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波動 4

「次はユキチの『忘れないで』だ。詞は出来上がっているから、これから聴かせるアレンジで問題がなければ決定にしようと思う。恋をした時に女なら誰でも陥る不安や期待、そして喜びに溢れた内容だから、アレンジも繊細さを強調してみた。


俺もこの作品は、すごく手応えを感じている。ユキチ、ひと言あるか」とみんなを見回して実が言った。

ユキチは、


「あたいも初めて取り組んだ作詞作曲だから思入れはたくさんある。作った当時は女の恋心なんてクソ食らえぐらいしか思っていなかったんだ。自分が女だってことをすっかり忘れてよ。だけど、あたいも女だし、少しは彼女たちの気持ちを理解する必要があるんじゃないかって気づいたんだ。だからあたいなりに想像して、さらに自分の


まっさらな感情を照らし合わせながら書いたんだ。そして少し時間はかかったけど、あたいも実際に男を好きになって、想像していたよりずっと素敵で素晴らしいことがわかった。この曲はまるで夢のような世界だけど、自分でも恋を知らないなりによく書けたと思う」


「ユキチ本気なんだ。大介、裏切ったらタダじゃおかないよ」

ユカのすごい剣幕に怯えた様子の大介は、

「めっそうもない。洋子ともよく話し合っているし、今回の路上ライブでもチラシを配ったり、機材を運ぶのを手伝ってもらおうと考えているんだ。それにちゃんとみんなにも紹介してこれからのことを対処していきたい」


「彼女かわいいのか」と唐突な謙二。

「それはどうかな、俺は謙二の好みがわからないからな。だけど、性格は保証する」と真面目に答える大介。

「名前は?」

「洋子、霧島洋子だ。謙二」


「う〜ん、名前だけではかわいいかどうかわからないな」

「当たり前だろ、バカだな謙二は。だけど、5月のライブに来てた2人だろ」と実が愛想を尽かしながら割って入った。

すると謙二は、


「おおおー、あの時の2人か。あれ?かわいかったっけ」

大介は少し呆れ気味に、

「おい、しっかりしろよ。ステージの最前列にいたのを全然覚えていないのか」

「人の彼女なんて真剣に見ちゃいないよ」と謙二は攻勢をかけるが。


2人のやりとりを見計らって実が口を挟む。

「謙二はまだまだ青いな。俺はあの時の2人をよく覚えているぜ。後ろから押しつぶされそうになっただろう。結構どっちもかわいかったぜ」


「おいおい、実は覚えてるんだ。じゃあ、結構かわいいかもな。実のチェックは厳しいから」

「ふざけるなよ、そんなチェックするわけないだろう」


そんな男たちのやりとりにうんざりしていたユキチが、

「お前ら、あたいの曲はどうでもいいのか」と一喝する。

そんな態度に煽られた実が冷静にアレンジの話をはじめる。


「悪かったな、この曲のアレンジはユキチをとことん女らしくするための曲に仕上げた。ハードロックの彼女しか知らない男たちはきっと慌てるぜ。男性ファンが一気に増えるかもしれない。じゃあ、早速聴いてくれ」


この曲のイントロはアコースティックピアノの旋律からはじまり、とてもスローでメロウだった。ベースの入りがアクセントになり、ヴォーカルがはじまるところはボズ・スキャッグスの『ウィー・アー・オールアローン』を彷彿させた。実がユキチの女としての心遣いにスポットを当て、これまでの彼女とは嘘みたいに変化し、とてもしおらしく感じられた。


恋は何も確証はないが、辛いことばかりではない。喜びも愛しさもあり、何より人間を成長させてくれる。なぜ人は傷ついてまで人を愛するのか。それはこれからの満ち足りた人生を迎えるための序曲なのか。それとも安らぎを少しでも感じたいための策略なのか。その真意はきっと神様ぐらいにしかわからないのかもしれない。だけど、人は必ずこの道を通る。ユキチの詞にはそんな人間の機微が溢れていた。


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