旋律 3
「ユキチ、これに目を通してくれ」と大介はA4の紙を差し出した。
「なんだよ、何が書いてあるんだ」
「ああ、俺が行き詰まったときとか、弱気になったとき、いつも勇気を与えてくれる歌の詞なんだ。ベッド・ミドラーがうたう『ザ・ローズ』という曲だ」
「へえ〜、わかったよ」
〜愛は川だという人がいる 若くて柔らかい芽を飲み込んでしまう川だと 愛は鋭い刃物だという人がいる 魂から血を奪い去る刃物だと 愛は飢えだという人もいる 満たされることのない渇望だと 私は愛は花だと思う そして、その大切な種があなたなのだ 傷つくことを恐れている心 そんな心では楽しく踊ることができない 目覚めることを恐れている夢 そんな夢ではチャンスをつかめない だれも受け入れられない人 それでは与える喜びを知ることはない そして、死ぬことを恐れている魂 それでは生きることの意味を学べない 夜がせつなく寂しくなったとき そして、道があまりにも長すぎると感じたとき また、愛は幸運で強い人間にしかやってこないと思ったとき 思い出してほしい 厳しい冬の深い雪の下には 暖かい太陽の愛を浴びるための種があり 春には薔薇の花を咲かせるということを〜
「よくできた詞を読むと、人間は人種や民族や国籍の違いこそあれ、考えていることは共通しているんだ、とわかる。みんな思い悩んで、日々活路を見出しているんだ。止まない雨はないし、また明けない夜もない。なのに人間はまるで答えがないんじゃないか、とつい錯覚してしまう。歌が心に残るのは、そんな思い悩んでいる人たちの気持ちを代弁しているからなんだ。ユキチもこのことを忘れないで曲を作ってくれ。僕が言えることは必ず道は開けるということ、それを信じて一段一段階段をのぼっていこう」
「大介、ありがとう」
「どういたしまして」
「なんか、こういう話を聞くと勇気が湧いてくるな」
「俺たちも先人に負けないように歌を作ろうじゃないか」
「本当にそうだな。よし、いっちょやってやろうじゃないか」
「ユキチ、本音を言っていいか」
「なんだよ急に」
「俺たちはうまくいっているよな。でも、内心怖くてしょうがないんだ。もし、ユキチに嫌われたら俺のいる場所はどこにもない。目標にする素晴らしい仲間に恵まれているのに、もう道が閉ざされてしまうんだ」
「大介、どうしたんだよ…」
「俺は都合よく洋子とも友達でいる約束をした。なんか、相手の弱みにつけ込んだみたいで、ものすごく後悔しているんだ。こんなにユキチに大切にされているのに100パーセントじゃないなんて最低さ。洋子もユキチみたいに俺を信頼しきっているんだ。本当にこんな状態でいいのか。俺には全くわからないんだ」
「大介、なんで男と女しかいないのかな。この世の中で幸せをつかむのはほんの一握りの人間だ。だけど、心の揺れ動くロックがあってもいいかもな。反発だけがロックだなんて誰が決めたのかな。大介は誠実なんだよ。確かに障害なんて誰にだってあるさ。あたいだって大手を振って街を歩きたいさ。だけどそんなことできなくても、互いがしっかり気持ちを刻んでいればいいことじゃねえか」
「ユキチ」
「大介、一緒に歩いていこうじゃねえか。あたいたちが出会ったのも、惹かれあったこともきっと運命なんだよ。人を好きになるって理屈じゃないんだ。突然スイッチが入っちまう。そして大介ことを知るたびにさらに愛しくなる。お前の行動に目が離せなくなって、全てが瞼に焼きつけられるんだ。この気持ちをどう表現したらいいのかな。あたいはまだまだだ。こんなに愛が溢れているのに言葉にならないんだから。だけど、ユカの喜ぶ顔が絶対に見たいんだ。ここは一丁頑張るしかねえな」




