契約精霊の指導 エリオット編。
夜も更けた王城内にある王の私室にて、その部屋の主であるエリオット・ジョージ・フォン・スピリアルは床に正座させられていたのである。
「……リ、リヒトよ。
な、なぜ、私は床に突然座るように言われたのだ?」
「ふふふ、分かりませんか?
エリオット、あの下郎達の処分が一刻も早く実行されるまでは先延ばしにしていた、我らが偉大なる精霊王様よりの勅命である指導を行うためですよ。」
にいぃっっこり、と光の精霊らしい容姿に力のこもった素晴らしい笑顔を浮かべるリヒトは宙に浮かび、エリオットを見下ろしている。
「うっ、お、覚えていたのか?」
「当然ではありませんか。
我らが初めて精霊王様より頂いた勅命を忘れるはずがありません。
……では、もう覚悟は決まりましたか?」
「まっ、待って欲しいのだがっ!」
「問答無用ですよ。」
優しく、穏やかな笑顔と口調とは裏腹に、エリオットの頭を鷲掴みにするリヒトの手は万力のようにギリギリと締め上げるのだった。
「では、まずは精霊王様に対する貴方達の態度に関してです。
人間如きが、森羅万象を司り、この世界を創造した謂わば万物の母とも言える、我らが偉大なる精霊王様に対する己が身を弁えぬあの言動の数々は一体何ですか?
僕は契約者である貴方の言動に、余りの恥ずかしさと申し訳なさにあの場から消え去りたくなりました。
それに、あのような痴れ者に人間の中では高い地位を与えたままにしておくなど、全くもって理解できませんね。
まあ、あの下郎と契約を交わしていた精霊は余りのことに、精霊王様にお見せする顔が無いと引き籠もってしまいましたが……。」
リヒトは、エリオットのゆうりに対する言動の数々を一つずつ取り上げては、駄目出しを行うを繰り返し、彼の話は当分終わる気配は無かった。
「うぅぅ、酷い目にあった。
私は、この国の王のはずなのに何なんだこの扱いは……。」
ギリギリと締め付けられた頭としびれてしまった足の痛みにぷるぷると身体を震わせ、涙目になってしまっているエリオットは、数時間に及ぶリヒトの説教という名の指導よりやっと解放されたのだった。
「おやおや、情けないですねえ。
第一、私達精霊に人間の中で順番付けられた貴賤など関係ないに決まっているでしょうに。」
笑顔を崩さずにリヒトは、指先でつんつんとエリオットのしびれた足をつつく。
「あひいっ!
や、止めてくれっ!
今の私の足に触ってはならぬっっ!!」
「そうなんですか?
人間とは、面白いですねえ?
……ここら辺はどうでしょうか?」
リヒトは面白いオモチャを見つけたとばかりに、いい笑顔を浮かべるリヒトから何とか距離を取ろうとするエリオットの足をつつきまくるのだった。
「うぐっ、うぅぅ……」
しびれた足をつつかれる痛みに耐えながらエリオットは思ってしまう。
"精霊王の機嫌を損ねたあの元公爵親子本気で処刑すりゃあよかった!"と、事の原因を作った存在に恨み言を思ってしまうのだった。
「……まだ、お解りではないようですね。
この僕が懇切丁寧に説明したというのに……。
根本の原因はあの下郎かもしれませんが、僕は貴方の言動にも十分怒っているんですよ。
……時間はありますし、もう一度最初から説明して上げましょう。
感謝などして下さらなくて結構ですよ。
これも、精霊王様の勅命を遂行するためなのですから。」
「……だ、だれか、嘘と言ってくれぬか……」
リヒトの言葉にエリオットの目の前はまっ暗に染まってしまう。
最初からもう一度懇切丁寧に説明を繰り返されるなど、とてつもない苦痛でしかなかった。
しかし、リヒトの指導は朝日が昇るまで決して途切れることはなかったという。
明くる日の執務室には、幼なじみ三人の同じような疲れ果てた姿があったのだった。
彼等は心の中で一様に、決してゆうりの機嫌を損ねるような真似は二度としまいと固く誓うのだった。




