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精霊王と精霊の"力"。

読んで頂きありがとうございます。

気が付いたらPVが100,000を突破しそうなくらいになっており、夢を見ている気がしています。

皆様のおかげです、本当にありがとうございます。


「お姉様、精霊とはどのような事が出来ますの?」


 ゆうりとマリーロゼが出会って数日の時が流れたある春の昼下がり、全てはマリーロゼのこの一言から始まったのだった。



「やっぱり実際に見せた方がわかりやすいよねえ。」


 マリーロゼの一言を受けて、ゆうりはマリーロゼだけでなくアクアとバースを伴い屋敷の裏庭へ移動していた。


「アクアさん、バースさん、私の我が儘に付き合わせてしまって申し訳ありません。」

「なんのこれしきのことっ! ゆうり様とマリーロゼ様のためならば、いつでも参上いたしましょうぞっ!」

「バースの言うとおりですわ。 わたくしでお役に立てる事でしたら、いつでもお呼び下さいませ。」


 己の何気ない一言から、ゆうりが張り切ってしまいアクアとバースまで巻き込んでしまった事に、マリーロゼは申し訳なく思っていた。

 そんなマリーロゼの言葉へ、アクアとバースはゆうりと契約者になるであろうマリーロゼの役に立てる事が嬉しいのだと笑顔を浮かべながら返すのだった。



 マリーロゼからすれば、己の尊敬する叔父といつも頼りにしている執事であるヴィクターの精霊である二人へ“さん”ではなく、“様”の敬称を使いたかったが精霊二人に断固として拒否された挙げ句にマリーロゼの方が様付けされている事に違和感を覚えずにはいられなかったのだった。


「(……お姉様は、アクアさん達の態度を気にしなくても良いのだと仰いますが、疑問を感じずにはいられませんわ。)

 (ですが、お姉様が私へ伝えようとしないのは私の知識が足りないからかもしれません。 しっかりと精霊に関する学びを深めていかねばいけませんね。)」


 マリーロゼは心の中で精霊達の己への過剰な反応に対する真実を、何時の日か聞くために精進し無ければならないと己を戒めるのだった。



「マリーロゼ、今から始めるよ! この前みたいに外から見えないように結界も張ってあるから心配しないでね。」


 マリーロゼから少しだけ距離を取ったゆうりは、バースとアクアへ目配せをする。


「儂から始めましょうぞ。

 マリーロゼ様、儂は地の属性の精霊であるので大地を隆起させたり、大きな岩山を作るを得手としています。

 しかし、仲間の中には花の精霊などが得意とする植物を操る事ができる者もおりまする。 儂も、不得手ではありますが多少は可能ですじゃ。」


 バースは、説明を続けながら力を解放する。

 その力を受けて、枯れ始めていた花は美しさを取り戻し、蕾だった花は一斉に開花し始めた。


「凄いですわっ! 枯れていた花があっという間に、もう一度綺麗に咲きましたわ!」

「喜んで頂けたようでようございました。 儂は、戦うための力の解放は得意なのですが、こういった喜ばせるような使い方は苦手でしてな。」

「そんな事は有りませんわっ!

 バースさん、もう一度花を咲かせて下さってありがとうございます。」

「いやいや、そこまで嬉しそうにお礼を言われますと照れますなあ。」


 笑顔で感謝の言葉を贈るマリーロゼに、戦闘を得意とするバースは慣れない反応に思わず照れてしまうのだった。



「次は、わたくしの番ですわ。

 マリーロゼ様、わたくしは水の精霊に属しております。 そのため、水を操る事を得意としていますわ。」


 アクアは、一度言葉を区切ると両手を広げ力を解放する。

 その力を受けて春の花が満開に咲き誇る庭に、大小様々なシャボン玉が出現する。

 シャボン玉は、春の柔らかな日差しを受けてキラキラと輝きながら庭の中を漂い始めた。


「うふふ、如何でしょう? 空気中に含まれる水分があればわたくし達、水の精霊はいつでも好きなように水を集め、操る事が出来ますわ。」

「春の日差しでキラキラと光って、……とても綺麗ですわ。

 ありがとうございます、アクアさん。……言葉に表せない程に美しい光景ですわ。」

「マリーロゼ様に喜んで頂けて何よりです。」


 瞳を輝かせて、満面の笑みを浮かべシャボン玉へ手を伸ばすマリーロゼへ、アクアも優しい微笑みを返すのだった。


「マリーロゼっ! 最後を飾るのは私だよ!

