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心想 5

翌日、大介は自宅の側のマックで太宰治の『斜陽』を読みながら霧島洋子が来るのを待っていた。すると、

「お待たせ」と耳元で大きな声が響いた。本を読むことに集中していた大介は、

「なんだよ、いきなり大声を出すから驚くじゃないか」と不平を露わにすると、

「だって無防備なんだもん」と洋子はハニカム。

「バカヤロ、本を読む時に戦闘態勢の奴がいるか」

「ふふ、おかしいわ」

「なにがおかしいんだ」と大介は目を釣り上げるが、

「だって、ムキになるんだもん」と軽くジャブでかわす。

「ムキになるさ、いいところだったのに」と語気は荒く、

「洋子はさらに、

「他の男だったら嫌だけど、大介が怒るとカワイイわ」

「なんだよ」と睨みつけても、

「いいのよ、大介はわからなくても」と洋子はプイッと瞳を宙に飛ばした。

「ちっともよくない」と大介は不満タラタラだったが、洋子はまったく意に介さず、

「でも大介、太宰が好きね」

「この本は彼の思いがよくわかるからさ」

「でも、自殺なんて弱い人間のすることよ」

「生きることに意味がなくてもかい」

「うん、だって生きてさえいれば何か意味が見つかるかもしれないじゃない。先のことなんて誰にもわからないわ。大介にはそんなことを考えて欲しくない。それより期末試験どうだったの?」と話題を変えると、

「それがものすごく手応えがあるんだ。これだけ自信があるのは生まれて初めてさ」と洋子の罠とは気づかずに、

「あら、凄いじゃない。どうしたのよ」と打診する。だけど、大介はすっかりご機嫌で、

「バンドのメンバー同士で役割分担をして得意な教科を教えあったのさ。俺、物理とか数学が弱いじゃないか、だから得意な奴から丁寧に教えてもらったんだ。しかし、弱点を克服するってこんなに達成感があると思わなかった」と核心に迫ったところで、

「じゃあ、ユキチさんにもやさしく教わったんだ」と心臓にチクリ。

「なんだよ、トゲがあるな」と大介は話がいきなりデッドゾーンに突入すると自らの覚悟を決めて、洋子の様子を伺った。そして、

「だって最近の大介、私に妙にやさしいんだもん。疑うわよ」

この言葉で大介はついに観念し、

「ジツを言うとさ、今日はその話で来たんだ。あの時のライブの後ユキチから告白された」

すると洋子は表情をまったく変えずに、

「そんなことだと思ったわ」とキッパリ言った。そして、

「私ユキチさんを一目見た瞬間に感じたの、あなたを滅茶苦茶愛してるって」

大介は目の前が真っ白になっていくことを感じながら、

「ヘェ〜、そんなことまでわかるんだ」といよいよ腹を決めた。

「女の直感は怖いのよ。だけど、大介とユキチさんが付き合っても別に構わないわよ。だって、うまくいくかどうかなんて誰にもわからないし、今あなたを失いたくない」と彼女の意思が固いことを伝えた。そんな態度に押された大介は、

「洋子、それでいいのか」と確かめると、彼女は素直に、

「だって大好きだもん」とひと言。

「わかった、ユキチにも洋子とこのままでいたいと話してあるんだ」

「うん、ありがとう」

「ああ、やっと話せたよ。ずっと呪縛にかかっていたんだ」

「ふふ、大介って誠実よね。そこがいいところでもあり、弱点だと思うわ」

「そう言えばだいぶ前にビリー・ジョエルが『Honesty』って曲をヒットさせたな。正直者なんて今は流行らないけど」

「そんなことないわよ、私誠実な人好きだな」

「あっそうだ。ビリー・ジョエルで思い出した。洋子にはまだ話してなかったけど、夏休みの間バンドの連中と路上ライブをやるかもしれないんだ。見に来るかい」

「やっぱり、ハードロックなの」

「いや、みんなでオリジナルの曲を作ろうって話になってる。どういう方向性でいくかはまだ固まってないから、出たとこ勝負みたいなところがあるんだ」

「でも機材の関係もあるし、この前のライブのようなものは無理ね」

「そうだね、路上で何をアピールするのか、が大切かも」

「大介がアコギを弾くの?」

「うん、だけどまだ何も決まっていないんだ」

「私も何か手伝いたいわ」

「うーん、それじゃあ、何か考えとくさ」

「本当?嬉しい約束よ」

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