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精霊王と予期せぬ出会い。

いつも読んで頂きありがとうございます。

なかなか物語が進ませる事が出来ず、やっと少しだけ進ませ乙女ゲームの主人公の攻略対象の一人である人物を登場させることが出来ました。

もう少し速い展開で進ませたいと思っているので、できる限り頑張りたいと思います。


「やっったあぁぁぁぁ!!

 マリーロゼが契約してくれるぅぅぅっっ!!!」


 マリーロゼの言葉を受けて、ゆうりは全身で歓喜の気持ちを表現する。


「お、お姉様っ! 落ち着いて下さいましっっ!!」


 喜びのあまり興奮したゆうりは、縦横無尽に飛行速度を上げて飛び始める。

 人間の眼には見えなくなり、冷たい風を遮る結界は有ったとしても、ジェットコースターのようなゆうりの飛び方は、マリーロゼには楽しいというよりも恐いものでしかなかった。

 悲鳴を上げ始めたマリーロゼの声にゆうりは一気に現実に引き戻され、落ち着きを取り戻す。


「うわあぁぁっっ! ご、ごめんねっっ、マリーロゼ!! だ、だいじょうぶだった?」

「……酷いですわ、お姉様。」

「ご、ごめんなさいぃぃぃっっ!!!」


 いまだに空中ではあるが、やっと高度と速度を下げて浮かぶように飛び始めたゆうりに対し、涙目になりながらマリーロゼは非難の声を上げる。 

 そんなマリーロゼの様子に謝罪の言葉を狼狽して、叫ぶように発しながらゆうりはひとまず地面へ着地しようと周囲を見回し始めた。

 

「貴方達はいったい……?」


 そんな二人へ、声を掛ける者がいた。

 ゆうりはその声と何処に自分たちがいるのかを気が付いて思わず顔が引き攣った。


 なぜならば、ゆうり達がいたのはスピリアル王国を統べる王の居城である王城の上空にいたのである。

 そして、ゆうり達に声か掛けた人物は王城のバルコニーに立っていて、空中に浮かんでいる自分たちを見上げていたからだった。

 思考が固まってしまったゆうりの脳裏に一人の攻略キャラが思い浮かぶ。

 

 乙女ゲーム、“百花繚乱~魔法の国で恋は花咲き、咲き誇る~”の主人公である姫君の兄として登場する人物。

 同時に、禁断の道へ入ってしまうがゆえに隠れ攻略キャラだった“存在”。


 夕日のように深く美しい色合いのの赤銅色の髪、強い信念を宿した黄金の切れ長の瞳、まだ幼さは残るが整った端正な顔立ち。

 スピリアル王国第一王子にして王位継承権第一位の持ち主、ジークフリート・ピオニー・フォン・スピリアルだった。


 

 彼と顔を合わせるつもりも、王城に近づくつもりもゆうりにはなかった。

 大切なマリーロゼを主人公の攻略対象である人物と会わせたいなどと思う訳がないのである。

 そんなゆうりの背中にいたマリーロゼは、ゆうり以外の声が響いた事に驚きバランスを崩してしまう。


「きゃあっ!」

「危ないっ!」

「っ!!」


 マリーロゼの小さな悲鳴に、意識を取り戻したゆうりは己の背中から落ちてしまったマリーロゼを追いかけるよりも、風を使って浮かび上がらせる事を選択する。

 そのまま静かにバルコニーへ下ろすつもりだったマリーロゼを抱きとめる者がいた、件の王子様(ジークフリート)である。


「……君は……。」

「……。」


 二人の眼差しが重なり合い、ジークフリートは徐々に熱が籠もり始めた視線をマリーロゼへ向け、マリーロゼは真っ直ぐに見つめてくるジークフリートの視線が恥ずかしいのか頬をバラ色に染め上げる。


 まるで、世界には二人しかいないかのような雰囲気を醸し出し始めていた。


「……あの……、危ない所を抱きとめて頂きありがとうございます。

 その、ご迷惑をお掛けしてしまって……。」

「……迷惑などと思うはずがありません。 貴方に怪我が無くて良かった。」


 頬を染めながら、抱きとめてくれた事へマリーロゼは羞恥から小さくなってしまった声で囁くように感謝の言葉を伝える。

 そんなマリーロゼから視線を外すことなく、ジークフリートは柔らかな微笑を持って答えた。


「あ……、えっと……。」 


 そんな異性として魅力的に映るジークフリートの微笑みを間近で見てしまい、戸惑ってしまったのかさらに顔を紅く染めて羞恥心から俯いてしまう。


「まるで月の光のように麗しくも可愛らしい人、貴方の名前を私に教えて頂けませんか。」


 ジークフリートは、そっとマリーロゼをバルコニーへ降ろしてその前に跪き、愛を請うようにあつい熱をはらんだ瞳でマリーロゼの片手に口づけながら名前を教えて欲しいと懇願する。


