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ゆうりと一緒に入学した者達。

いつも読んで頂きありがとうございます。

第七章が終わり、少しだけ短編を挟んで本格的に学院編を更新していきたいと思っています。

これからも、どうぞよろしくお願いします。


 王立エレメンタル学院の入学式を終えたアルテミス王女ことゆうりは、王族専用のサロンにてぐったりとしていた。


「うぅ……疲れたよう……あんな言葉遣いは私の柄じゃ無いよ。」

 何の罰ゲーム?、と己の言動を振り返り悶えるゆうりの姿にマリーロゼ達は微笑んでいた。

「うふふ、お疲れ様でしたお姉様。 とても素晴らしいお姿で、私も見習わねばと思いましたわ。」

「……母君はあんな言動も出来たんですね。」

 微笑み労いの言葉をゆうりに掛けるマリーロゼの隣には、ムスッと不機嫌そうな表情をした柊が座り、その隣には着慣れない服装に首元が堅苦しいのか緩めようと触りながらゆうりへと意外そうな言葉を掛ける蓮の姿が有った。

「オーホッホッホッホッホッ! わたくしと致しましては、ムッティらしくもっと華々しい舞台の方がより素晴らしいものになったと思いますわっ! 次の機会がありましたら、是非このわたくしに会場の飾り付けを任せて頂きとうございますっ!」

「絶対に頼まれる事は無いと思うわあん。」

「それだけは絶対に止めた方が良いな。」

「アホの桔梗に任せたら大惨事になるだろうが。」

 高笑いをする桔梗に対して冷静な表情で突っ込む牡丹と、その牡丹の言葉に同意するように柊と蓮も言葉を続ける。

「そうですわね! きっと、わたくし美的感覚に感銘した人間達により、わたくしの争奪戦が始まって大惨事になるやもしれませんわね!!」

 嬉しそうに頬を染めて、照れ笑いを浮かべる桔梗に対して部屋の中に居た全員の心境は一致した。“絶対に有り得ない”、と……。


「本当に桔梗はどんな時でも通常運転だねえ。……まあ、桔梗に関しては面白そうだから入学組に入れたんだし良いんだけどね。」

 苦笑するゆうりの周りにいるマリーロゼを含む彼等最高位精霊達は、ゆうりと同じように15歳程度に外見を変化させて王立エレメンタル学院の制服の一つである入学式などのイベント専用の礼服に身を包んでいた。

「……お袋、桔梗の事はどうでも良い。 だが、なんでこの人選なんだ?……どう考えても、俺は裏方だろう?」

「あらん? 良いじゃない? 柊ったらその服もとーってもお似合いよん。……いっそのこと、もの凄く似合って嬉しそうにしていたあの着ぐるみ姿で入学すれば良かったのに。 ぷぷっ」

「……嬉しくないっっ!! あれはお前が嫌がる俺に無理矢理着せたんだろうがっっ!」

 牡丹の言葉にさらに眉間に皺を寄せて柊は抗議するが、牡丹はクスクスと柊の着ぐるみ姿を思い出し笑うだけだった。

「着ぐるみを着て恥ずかしそうに涙目になってた柊の姿はちょっと可哀想だったかな? まあ、写真はしっかりと撮ったけど。……あー、人選の理由だったっけ?」

「ちょっと待てっ?! お袋今なんて言った?!」

 ゆうりの言葉に慌てて詰め寄る柊に対して、目線を反らすゆうりへ牡丹だけでなく桔梗とマリーロゼもその写真に興味を示す。

「マードレ、後で妾にもちょうだい?……ばらまくから。」

「ムッティっっっ! わたくしにもプリーズ!!……ふふふ、萌のネタに……」

「……お姉様? 私にも後でこっそりと見せて頂けませんか?」

「……マリーロゼまで……」

 まさかのマリーロゼまで己の着ぐるみ写真を見たがった事に、ショックを受けてしまった柊は部屋の隅で膝を抱えてしまった。

「母君、柊の写真なんざどうでも良いから人選の理由とこれからの事を話し合うべきだ。」

「そうだね、写真のことはあとで個別対応するよ。……えっと、人選の理由は蓮は頭脳要員、柊はマリーロゼの盾要員、桔梗は面白さ担当、牡丹は華やかさ担当、私はマリーロゼだけに敵の標的が集中しないようにする担当かな?」

 ゆうりの言葉にそれぞれが複雑な表情を浮かべる。

「……だから、牡丹は女の服装をしていたのか……」

「うふふ、妾ってば似合ってるでしょう?」

「……男が似合っても普通は嬉しく無いだろうが!」

 苦虫を噛み潰したような表情をした蓮の言葉に牡丹はフリフリと見せびらかすようにスカートを振ってみせる。

 その姿に額に青筋を浮かべた蓮が突っ込めば、話に混ぜろとばかりに桔梗が突進してきた。

「オーホッホッホッホッホッ! 牡丹はいつも麗しいですわっ! ですが、蓮! わたくしの制服姿もなかなかのものでしょう?」

「……はっ! 馬子にも衣装だなっ!!」

「なんですってぇぇっっ!!」

 桔梗の姿を見て鼻で笑った蓮の言葉に、桔梗は怒って追いかけ始める。 そんな二人の姿にゆうりと牡丹は、素直じゃないと思うのだった。


 そんな遣り取りを繰り広げている間ずっと何かを思案している様子だったマリーロゼが、おずおずとゆうりへと話しかけた。

「……お姉様……このマリーロゼ、お姉様のお気持ちはとても嬉しゅうございます。 ですが、私の所為でお姉様が危険に晒される可能性があるならば……私は……」

 マリーロゼに本来全て向けられるはずだった負の感情が例え一部であったとしても、ゆうり達へと向けられる可能性が有る事に胸を痛めるマリーロゼの悲しげな表情にゆうりは満面の笑みを向ける。

