心想 3
期末の最終科目のテストも終わり、教室では生徒たちがやっと解放されたと安堵の表情を浮かべていた頃、ユキチが大介の方を向いて声をかけた。
「大介やっと終わったな」
「ああ、だけどみんなに礼を言わないとな」と満足気な表情を浮かべた。それに対してユキチは、
「確かに、自信を持つのは気分がいい」
「俺もテストでこれだけできたのは初めての経験だ」
「そいつはよかったな。そうだ大介、一緒にバイトしようぜ」
「お前何言ってるんだよ、あのとき親にイギリスに行きたいからバイトしたいって言ったら、ものすげー怒られたの忘れたのか」
「もちろん親には内緒さ」
「ユキチはいいさ、旅費は親が出すっていうんだろ。ウチなんかバイト大賛成だってよ。自分で働けば社会勉強にもなるし、お金の大切さもよくわかるからって。だけど、親を裏切るのはよくないぜ」
「そんなこと言ったら何もできやしないぜ」
「じゃあ、メンバーを集めて4曲ぐらいのオリジナルCDを作ろうぜ」
「そんな物こしらえてどうするんだよ」
「わからねえのかユキチ、路上ライヴをしてCDを売り歩くんだ」
「いくら夏休みだからって高校生がそんなことしていいのか」
「別に悪いことをするわけじゃない。ユキチの声量ならマイクはいらないし、伴奏も俺がアコギでやればいい。それにギターケースを前において蓋を開けていればお金を投げ入れる奴もいるかもしれない」
「なるほどCDは4曲入りで500円ぐらいなら十分採算がとれるし、うたって小遣い稼ぎか。大介バイトとして悪くないな」
「そうだ、CDを500円で1000枚売るとざっと50万円になるぜ。それに路上でユキチがうたっていれば男なら必ず立ち止まる」
「だけど、あたいの気持ちはわかっているだろ、他の男には興味がない」
「なにも変なカッコして色気を出せとか、気がありそうなフリをしろなんて言ってねえよ。最終的に俺たちの音楽性を知ってもらうためにはユキチの容姿はきっかけとして最大の武器になる。変なバイトをして苦労するよりかよっぽどマシだし、いざという時は俺が命を賭けて守る」
「わかった大介、それならさっそく実のところに相談に行こう。善は急げだ」
ユキチと大介はすぐにE組を目指して廊下を走り出した。そして教室に入るなり実の姿を探したが、見当たらなかったので大介が近くの女生徒に、
「松本と中村を見かけなかったか」と声をかけた。するとつっけんどんな態度が気に入らなかっったのか、その女生徒は、
「知らない」とひとこと言って立ち上がるとすぐさま教室を出て行った。あっけにとられて大介は、
「なんだよ、性格の暗い女だな」と文句を言うが、ユキチがあれじゃ無理もねえよという表情を浮かべて、
「お前の口の聞き方が悪いのさ。女性にはやさしくしねえとな」
「なんだよどこにいるのか尋ねるのにエチケットもクソもないだろ」
「まあ大介、そんなことよりあいつらを探す方が先だ。携帯にかけてみる」とユキチは右肩にかけていたデイパックに手を突っ込み、スマートフォンを取り出すとワンアクションで操作した。




