精霊王と進まないお話。
読んで頂きありがとうございます。
気が付いたらPVが500,000を突破していました。
これも皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
「まったくもう、話がそれちゃったじゃん。」
「……。」
優雅に数人がけのソファに腰を下ろして座り不満げな顔をしているゆうりの周りには、三人が部屋に入った時は"黒髭危○一髪~アーノルドバージョン~"に気を取られて気が付かなかったが王や側近達の契約精霊達が恭しく従っていた。
「陛下、どうぞこちらをお召し上がり下さいませ。
人間の作ったものですからお口に合うか分かりませんが、少なくとも人間の食べ物の中では最高級なものを材料とした菓子にございます。」
「菓子も良いですが陛下、こちらもご覧下さい。
北の大地で眠っている鉱石を眷属達と共に加工して作りました。
是非、陛下に献上させて頂きたく。」
「まあ、陛下。
もし宜しければ陛下のお心を慰められますように、私の舞など如何でしょう……?」
ゆうりに果物をふんだんに使った焼き菓子を差し出しているのは、国王エリオットの契約精霊である少年の姿をした光の精霊"リヒト"。
北の大地を故郷に持つブラッドフォードの契約精霊である大きな獅子の姿をした炎の精霊"レーヴェ"は、口にくわえたカゴの中にある大粒の宝石の付いた髪飾りを献上しようとしている。
ゆうりを楽しませようと繊細なレースで飾られた白い衣装に身を包んだ清楚な少女の姿をしたバルトルトの契約精霊である氷の精霊"シュネー"は舞を舞うことを提案する。
そんなゆうりの目の前に何故か正座で横一列に並ばされているのは、バルトルト、エリオット、ブラッドフォードだった。
自分たちの契約精霊のいつもとは違う様子を見て、言葉を無くし力ない笑顔を浮かべるしかなかったのである。
「(……彼女は本当に精霊王だったのか。)
(……絵画の中では絶世の美女か、老人の姿で描かれていることが多いのだけどね。)」
「……絶世の美女でも、老人でもなくて悪かったね、ブラッドフォード。
あは、今すぐ猿ぐつわを噛ませて縛り上げて、広場に逆さ吊りにしてあげようか?
"ロリコン変態野郎を制裁中!!"って、実名付きの看板を立てた横にさ。」
「未だに疑っていた挙げ句、余計なことを考えて申し訳ありませんでしたっっ!!
だから、そのお仕置きは勘弁して下さいっっ!!
それに私はロリコンではありませんっっっ!!!」
『(アホだな……)』
再び床に頭を付ける程に下げたブラッドフォードを横目に見て、呆れた視線を送ってしまう幼なじみ二人だった。
「まあ、良いよ。
三人には、それぞれの契約精霊からみっちりと指導をして貰えばいいからね。
あ、レーヴェは特に厳しくお願いね。」
「畏まりました。」
「お任せ下さいませ。」
「契約した人間が大変失礼いたしました。
必ずや、陛下のお心に添えるように指導いたします。」
三人の契約精霊達は、ゆうりへ向けるのとは違う厳しい瞳をそれぞれの契約者へ向ける。
その中でも、ブラッドフォードの契約精霊であるレーヴェは視線だけで相手を焼き尽くせそうな程に苛烈なものだった。
三人は彼等からの指導という名の叱責を想像し、顔を真っ青にして脂汗を流してしまうのだった。
そんな遣り取りに興味がないのか、新緑色の髪をツインテールにした"少女"は気絶してピクピクしているアーノルドが面白いのか棒の先で突っついている。
「あ、こら。
雛菊ってば、ばっちぃからつんつんしちゃ駄目だよ。」
「うに、ママ上様、ごめんなさーい。」
少女、雛菊の行動に母親が小さな子どもを叱るような言葉を言うゆうり。
ゆうりに対して、純粋無垢な笑顔を返し、ゆうりの横に一緒に腰掛ける。
「……あの、そのお方は一体……?」
恐る恐る尋ねてくる王、エリオットの言葉にゆうりはあっけらかんと応える。
「ああ、雛菊のこと?
最高位精霊の一人で、風を司る精霊、雛菊よ。」
「うにゃ、ママ上様の言葉通り風を司る最高位の精霊だよ。
でも、雛菊って呼ばないでね。
人間はシルフって呼べば良いよ。」
雛菊はふにゃふにゃとした笑顔を浮かべながらも雛菊は三人には興味ないのか、リヒトの持っていたお菓子に手を伸ばす。
『……。』
伝説の中でしか聞いたことの無いような人物と出会ったばかりか、イメージとは違う人物像に三人の精神は憐れなことにガリガリと削られっぱなしだった……。
「ああもう、本当に話が進まないなっ!
次に話の腰を折った奴は問答無用で、マルハゲの刑だからねっ!!」
『!!』
話しが進まないことにいい加減苛立ったゆうりの言葉に三人は戦慄し、あまりの内容に抗議の悲鳴をあげそうになったが根性で耐えた。
そして、決してゆうりに話を振られるまでは口を開かず、心を無にしようと無駄な努力を始めた。
「よし、静かになったね。」
三人の反応をご満悦名笑顔でうんうんと頷くゆうり。
そして、ゆうりはまるで世間話をするように話し始めた。
「んーとね、まずは一応職業王様やってるエリオットにやって欲しいことがあるんだよね。」
"一応"や"職業"と行った言葉に反応しそうになった三人は余計な突っ込みや疑問を浮かべないように根性で耐えた。
「まずは、私が納得するように最高速度で其処の糞ガキと糞父公爵をお片付けして。
まあ、私の意見を求めるのは構わないよ。
出来なかった時は、連帯責任と言うことで彼に領地含めて……ね?
あと、これはリチャードにもお願いしたことだけどさ、今から言う三つのことを守って欲しいな。
ひとーつ、私がマリーロゼの側にいることを邪魔しないこと。
ふたーつ、私が精霊王であることは私が許した人間以外誰にも言わないこと。
マリーロゼにはこの後私が自分でばらすから。
みっつ、私のお願い事を出来るだけ聞くこと。
リチャードが守れるんだもん。余裕でしょ?
あ、あと、今から質問とか受け付けるよー。
マルハゲ無しでーす。」
けらけらと笑うゆうりへ精霊王の加護を持っているはずのスピリアル王国の国王と側近達は、夢ならば今すぐ醒めて欲しいと強く願わずにはいられなかったのだった。




