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落とし穴 3

そのとき時計の針は22時ちょうどを指していた。大介はコールが鳴っている間、神経が高ぶっているのを感じていた。そして相手の受信を確認すると、

「もしもしユキチか、俺だけど今大丈夫か」

「ああ大介か」

「なんだよ、ツレないな」

「生まれつきさ、なんか用か?」

「ひでえな」

「これが普通だ」

「もういい、そうだ曲作りの進行具合はどうだ」

「いいはずねえだろ、そんなにすぐできたら誰も苦労しないぜ」

「はは、お前には思いやりってものがないのか」

「そんなものあるわけないだろ」

「良心のかけらもねえな。そうだそんなことより本題に入ろう。曲の作り方でいい方法はないかと思ったんだけど」

「そんなものあったら誰でもスーパースターになれる」

「俺はユキチの考え方が知りたいんだ」

「わかったよ、どんなことだ」

「作曲するときはコードを決めてからメロディーを作るか、それともメロディーを作ってからコードを当てるか、どっちがいいと思う」

「そんなもの千差万別さ、決まってるわけねえだろ。好きにするしかない」

「俺はギターでコードを刻みながら鼻歌でメロディーを作るやり方しか知らねえんだ」

「だったらそうするしか方法がねえだろ」

「だけど、別の方法でやればいい発想ができるんじゃないかと思ってね」

「大介はどんな曲が作りたいんだ」

「そりゃ、ユキチのヴォーカルが映える曲さ」

「あたいの音域しってたっけ」

「だいたい2オクターブを目安に作っている」

「まあ、キーはAからEで問題はない」

「うん、携帯に録音しながら作っているんだけど、なんか刺激が足りないんだ」

「お前どんな曲を作っているんだ」

「人前で演奏するんだからそれなりに考えないとな」

「大介、それじゃ聞くがお前にとって歌とはなんだよ」

「そりゃあ、聴く人に心地よさ、とか、安らぎを与えることさ」

「それじゃ精神安定剤を飲むのと変わらないじゃないか」

「なんだよ、薬と一緒にするな」

「だけど薬のほうが確実だろ」

「ユキチ何が言いたいんだ」

「確かにお前のいう通り歌はこれまで人の心をずっと癒してきた。だが、薬の進歩も日進月歩で心の変化にも対処できるまでになっているんだ」

「それがどうしたって言うんだ」

「わからねえか、大切なのは音楽を薬に負けない心の特効薬にすることだ。大介、AKB48の『ヘビーローテーション』は知っているか」

「誰だって知っているだろ」

「じゃあ、サビをうたってみろよ」

「アイウオンチュー、アイニイージュー、アイラブビュー」

「どうだ」

「ナニがだよ」

「このサビはワンフレーズに3つの音しか使っていないんだ。歌で大切なことは覚えやすく、人から親しまれ、愛されることだ。わかるか、あたいたちが勝負しなければいけない領域が」

「なんだよもったいぶった言い方はやめてストレートに話せよ」

「音楽は音を楽しむと書くだろ。つまり聴いて楽しくならなければならない。そのためのはハートフルでシンプルでないといけない。大介を見てるといつもイライラしていてちっとも楽しそうじゃない。そんな人間の作る音楽に安らぎなんてありえねし、だいたい愛されないよな。どだいお前の作る歌が人の心を刺激するなんて考えられないんだよ」

「どうすればいいんだ」

「とても大切なことだ。1度ゆっくり考えてみな」

「わからねえよ」

「そうだな、歌本来の意味を見つめ直すことかな」

「そんなことを言ったって」

「大介、迷ったら自分と向き合ってみろ。音楽で何を伝えたいのか。表現者のお前がわからなかったら、受け手の人間に伝わるはずがない」

「少し俺には難しすぎるぜ」

「頑張ってみろ」

「迷路に迷い込んでしまったらしい。余計モヤモヤする」


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