旋律 5
「おいユキチ、実の『ソルジャー』は手をつけなくてもいいのか」
「ああ、そうか。ユカのほうにばかりかかりっきりで、すっかり忘れてたぜ」
「最初はテーマを決めないと」
「愛の戦士か?結構難しいイメージだな」
「日本の曲で参考になるのはまずグスターヴ・ホルストの管弦楽組曲『惑星』に詞をつけた平原綾香の『Jupiter』だろうな」
「そうか、あの曲も雄大だからな。でも、あたいがうたうんだからあそこまでいかなくてもいいだろう」
「後は英語の歌詞にする手もある」
「そりゃ名案だ、その手があったな」
「竹内まりやの『時空の旅人』の英語の歌詞はスケールが大きくて参考になるぜ」
「竹内まりやって山下達郎の奥さんか」
「そうだ、彼女は詞の語感やニュアンスを大切にするから、あえて日本人のファンにも英語の歌詞で発表するんだろう」
「そうかニュアンスか」
「でもユキチ、愛の戦士っていったい何と戦うんだ」
「そりゃ、字のごとく愛のためさ」
「愛って、愛してる彼女を守るのか?」
「それに人類の平和と安定のためかな」
「そんな世界規模なのか」
「ダメかな」
「もう少し身近なほうがよくねえか」
「じゃあ、愛する家族」
「家族を守るのに鉄砲入らねえだろ」
「全世界を敵にしてもお前だけは絶対守って見せるってのはどうだ」
「おっ、やっとピントがあってきたな。そうこなくちゃ、後は構図だ」
「あるとき2人は出会う運命にあった。そして自然と結ばれる」
「ふむ、起承転結の起だな。それから」
「だが、彼女にはいにしえから結婚を約束された人物がいた。そいつは世界を変えられるほどの力があったから、この不届きな男に怒って世界戦争を起こしてしまう」
「ふむ、だんだん面白くなってきたな」
「そして大地は荒れ、大量の虐殺が行われ、食べ物も底をつく」
「破滅に向かっていくのか」
「全世界の人類が救いを求めていた。そこで現れるのが神だ」
「おっ、万物の創造主の登場か」
「神が空に手をかざすと大地は再生し、死者は生き返り、植物が実り始める」
「まるで神話だな」
「その神は一つだけ条件を出す。それはいにしえから結ばれるはずだった2人を結婚させること」
「だが、それを聞いた途端女性は悲嘆して毒を飲んで自殺してしまう」
「いにしえから結ばれるはずだった人物はさらに激昂してこの世界からあらゆる光を奪ってしまう」
「真っ暗闇の世界で困った民はまた神にすがった」
「そこへ神が現れ今度は彼女が心から愛した男(つまり愛の戦士)に一つだけ条件を与える。死んでしまった彼女に口づけをすることで生き返るという魔法だ。だが、そのためには真っ暗闇の荒れた大地を何千キロも走ってこの女が眠っている聖地まで3日以内に行くことだった」
「ユキチ、壮大になってきたぜ」
「そして愛の戦士は3日間全速力で走り続けるんだ。そして彼女が眠っている聖地にたどり着き、口づけを交わす」
「おっ、クライマックスだな」
「そうだ、しばらくすると彼女は生き返り、この世界に光が舞い降りる。そして民は生きる希望が湧いてくるんだ」
「ユキチ、作家を目指した方がいいんじゃねえか。走れメロスみたいだ。でも、最後にいにしえの人物と神が戦う必要はないか」
「いいじゃねえか小さなことは、これを英語でリライトしたらいい線いくかもな。こんな風にイメージが広がると一気に仕上がるんだけどな。よし、実の曲から手をつけよう。大介、和英辞典を持っているか。英英辞典でもいいぜ」
「そんなもん持っているわけねえだろ。どうやったら今日、前もって英語の歌詞を作るなんて思いつくんだよ」
「アイホーンがあるだろ」
「確かに辞書にはなるけど」
「だったら文句を言わずに調べてくれ」
「あいあいさー」