「あはっ! ぜーんぜん平気だよっ! どっちにしろ最後は必ず決着を付けなきゃいけない奴らだしね。」

 マリーロゼへと絶対に大丈夫だよ、と安心させるように笑みを向けながらゆうりは心の中だけで思う。

「(あの最終兵姫(リリィベル)は私の方に重点を置くかもね。 乙女ゲームの中には出なかった存在だし。 第一、姫としての地位を奪われたと思うだろうしね。)」

 必ず向かって来るであろう最終兵姫(リリィベル)の存在を思い浮かべ、絶対に負けてやるもんか、とマリーロゼには見えないように悪戯っ子のような笑みを浮かべるゆうりだった。



※※※※※※※※※※



 王立エレメンタル学院は、それぞれの地方にも分校はあるものの本校である王都の学院に通いたいと考える貴族の子息達のために敷地内に五つの寮が建設されている。

 その五つの寮は親の持つ爵位により入寮できる寮は決まっており、爵位が高い程に金額も高額となっていた。


 例えば、一番高い金額の寮である“ソレイユ寮”は入寮する資格を持つ者は王族や公爵位を持つ者達であり、一番高い金額が設定されているがそれに見合った設備と環境が整えられている。


 決して寮生活をしなければならない訳ではないが、王都に屋敷を持っている貴族の子息の中には寮生活を選択する者達は少なからず居たのだった。



「リリィベル様、申し訳ありません……。 不自由をさせてしまって……。」

 伯爵位を持つダリア・コリンズは、五つある寮の内で真ん中である“ヴェニュス寮”の二人部屋で申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

「……ダリアは悪く無いじゃない。 だけど、もうちょっとどうにかして欲しかったな。」

「……申し訳ありません。」

 不機嫌そうな表情を浮かべるのは、コリンズ家の養女と身分を偽り入学したリリィベルだった。

 

 リリィベルはここ最近ずっと不機嫌だった。

 何故ならば、護送車より逃げ出し生きているはずの自分の、“王女リリィベル”の葬儀が開かれて死んだ人間とされてしまったからである。

 生きていると知られれば命を確実に奪われると思ったものの、世界を救うべき己が逃げる訳にはいかないと変装して学院へと乗り込んだのである。……もっとも、その変装とは髪の色を桃色から橙色に変えただけだったが。


 そして、只でさえ機嫌の悪いリリィベルを苛立たせる事が入学式であったのだ。

「……ダリアは知ってた? 私に双子の姉がいるなんてっ!」

「いいえっ滅相もありません!……私も、入学式の時に初めて知って驚いたのです。」

 リリィベルは美しく整えられた爪を思わず噛んでしまう。

「あの女は一体誰なのよ! 本来あの場所に立つべきは私でしょうっ!!」

 王女と呼ばれた紫苑色の髪の少女が壇上から降りた時に、眼差しを交わし合っていた少年達が居たことをリリィベルはしっかりと見ていた。

 視線を交わしていたのは少年だけでなく少女もいたが、リリィベルにとって大切なのは美形の異性達だった。


 一人は不機嫌そうな表情をしていたが、紫苑色の髪の少女と視線が交わればその唇に微かな微笑を浮かべていた小柄な少年。


 二人目は無表情を貫いていたが、同じく紫苑色の髪の少女と視線が交わればその表情をほんの少しだけ緩ませた年若き美丈夫。


 そんな王族として目の肥えているリリィベルから見ても十分に魅力的に映る、本来己に与えられるべき美形の少年達を侍らせているとしか思えない、見た事もない双子の姉だという王女を名乗る紫苑色の髪の少女。

 リリィベルは、その乙女ゲームに登場する事の無かった王女を名乗る少女もまた己の敵であると思い、その少女によって己に与えられるべき少年達が操られているのだと直感していた。

「何の罪もない人の心を弄んで操るなんて、絶対に許さないから!」

「ですが姫様、今は証拠を集めて仲間を増やす事が先決です。」

「分かってる。……すっごく悔しいけど……」

 リリィベルは、不機嫌そうな表情を消して笑みを浮かべる。

「(今はあの女の側にいたとしても、私の真実の愛で目覚めた彼等も最後は私のことを想うに決まってる!)」

 未来にあるであろう魅力的な異性達に囲まれた自分の姿を想像して、夢みる少女のような笑みを浮かべたリリィベルはダリアへと向き直る。

「絶対に世界を救おうね! そして、王国に平和をもたらそう!」

「はい、姫様!」

 将来手に入るであろう全てのものを思い浮かべて、今はまだ耐える時だと己に言い聞かせるリリィベルだった。


 

 同時刻、リリィベルが蓮と柊の入学式で見た姿を思い浮かべたときに二人は同時に背筋に悪寒を感じたという……。



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