 その姿はまるでお伽噺の騎士が姫君に忠誠を誓う姿か、はたまた王子様が愛しい姫君の愛を請うような一場面だった。


「その子に近寄るなぁぁぁっっ!! 猫かぶりっ! 女の敵っ! 腹黒王子ぃぃぃっっ!!!」


 片手の口づけながら上目遣いで己を見つめてくる熱をはらむジークフリートの瞳に促されるように、己の名前を告げようとしたマリーロゼを遮る者がいた。


 ……無視され続けていたゆうりである。


「っ?!」

「きゃっ!」


 二人の世界を展開していた所に、突然の闖入者が現れ二人は驚愕の声を上げる。

 ゆうりはマリーロゼを風を使って背中に乗せると、すぐに天高く飛び立つ。


「待てっっ!! 私の姫君を連れて行くなっっ!!」

「誰がお前のだっ!! 腹黒王子ぃぃぃっっ!!!」


 王子であるジークフリートの叫び声に慌ただしくなり始めた王城へ背中を向け、ゆうりは男爵家へ猛スピードで逃げ帰るのだった。


 会わせたくもなかった人物へ自身の落ち度でマリーロゼを会わせてしまった挙げ句に、男爵家に戻ってからも危ない飛び方や速すぎる速度で飛んだ事をマリーロゼに窘められ、マリーロゼを助けた人物への態度に対しても不満を告げられて落ち込んでしまうゆうりだった。




 だが、関わっていなかったはずが一番巻き込まれて苦労を背負ってしまったのは、この人物だったかもしれない。


「りちゃーどぉぉぉっっ!!」


 男爵領内の陳情書など、書類整理も終わりそろそろ就寝しようかと考えていたリチャードの仕事部屋の扉を、激しい音を立てて蹴破るような勢いで入ってきた白い塊がいた。


「なっ?! 何事ですかっ、ゆうり様っっ!!」

「まりーろぜがぁぁっっ!!」

「っ! マリーロゼがどうしたんですかっ?!」


 ただ事ではない様子のゆうりから、大切な姪に名前が飛び出してきた事にリチャードは動揺する。

 思わず重厚な作りの仕事机の上に両手を突いて腰を浮かせてしまう。


「マリーロゼに会わせたくなかった奴を会わせたちゃったようぅぅ……。」

「……は?」


 続いて紡がれたゆうりの言葉に思わず、眼が点になってしまう。


「……一体誰に会わせてしまったのですか?」


 リチャードは頭痛を覚えながらも、あぐあぐと狼の姿でありながら器用に涙を流すゆうりへ律儀に問いかける。


「この国の腹黒王子だよぉぉ。」

「……はらぐろ?……王子?」

「うん、第一王子だったと思う。」

「……。」


 リチャードには、ゆうりの言葉がすぐには理解できなかった。

 しかし、時間が経つにつれてその言葉の意味を少しずつ解きほぐし、理解しようと思考回路は動き出す。

 そして、理解したと同時に目の前の人物が精霊王である事も頭の中から吹き飛び、思わず叫び声を上げてしまうのだった。


「な……何やってんですかぁぁぁっっ!!」

「うぅぅ、まじでごめん。 私だってさ、マリーロゼの言葉が嬉しすぎて何にも考えて無くて、まさかお城の上を飛んでるとは思ってなかったんだもん。」

「……マリーロゼと一緒にですか?」

「……人間に見えないように結界は張ってたんだよ。

 でもさ、腹黒王子に会って思いだしたんだもん。 この国の王族の一部が、精霊を見る事が出来る"眼"を持っているって。」

「貴方様が与えた力でしょうに……。」


 しょんぼりとしているゆうりへ、疲れたようにリチャードは言葉を返す。


「違うもん。 私は、あんな“眼”をあげた覚えは無いよ。 多分、最高位の精霊の誰かじゃないかな。」


 その言葉にリチャードは、驚いてしまう。


「……“精霊王の加護が在りし”というのは違ったのですね。」

 

 リチャードの言葉のように、この国を讃える言葉の冒頭には“精霊王の加護”という言葉が使われる。

 この国の王族には、強弱は有るものの“精霊の瞳”と呼ばれる瞳を持って生まれる者が多く、それこそが精霊王の加護の証だとされていたのだった。


 “精霊の瞳”は、周囲にいる具現化していない精霊の姿を見る事が出来る瞳であり、召還の議を行わなくても精霊の姿を認識し、言葉を交わす事ができるのである。

 そのため、リチャードはゆうりと出会ってからは建国時の王族周辺に精霊王であるゆうりのお気に入り、すなわちマリーロゼのような存在がいたのだと思っていたのだ。

 

「マリーロゼ以外の人間を加護したいなんて思った事は一度もないよ。

 ああ、もうっ!! あの腹黒王子っ! 絶対マリーロゼに見とれてたっ! 邪な感情抱いてたっ!!

 絶対、ぜーったいっ、マリーロゼは誰にも嫁にさせたりしないんだからっ!!

 そうだよっ、マリーロゼを嫁にしたくば私を倒せるような奴じゃなきゃ認めないんだからぁぁっっ!!」


「いや、精霊王を倒すとか無理でしょう……。」


 小さなリチャードの突っ込みは興奮したゆうりに届く事はなかった。

 そして、興奮冷めやらぬ勢いでそのまま王城を吹き飛ばそうと考え、行動しようとしたゆうりを必死で止めるリチャードの姿が有ったのだった。



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