波動 5
来週は27日、日曜日の午前中に入稿いたします。今回のコンピテンス 3は来週からはじまる「重圧」の5話で終わりです。来年の4月から新たにコンピテンス 4でお逢いできることを楽しみにしています。g.j.jijo 沼里泰行
しばらく『忘れないで』をみんなじっと黙って聴いていた。曲が終わると実が話しかける。
「ユカから順に感想をもらおうか」
「あいよ、なんかユキチらしくないけど、いい曲じゃん。中学時代にこんなナイーブな一面があったなんて、私全然気づかなかった。でも、少し安心したのも事実。これからはユキチとガールズトークもいっぱいできそうだわ」
続いて大介は、
「俺はライブと録音の演奏方法の違いに重点をおいて聴いてみた。そこで提案なんだが、どうだろライブでも生演奏ばかりでなく、オケを作って音に厚みを加えて、それに沿って俺たちが各パートを演奏するっていう形が、この曲には1番いい気がするんだ」
その意見に対して実がさっそく答える。
「そうだな、実際使うかどうかはわからないが、オケを作っておくというアイデアは悪くない。ユキチはどう思う」
「色々試してみて最良の方法を取ればいいんじゃないか。あたいは生演奏が1番だけど、聴き手の立場で考えたほうがいいと思う」
謙二は、
「おれ手抜きができるからオケ大賛成」といつもの調子で答える。
その発言を確認してから、実が話をまとめにかかる。
「みんなの意見はわかった。問題点はないようなので、これをレコーディングで使う。ユキチ、今度の日曜日に録音するから、うたい込んでおいてくれ」
「OK!」
「よし、最後は『ソルジャー』だ。ユキチ、歌詞はどうなっている」
「ああ、それなんだが、大介のアイデアで英語にしようと思う。今、あたいと大介で
一生懸命英文を作っている最中だ。日本語の原案はあっけないほどすぐに思いついたんだ。ただそれを英訳して譜割りにするのに手こずっていて、形になるまでもう少し時間をくれ」
実が心配そうに、
「ユキチ、英語の歌詞なんて作ったことがないだろう。大丈夫か?」
「確かにあたいの英語の成績を考えると少し不安だが、大介と力を合わせればなんとかなると思う。よく言うだろ火事場の馬鹿力って。人間追い込まれると、とんでもないことができるものさ、実」
「ああ、じゃあ2人に任せるからな。さてこの曲のアレンジだが、俺の独断と偏見でこれから聴かせるもので決定にする。これ以上はもうできない、というくらい苦労を重ねて作ったから、もう俺の頭からは何も出てこない。つまりやりきったと思って聴いてくれ」
そう話して実は音楽をスタートした。
音楽が徐々にフェードインして、リズムセクションがきらびやかに迫ってくる。変化はドラムの熱いビートだった。その合図を待っていたかのようにエレキギターとシン
セが印象的なフレーズで彩りを添え、ここから真打ちであるヴォーカルのメロディーラインの出番だ。そしてベースやホーンの音源が幾重にも厚みを加えて、一層壮大な展開になっていく。
実にとってこの曲の狙いはデッド・ピープルを代表する顔を作ることである。『ソルジャー』を1人でも多くの人に知ってもらい、独自のカラーで衝撃を与え、ファンの心を鷲掴みにしなければ、路上ライブをする意味がない、と考えていた。
だから、常にいいところでこの曲を使い、英語の歌詞という設定も、その狙いからいって照準は合致した。つまりインパクトを与えるのには絶好のアイデアであった。
録音まであと3日、ユキチがどれだけモチベーションをあげて、最善を尽くし、輝いてくれるか。今回のレコーディングはまさにデッド・ピープルの勝敗を左右する戦場となる。実だけがそんなプレッシャーを胸に秘め、鬼気迫る思いであった。




