長の推薦で主人公である姫の護衛となった彼。
はじめは、とても冷たい彼だったけど主人公である姫との関わりを通して少しずつ彼の心の氷は溶けていく。
そして、乙女ゲームの物語の流れでは、主人公である姫は彼が異性からの恋愛感情を頑なに否定する理由である過去を知ることとなるが、それを二人の力で乗り越えてラスボス倒してハッピーエンド!!
貴族の血を受け継ぎながらもそれを知らずに育った従者兼護衛の彼、その出生ゆえにある事件が起きるまで孤児院暮らし設定だったのに主人公である姫の従者兼護衛に抜擢されたなんて、ちょっと無理があるでしょっ!と突っ込んだ覚えのある設定を持つ攻略対象者である彼。
銀の髪に、アイスブルーの瞳を持った主人公である姫の従者兼護衛となる予定の、"ユーグ・スターチス"だった。
乙女ゲームの攻略対象者である彼の姿を目の前に見て、ゆうりは彼のストーリーをなんとなく思い出していた。
「(え?本気と書いてマジと読む的な感じ?)
(うっわー、まさかの攻略対象の過去編的なっ!?)」
貴族と分かるゆうり達の姿を見て素直に驚いた顔をする幼い少女とユーグ。
そして、ブラッドフォードの手の中に風で飛ばされたシャツがあることに気が付き、ユーグと少女は顔を強張らせる。
「……このシャツは君たちのかな?」
その姿に苦笑してブラッドフォードは、出来るだけ怖がらせないように優しく声を掛ける。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
確かにそれは風で飛ばされた僕たちの物です。」
貴族であると分かる姿に怯えてしまっている少女がユーグの服の裾を掴み、不安そうな表情をする。
そんな少女を背中にかばうように隠しながら、ユーグは緊張した声でブラッドフォードの声に応える。
「あら、ダメよ、ブラッドフォード。
子供を怖がらせてはいけないわ。」
攻略対象者を見つけ、色々思い出したことを心の中で整理していたために考え込んでいたゆうりも、自身の思考の中より戻ってくる。
「はい、次からは気をつけてね。」
「あ、ありがとうございます。」
優しく微笑みながら、ブラッドフォードの手から受け取ったシャツをユーグに手渡すゆうりの態度に驚いた表情をするユーグ。
「……ねえ、少し聞きたいのだけど良いかしら?ここの塀に囲まれた場所が孤児院よね?」
「……そうですが……。」
シャツを何の問題もなく返して貰えたことに安堵した様子のユーグに、ゆうりはそのまま問いかける。
ゆうりの問いかけに緊張した面持ちで返事をするユーグは、一見すれば貴族令嬢に見えるゆうりを警戒している様子だった。
「ああ、勘違いしないでね。
私は、お父様がこの近くにある孤児院への寄付を考えていると話していたから、近くを通ったついでに一目見てみようと思って。」
「……僕たちのような者を気に掛けて頂けて嬉しく思いますが、貴族様にお見せするには余り綺麗な場所では無いかもしれません。」
ユーグが心の中で、貴族の我が儘令嬢の気まぐれかとばかりに思っていることを感じるゆうり。
「……そう。
ねえ、疑問に思ったのだけど、この塀の中から聞こえてくる声は小さな子の声ばかりね。
貴方くらいの年齢の子はいないの?」
ユーグの心になど気が付いていないとばかりに、ゆうりは我が儘令嬢の気まぐれを装って問いかける。
「孤児院の中で今は僕が一番年上です。
同じくらいの年齢の子は、寄付をして下さっている貴族様のお屋敷へ下働きとしての奉公が決まったと聞いています。」
「……そう。」
ゆうりは、ブラッドフォードとイザークへ目配せをする。
「……お姉様、そろそろ馬車に戻って帰らないとダンスのお稽古の時間に間に合いませんわ。」
目配せに応えてイザークがゆうりに声を掛ける。
「そうね、イザベル。
では、色々教えてくれてありがとう。ご機嫌よう。」
ゆうり達は彼等を見送る子供を残し、そのまま孤児院を後にするのだった。
「ゆうり様、気になっていたことは分かりましたか?」
王城へと向かう馬車の中でブラッドフォードはゆうりへと問いかける。
「そうだねえ、色々分かったよ。」
「……あれだけでですか?」
ゆうりの言葉にイザークは驚いてしまう。
「会話だけではないもん。心も読んだもん。
ちっちゃい精霊達の言う通り、ある程度大きくなった子供達は孤児院から姿を消す。
ちっちゃい精霊達は、人間の名前なんて覚えきれないからね。
連れて行った人間の特徴で教えてくれるけどさ、ひょろっとした男とか、背が高い男とかじゃあ判別付かないからね。」
ちっちゃい精霊達は可愛いから許しちゃうけど、とゆうりはイザークに応える。
「ゆうり様、私達にも教えて頂けませんか?
……少なくとも、彼女が真っ当な慈善家では無いこと、養子に貰ったはずの子供が病気療養を理由にしばらく姿を見た者がいないことなどは調べが付いています。
……そして、最近なにやら怪しい動きを一部の貴族達と共にしている事も。」
「ブラッドフォード達も調べていると思ったけど、正当な手段では屋敷に入ることが出来なくて決定的な悪事の証拠は得られなかったんでしょ?」
「……その通りです。」
ゆうりの言葉に申し訳なさそうにブラッドフォードは応える。
「……そうだねえ。
少なくとも、精霊達に辿って貰ったんだけど、彼女に関わる孤児院の奉公に出たはずの子供達はみんな死んでるよ。」
「……っっ。」
幼い子供達の残酷な結末に心を痛めるブラッドフォードとイザーク。
「そして、彼女は近いうちに大きな動きを見せるだろうね。
……どんなに犠牲を払ったとしても、彼女の願いは叶うはずが無いのにね。」
「ゆうり様?」
「何でもないよ。ブラッドフォード、見張りを置くならあの孤児院の少年を見張ると良いよ。」
「あの銀髪の少年ですか?」
「そう。
そして、彼女はマリーロゼにも眼を付けてるから。
あはっ、滅びたいならいつでも遠慮無く言えばいいのにね。
ああ、もうっ!
ほんっとうに、この国ごとさっさと滅ぼしてしまった方が世のため、人のため、マリーロゼのためだよっっ!」
マリーロゼを狙っていることに関して怒っているものの、一番簡単な力任せな解決方法を選択できないことに苛立つゆうり。
「「……」」
ブラッドフォードとイザークは、ゆうりの苛立ちと怒りを感じ、これから訪れるであろう波乱に頬を引き攣らせるのだった。




