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落とし穴 2

前回にスケールとコードの関係をざっと紹介したが、ブルースにも独特のスケールとコードがあり、さらにテンポを早めればロックンロールになるというメリットもある。だが大介は、キャッチーなメロディーがどうしても作れなかった。無理もないこれは1950年代の音楽を参考しているので、新しいエッセンスを作り出すのにとても苦労するからだ。


音楽の基本はC→F→G→Cと紹介したが、ブルース(12小節)場合は、C→F→C→C→F→F→C→C→G→F→C→C(G)となる。9、10番目のGからFに進行しているところに注目してほしい。基本は1度4度5度1度で終わるが、ブルースの最後は5度4度1度1度になっている。西洋ではクラシックの時代からこのような4度と5度が反転するコード進行で作曲することを禁じていた。なぜか、と問われたら不自然に聴こえるからである。だが、アメリカの奴隷たちはそんなことは全く考えず(たぶん?)、自分たちの生活をそのまま歌に込めてうたっていたら、自然と12小節という構成になり、ブルーノートスケールが生まれ、特有のコード進行になったのだろう。


ここに目をつけたのがビル・ヘイリーやエルヴィス・プレスリー、そしてチャック・ベリーらの往年のミュージシャンたちだ。彼らはブルース進行にスピード感を与え、ご機嫌なロックンロールを誕生させる。それまで静かなムード漂うオーケストラ主流だったミュージックシーンに風穴を開けたのだ。これが当時の若者たちのハートに火をつけ、たちまち新しいツイストという踊りとともに全世界を席巻した。その後ビートルズ、ローリングストーンズなどのロックミュージシャンが次々と台頭していく。ロックは元々このように型を破ることから始まった音楽なのだ。


大介はその興奮を肌で感じることはなかったが、知識は十分吸収していた。だからこそ、中学時代からブルースに興味を持ち、自分なりのギタリスト像を作ってギターに取り組んできた。しかし、かっこいいギターリフを弾けるのも先人たちが生み出したコピーにすぎない。テクニックを身につけるにはこれで十分だが、ミュージシャンとして独創性を確立したい場合、とても十分とは言えない。マインドやイマジネーションに含まれる大切な創造力を見落としているからだ。


たとえば森があってそこに道を作ろうとするとき、まず土壌を調査してどういう工程を組むか検討する。そして人材や機材を集めて、全ての木を切り倒して搬送し、大地をならして舗装しなければならない。曲を作ろうとするときもこのような工程が必要なのだ。それはミュージックシーンの現状を捉え、要素を検討し、楽器の鳴りや歌い手の特徴を吟味してカラーを選択し、伝えたいメッセージを抽出する。そして最後にこれはイケるという感じがあれば理想的だ。


道は出来てしまえばそこを歩く人たちはそんな苦労など考えたりしないのと同様に、曲のコピーというのもテクニックや感性を盗むものであり、決してオリジナリティーを養うものではない。つまり、さまざま工程を踏まえ、意識を持って作り上げなければ、なかなかオリジナリティー溢れるヒット曲は生まれないことを知っておいてほしい。


大介は今、ミュージシャンとはとても言えるところまできていない。16歳の少年には少し酷だが、これからの苦労がやがて血となり肉となり将来に向かって生成されるのだ。だが彼ひとりではこの壁があまりにも高く解決の糸口は見出せなかった。だからおもむろにユキチの声を求め、指は自然と画面をタップして、携帯は無意識に耳元に吸い込まれていった。

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