閑話 ある伯爵家での出来事。
--何故こんな事になってしまったんだ!!
暗いじめじめとした独房の中で、肥え太った一人の男が頭を抱え今までの行動を思い起こしていた。
そう、全ての始まりは数日前の豪奢な調度品を集めただけの美しさや気品などとは、ほど遠い伯爵家の屋敷で起こった。
屋敷の主であるコガネスキー伯爵はその日、金で買い漁った自慢のコレクションを見せびらかすために夜会を開いていた。
最初は特にトラブルも起こる事はなく、自慢のコレクションの数々を褒め称える客の言葉に上機嫌で過ごしていた。
しかし、途中から夜会の空気に変化が起こり始める。
最初の異変は、客の一人であった"とある子爵"の"カツラ"だった。
突然、測ったかのように酒に火照った身体を醒ますために開け放たれていたバルコニーの窓から入って来た突風が、窓の側にいた子爵の頭に乗っていた"カツラ"を綺麗に吹き飛ばしてしまったのだ。
吹き飛ばされた子爵の"カツラ"は美しい放物線を描き、コレクションの一つだった裸の女神像の頭に着地した。
最初は何が起こったか分からなかった子爵だが、会場の貴族達の視線が己の頭の上に注がれ、クスクスと笑い声が向けられている事に気が付き、有るべきはずの物が無い事に顔を真っ青にさせる。
慌てて頭を隠して宴の会場を飛びだそうとする子爵の足が"何か"に躓いてしまう。
そして、勢いよく転びそうになった時に手元にあった"もの"を掴んでしまった。
「……っっ!
きいぃぃっやあぁぁぁっっ!!!」
子爵が掴んでしまった"もの"。それは、"とある男爵夫人"のドレスのスカートだった。
スカートはまるで"切れ目"が入っていたように綺麗に腰から下が破けてしまい、観衆の面前に男爵夫人はふくよかな下半身を露出してしまう。
男爵夫人が声を上げれば、その声に驚いた"誰か"が、"とある男爵"の背中を押し、とある男爵は側にいた顔見知りの豪奢な"とある伯爵婦人"を押し倒してしまう。
その姿を男爵の妻と何故か参加していた愛人に見咎められ、偶然押し倒してしまっただけのとある伯爵婦人までもを巻き込んで、"なぜか"側にあったテーブルのナイフやフォークを用いての刃傷沙汰にまで発展する。
その挙げ句の果てに、彼等"とある4人の貴族"が契約を交わしていた精霊の力を"使って"それぞれに魔法を発動する。
コガネスキー伯爵がせっかく招待していた貴族達は悲鳴を上げて、この阿鼻叫喚の修羅場となってしまった屋敷から我先にと逃げだし始めた。
残されたのは自慢のコレクションも、屋敷もめちゃくちゃに破壊されたコガネスキー伯爵と、騒ぎを聞きつけやって来た騎士団に連行を求められた"4人のとある貴族"だけだった。
その後、この一件を重く見た王家の指示のもと魔法を発動させた貴族4人はそれぞれに重い処罰が言い渡さた。
そして、コガネスキー伯爵もこの一件の捜査中に発見された様々な"隠して"いたはずの賄賂の証拠や、悪事の証拠などにより重い処罰が言い渡されたのである。
しかし、不思議な事にとある貴族4人は口をそろえて証言したそうだ。
"自分たちは魔法を発動していない"と……。
そしてさらに不思議な事に、彼等と契約していたはずの精霊達はすでに契約を破棄していたのだった。
「……マリーロゼを侮辱するような馬鹿どもはちゃーんと片付けなきゃね。
ま、命があっただけ良しとしなよ……、お馬鹿さん。」
重い処罰を言い渡されて、さらに契約精霊にも見限られた彼等の落ちぶれていく姿を空の上から眺めて、鼻で笑うとある白い大きな狼がいた事は……、誰も知らない話である。
「あ、コガネスキー伯爵だっけ?
ある意味とばっちりだけど、マリーロゼに目を付けてた事は知ってたんだよね-。
あはっ、一緒にお片付けできて良かった、良かった。」
そんな笑顔を残して、白い狼は大空を愛しい少女の元へ駆けて行くのだった。
読んで頂きありがとうございます。
マリーロゼを侮辱したお馬鹿さん達を無事にゆうりは仕返しをする事が出来ました。おそらく、ゆうりも多少の溜飲を下げたかと思います。