 私は……うん。 一応、……光属性の力が好きかな。」

「……なんだか、アクアさんやバースさんの説明とは違うのですね。」


 マリーロゼは、ゆうりの今ひとつはっきりとしない説明に首を傾げてしまう。


「(……何にも、考えてなかった……。)」

「(こ、ここは、勢いに任せて突っ走るしか有りませんぞっ!)」

「(精霊王様……、えっと、バースの言うとおりできっと大丈夫ですわ。……多分。)」


 精霊達のマリーロゼには聞こえない激励を受けて、ゆうりはバースの言葉通り強行突破する事とした。


「あ、あははははっ! ひゃ、百聞は一見にしかずだよっ、マリーロゼっ!」


 マリーロゼの意識を反らすために急いでゆうりは力を解放する。

 その力を受けて、シャボン玉と満開の庭に複数の小さな虹が出現する。

 男爵家の庭には、春の満開の花々が咲き誇り、優雅に漂うシャボン玉と小さな虹の橋など夢のように美しい光景が広がった。


「………。」


 マリーロゼは目の前に広がる光景に言葉を出す事すら忘れて見とれてしまう。

 まるで、物語に出てくるような幻の世界や、夢を見ているように美しく感動を覚えていた。



 そんなマリーロゼの様子にゆうりは満足そうに頷いてみせる。


「……精霊王様、宜しいのですか?」


 満足げにしているゆうりへおずおずと機嫌を損ねぬように小さな声で囁くようにアクアは問いかけた。


「んー、何が?」

「マリーロゼ様にお見せしたのは確かに精霊としての力ですわ。 でも、人間にとってのわたくし達の力は違う意味を持っていると愚考いたしますの。」


 アクアを含めて精霊にとって、短い寿命しか持たない人間との契約などある意味では、永い時を生きる彼等の刺激や娯楽の意味合いの方が大きかった。

 それゆえに、人間が自分たちの力を使って何を行おうとも構わなかったのである。

 

 そして、何人もの人間と契約を結んできた精霊は知っている。

 人間は自分たちの力を恐れると同時に、より強い精霊と契約を結び、己の欲のために利用する者達が多い事を……。


 ……何よりも、人間にとって自分たち精霊の力は"魔法"という名の他者を傷つける手段でもある事を……。


 ゆうりもアクアが言いたい事は分かっていた。

 永い、永い過去に何度だって人間達は、精霊の力を使って魔法を行使し国を興し、滅ぼし、滅びるのを繰り返すさまを見た事があるのだから。


「……アクアの考えは間違ってないよ。 でもね、マリーロゼはその事を知らなくても良いよ。……少なくとも、私が友人として側にいて守っている今は知る必要は無いもの。

 ただし、マリーロゼが私との契約を望んでくれるならば、マリーロゼの身を守るためにも教えるけどね。 人間の権力者ほど、鬱陶しいものはないもん。」


 マリーロゼの嬉しそうな、幸せそうな笑顔を見つめながら、ゆうりは狼の姿のまま無邪気に笑う。


「本当に彼等人間次第だよ。……でもね、彼等の選択次第でアクア、バース、貴方達を含めたみーんなにお願いするよ。 一緒に、人間の国を滅ぼそうってっ!」


 ゆうりにとって価値のある物など決まっているのだから、滅ぼす事に躊躇う感情などは有りはしなかった。


『全ては精霊王様の御心のままに……』


 迷うそぶりも見せずに、ゆうりの言葉に賛同の意を示す精霊達に笑顔を向けて、マリーロゼの側へと駆け寄るのだった。



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