精霊王と作戦会議!
「さーて、じゃあ、そろそろ作戦会議と行きますかっ!」
夜も更けたリチャードの自室には、部屋の持ち主であるリチャードと妻のアイリーン、執事のヴィクターが居た。
「……あの、ゆうり様、これは一体……?」
「ふふんっ。
題して"マリーロゼの幸せを邪魔する奴は滅ぼしちゃうぞ"作戦会議でーす。」
白い毛皮に覆われた胸を張って、ゆうりはリチャードの疑問に答える。
「……えっと、ゆうり様。
要するに、公爵家へ連れて行かれてしまった後のマリーロゼをどのように守るか、という事で宜しいのかしら?」
首を傾げて、ゆうりへ尋ねるアイリーンへゆうりは元気よく答える。
「そういうことだねっ!
私としては全部国ごと滅ぼしちゃった方が早いけど、マリーロゼは嫌がりそうだからね。」
「……滅ぼす時は、この男爵領だけは見逃して下さいね。」
「だ、旦那様、しっかりして下されっ!
眼が死んだ魚のようになっておりますぞっ!!」
ゆうりの言葉を受けて、眼を虚ろにしてしまっているリチャードが呟く。
そんなリチャードをしっかりしろとばかりに、ヴィクターは叫び声を上げる。
「……ゆうり様がマリーロゼについて行く事は決定なのですね?」
「……公爵家ですからね、一目で高位精霊と分かる存在が側にいる事を喜びこそすれ、嫌がりはしないでしょう。」
「それなんだけど、精霊じゃなくてただの"狼"として一緒に行けないかなあ?」
『!!』
ゆうりの一言に、部屋にいた三人は驚いてしまう。
「何故ですか?
精霊として一緒に行けばマリーロゼの待遇も良いでしょうし、堂々と守る事も出来ます。
正体を隠す必要など無いでしょう?」
「そうですわ、高位精霊が側にいる事は公爵から見ても魅力的に映るはずですわ。」
「旦那様達が仰るとおりにございます。
わざわざ隠す必要は無いのではないかと愚考いたします。」
ゆうりの考えを、三人は理解できない様子でそれぞれに意見を述べる。
「んー、私もさあ、最初は堂々と精霊として乗り込むつもりだったんだけどね。」
「ならば……」
「……ちょっと、気になる情報を小耳に挟んじゃったんだよね……。
それに、精霊を連れているから特別扱いをする姿を見たって公爵の真意はわかんないしね。」
ゆうりは、敵の情報を知っておく事は勝利を得るために必要な事だと言わんばかりに、精霊達へお願いして情報を集めていた。
そればかりか、公爵自身の契約精霊から口止めをした上で面談をするように直接話を聞くなど情報収集に余念は無かった。
その情報収集を通して得た、ある気になる情報に関してゆうりはリチャード達に話して聞かせるのだった。
「……あり得ません、誰ですかそれは?
あの公爵の話しだとは絶対に思えません。」
「……にわかには信じがたい話しですわ。」
ゆうりが話した内容が、余程信じられないのか三人は疑いの眼差しを思わずゆうりへ向けてしまう。
「私だって、聞いた時は信じられなかったもん。
でも、実際に確認しに行ったけど本当だったし……。」
「だって、あの公爵ですよ?
冷酷無慈悲の鉄面皮、泣く子も怯える黒衣の宰相閣下ですよ?」
「……。」
信じられないとばかりのリチャードのあまりな言い分に、ゆうりも心の中では同意してしまう。
それでも、ゆうりは信じて貰うための証拠として用意していた"有る物"を三人へ見せ、それを見た三人はまるでこの世の終わりだとばかりの表情で、納得する以外はなかったのだった。
「……えっと、ごめん。
ある意味、公爵を見る目がめちゃくちゃ変わるよねえ。」
そんな事を呟きながらゆうりは証拠を手早くリチャードのベッドの下に片付けようとする。
「ゆうり様っ!
後生ですから、そんな物を私のベッドの下に入れないで下さいっ!
絶対に悪夢に魘されてしまいます!!」
そんなゆうりをリチャードは必死になって止めるのだった。
ゆうりは公爵の真意を確かめることと、彼等のマリーロゼへの対応が乙女ゲームと同じにならない事を願いながら、マリーロゼと共に王都にある公爵家の屋敷を目指すのだった。
マリーロゼに飼われている普通の"犬"として……。




