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わたしは花園をいったん離れ、先ほどつぐみさんを下ろした学生寮の屋上へと向かいます。
〈五=六芒蝕星、〈触手の躍り食い・ゲル和え〉、そして〈蝕種滅殺陣〉――目まぐるしい技の応酬、宇宙規模の奥義の連打によって、戦況はマイク・マクドナルドからホンダさんへ、そして再びマイク・マクドナルドへと移り、最後にはホンダさんが勝利を収めたかに見えました。
しかし、宇宙生物二体の死闘に、花園の校舎が耐えられなくなってしまいます。
わたしはみなさんの花園を守るため、とっさにホンダさんをお止めしました。
ですが、そのせいでマイク・マクドナルドは精神を破壊された危険な状態で放置されることになり、暴走――ぶよぶよとした褐色のゲルは惑星形態となり、このままではやがて地球を呑み込んでしまうかもしれないのです!
「お姉さまぁ!」
屋上にはまだつぐみさんがいらっしゃいました。
わたしのことを待っていてくださったのでしょう。
もちろん、つぐみさんがここにいらっしゃったところで戦いの趨勢に影響はありません。
しかし、そのお気持ちこそが、気味の悪い宇宙生物の狭間で萎えてしまいそうになるわたしの心を支えてくださっているのです!
「つぐみさん!」
その可愛らしいお顔を見た途端に、わたしの中の緊張がほどけていくのを感じました。
ぶよぶよとした褐色のゲルとぐねぐねとしたアザミ色の触手の宇宙規模の決戦に、思った以上に精神を消耗していたようですね。
わたしは学生寮の屋上に着地すると、触手腕で抱えてきた礼さまとエリス様を地面に下ろします。
「わわわっ! 黄水仙の君に赤椿の君、ですかぁ!? 助けられたんですね! さすがわたしのお姉さまですぅ!」
つぐみさんはそう叫ぶと、わたしに抱きついていらっしゃいます。
まだ触手翼やら触手腕やらを生やしたままのわたしに、です。
わたしは自分自身の手でつぐみさんを抱きしめ、その頭を撫でてさし上げます。
さて――ここからが肝心です。
作戦のために、というのももちろんあるのですが、それだけではなく、これはわたし自身の望みでもあるのです。
わたしは覚悟を決めて腰をかがめ、つぐみさんの顔をのぞきこみます。
「……つぐみさん」
「はい?」
「わたし、あなたのことが好きみたいです」
「えっ……、な……っ、なななぁ――っ!?」
突然の告白に、つぐみさんがうろたえます。
当然です。わたしだって突然同性から告白されたらびっくりします。
「あのぶよぶよとした褐色のゲルをこの学園から追い払うために――あなたの力が必要なんです」
「お、お姉さま……、はわわっ……! そうよつぐみ、これは夢……夢……、夢……じゃないじゃないですかぁ!? えぇぇぇっ! あう、あうあうあうあうぅぅぅっ!」
わたしはつぐみさんの肩に両手を置き、つぐみさんのつぶらな瞳をじっとのぞきこみます。
突然の事態に混乱し、つぐみさんの目には涙が浮かんでいます。
そんなつぐみさんの様子を見て、ああ、わたしは本当にこの子が好きなのだと、今更ながらに確信しました。
ごめんなさい、お兄様……。やっぱりわたし、女の子の方が好きみたいです。
「わ……、わかりました……。いえ、なんだかよくわからないんですけど、お姉さまがわたしを必要とされてるのなら……ど、どうか、わたしのことを……お、おおお、お好きなように、なさってくださいませ……!」
「……ありがとう」
わたしは心の底からそうつぶやくと、つぐみさんをそっと抱き寄せ、かわいらしいその唇に、自分自身の唇を重ねたのです……。
短いので今日は2話投稿します。