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精霊王様は悪役令嬢の幸せを望む!!~それ以外は絶対お断り!~  作者: ぶるどっく
精霊王は慧可断臂(えかだんぴ)の決意を示す!
32/201

精霊王と開会の宣言。

「精霊王陛下、このバルトルト感服いたしました!

 マリーロゼのためにここまで考えて頂けるとは光栄の至りに存じます。」


 バルトルトは、ゆうりのマリーロゼへの愛情の深さを知った。

 それゆえに、ゆうり自身の思いすら押さえ込んでマリーロゼが納得するように判断を下す事を優先して、バルトルト達の手に判決を委ねようとしてくれている事に深く感謝した。

「バルトルトが、納得してくれて良かったよ。

 さすがにマリーロゼのお父さんにあんまりにも酷いことはしたくないからね。

 ……あ、朗読会は別だから。」

「……。」

 バルトルトは、無言で項垂れてしまった。

「さて、彼等の話はここまでにしておこうかな。

 次の話しに行くよ。」

 ゆうりは、話題を移すことを宣言する。

 端っこに非難していたエリオットは何かを言いかけたが、言葉にすることは出来なかった。




パンッパンッ


 ゆうりが二回手を叩けば、倒れている公爵親子は別の客室にあるベッドの上に転移し、自室で騒ぎが治まるのを静かに待っていたアイオリアの姿が突然現れ、バルトルトの腕の中に抱きとめられる。

「えっ?!ちっ父上っ!

 ぼ、僕は何故父上に抱き上げられているのですかっ?!」

「アッ、アイオリア?!」

 突然自室にいたはずが、気が付けば父親の腕の中にいたことにアイオリアは驚きの声を上げる。

 バルトルトの方も、突然腕の中に現れた愛息の姿に戸惑いの言葉をあげてしまう。

 そんな二人の姿を横目に見ながら、ゆうりはもう一度両手を叩く。


 すると、部屋の奥に掛かっていた御簾が上がり始め、可愛らしい歌や舞を舞う精霊達に囲まれ、桜が側に寄り添っているマリーロゼの姿が現れる。

 御簾が上がり、ゆうりや父親だけでなく、見慣れない人物達の姿に気が付いたマリーロゼは子どもらしい雰囲気を打ち消し、令嬢としての雰囲気を身に纏う。

 その場にマルセルの姿はなく、服装などより高位貴族だと判断できる見慣れない二人の人物に対して挨拶もせずに妖精達の演舞に夢中になっていた己をマリーロゼは恥じる。

「……お父様、お客様がいらっしゃっていることに気が付かなかったばかりか、マルセル様と口論した挙げ句の果てに、マルセル様達をお見送りすることも出来ず、全てはこのマリーロゼの不徳の致す所。

 本当に申し訳ありません。」

 父親であるバルトルトに対して深く頭を下げるマリーロゼ。

 そんな姿をアイオリアを下ろしたバルトルトは苦い表情で見つめる。

 バルトルトは、マリーロゼを責めるつもりはなかった。

 公爵子息の愚かさに気がつけず、彼等との縁談話に頷いてしまった自分にも責任の一端はあるのだから。

 しかし、それを口にすることは叶わず、強張ってしまった表情が余計にマリーロゼに勘違いをさせてしまっていることに、バルトルトは気がつけなかった。

「その事は構わん。

 それよりも、二人とも陛下達にご挨拶を。」

 マリーロゼとアイオリアは陛下という言葉に目を見開く。

 そして、緊張した面持ちで声が震えないように名前を述べる。

「バルトルト・フォン・イスリアート公爵が嫡子、アイオリア・フォン・イスリアートと申します。」

「同じく、バルトルト・フォン・イスリアート公爵が一子、マリーロゼ・アウラ・イスリアートと申します。」

 二人は、恭しい態度で礼をエリオットとブラッドフォードへ送る。

「うむ、さすがバルトルトの子息達だ。

 私は、スピリアル王国を治める王、エリオット・ジョージ・フォン・スピリアルと申す。

 この場は、私的なものであるがゆえに楽にするがいい。」

 エリオットは、久方ぶりのように感じる王としての扱いにちょっと感動していた。

「本当に立派な子達だね。

 私は、近衛騎士団団長、ブラットフォード・フォン・アルトノス。

 バルトルトとは、幼なじみなんだよ。」

 二人の可愛らしい様子に頬を緩ませ、癒されるブラッドフォード。

「……二人とも、挨拶が終わったのならば下がっていなさい。

 お前達がこの場にいる必要は無い。」

 バルトルトの眉間にしわを寄せた不機嫌そうな様子に二人は俯きながら、父親であるバルトルトの態度から何か粗相をしてしまったのだと判断し小さく返事をする。

 せめて、これ以上バルトルトに恥ずかしい思いをさせないように細心の注意を払って、退室の言葉を紡ごうとする二人の声を遮るゆうりの声が部屋に響き渡った。


「"○年☆月×日"

 "クリスティーナが、私の嫡男を産んだ。"

 "産まれたばかりの我が子は、余りにも小さく触れる事すら躊躇う程に愛しく想った。"

 "この小さな命を何があっても守りたいと心から思ったのだ。"」


「なっ、なっ、何をされているのですかあぁぁっっ!!」

「えっ?誰かさんの日記の朗読。」

 ゆうりが何を読み始めたのか察したバルトルトは、顔を真っ赤に染め上げて狼狽えながらもゆうりへ手を伸ばす。

 しかし、そんなバルトルトの手を華麗にくぐり抜け、ゆうりは笑顔でとどめを刺すかのように言い放つ。

「良い機会だからさ、いい加減子どもたちとの溝を埋めるべきだと思うんだよ。」

「溝……?」

 マリーロゼの分からないとばかりの疑問の声に応えるように、ゆうりは笑みを向ける。

「そう、溝だよ。

 ねえ、マリーロゼ、アイオリア。

 君たちの誕生日に必ず差出人不明の贈り物が届くでしょう?

 そして、屋敷の人達は決して誰が送り主か分からないはずなのに、危険ではないから受け取るように言うでしょ?

 ほーんと、素直になれない誰かさんを見てて、屋敷の人達はヤキモキしたでしょうね。」

「……まさか……?」

「……父上なのですか?」

 二人の子どもたちは一つの結論に達して、期待を込めた眼差しを己の父親であるバルトルトに向ける。

「ぐっっ」

 二人の期待のこもった眼差しを受けて、バルトルトは何も言えなくなってしまう。

 何も言ってくれない父親へ徐々に二人の表情は悲しみに染まり始める。


「さーてっ!

 これより、ゆうりちゃんの楽しい朗読会の始まりだよ!

 演目はなんとっ!

 冷酷無慈悲の鉄面皮と謂われし、黒衣の公爵閣下の子どもたちへの愛情籠もった本音を纏めた日記だよっ!!

 特にマリーロゼとアイオリアは良く聴いてっ!

 君たちはこんなにも愛されていたのさっっ!!」


 芝居がかった口調で宣言するようにゆうりは言葉を紡ぐ。


「……まあ、マリーロゼの大切なお父さんだからね。

 武士の情けってことで、セレナーデさんへの小っ恥ずかしい愛の詩は朗読しないで上げるね。」


 バルトルトにだけ聞こえるように風に乗せて小さく呟いたゆうりの声にビクリと身体を震わせてしまうのだった。




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