言を紡ぐ僕と彼女。
彼女はいつもの特等席に居た。
風に靡く糸のような黒髪を、
僕のような凡人には
それに見合う言葉を見つけられない。
「凪川くん。」
彼女が文庫本を手に僕に微笑みかける。
いつも通り可憐な彼女と
いつも以上に鼓動の早い僕。
「何してるの?」
「え、」
「はやく座ればいいのに。」
「ああ、」
「この本、なかなか面白いよ。」
彼女の隣。これは僕の特等席だ。
…と、まだ公言できる自信は無い。
「あの…さ。」
「何?」
「僕も書いてみたんだ。」
そう言って、
ぐしゃぐしゃのルーズリーフを差し出す。
「え、凪川くんの処女作?」
「まあ、そうなるか。」
「ウソ、僕は書かないって言ってたのに。」
「気分だよ、なんとなく。」
「読んでもいい?」
「うん。」
彼女が耳朶を触る癖は、
集中しているときのものだ。
あの彼女が、こんな僕の紡いだ物語に。
「―僕の特等席が君の隣であるように、
君もそうだって思っていてもいいかい?」
ラストの、主人公のセリフを
彼女が小さく読み上げる。
僕の心臓はこれでもか、と
喧しくなって止まらない。
「すごくストレートで、良いと思う!
…ちょっとクサいけど。」
「そう、かな?」
「うん。 でも、それが良い!
すごく素敵だったよ。」
そう言って彼女は、
僕にそれを返して笑った。
「また書いてみてよ。」
席を立とうとする彼女の腕を
この日初めて僕は掴んだ。
「どうしたの?」
彼女は不思議そうに言った。
「…また、書くよ。
今度こそ、藍田さんに伝わるように。」
そのあとも"解せぬ"顔をしている彼女に、
「そのうちわかるよ。」
と、僕は図書室を後にした。
読書の秋ですね。
私は勉強そっちのけで
本を読んでます(笑)