旋律 2
「大介どうしたらいい」
「やっぱり常套手段を踏まえて、最初は何をやっても上手く生きていけない主人公がモチーフだろうな」
「そうか、そこから這い上がっていかないといけねえんだ」
「浜田省吾の『路地裏の少年』なんか参考になるんじゃないか」
「誰だよ、浜田って」
「そうか、もう60過ぎたロックミュージシャンはお呼びでないか」
「どんな内容なんだ」
「路地裏からいつか夢をつかんでやるって感じかな」
「大介、お前本当に詳しいな」
「そんなこたねえよ、あっいけね。何か飲み物でも買わないと店員に文句言われるな」
「今日はいいよ、あたいが昼飯をおごるよ」
「いいさ、お小遣いは大切に使わないと…。そうだ、音源は2曲ともiPhoneに落としたのか」
「ああ、実がやってくれた。リピートできるのが嬉しい」
「楽譜にしてもらったか」
「それはまだだ」
「俺もミックスダウンからそれをiTune経由でiPhoneに落としたんだ」
「さすが実だな」
「うん、腕は十分さ。俺のギターに実がピアノの伴奏を入れてくれたから予想以上にいい曲に仕上がっているぜ。後は聴きながら詞を当て込んでいくしかない。よし、まずはユカの曲からだ。主人公は男と女のどちらでいく?」
「う〜ん、悩むところだな。大介はどう思う」
「たとえば、受験なんてクソ食らえ、みたいな詞をユキチはうたえるか」
「今までは英語だったから平気だったけど、日本語だと少しキツイな」
「やっぱそうか、いくらユキチでも厳しいか。顔から想像したらインパクトはあると思うけど」
「ハートを略奪って感じはどうかな」
「それなら女の子を主人公にしたほうがいいだろう」
「うん、ただありきたりの女の子の気持ちじゃ嫌なんだ。もっと新しいシチュエーションを作れないかな」
「それじゃ、10代の女の子が抱える不満と言ったら何があげられるかな」
「ユカのイメージでは、大人はわかってくれないって感じかな」
「よし、確信はそこに持っていこうじゃないか。ユキチ、大人になりたくないって思うときはどんなときだ」
「そうだな、頭ごなしに大人の価値観を押しつけられるときかな」
「常識をわきまえろってことか。つまり慎ましく生きろってことだ」
「つまらない人生を歩めってことさ」
「じゃあ、どうすればそれを解決できる」
「自分の意思を尊重して、悔いのない人生を生きること」
「よし、そこまで至るのに大切なことは」
「本音をさらけ出すことが必要かも」
「ユキチ、いい感じだな」
「大介、小説を作るときもこんな感じなのか」
「違う。小説は主人公がメイン。詞は歌い手の意思がメインだからだ。よし、イメージをもっと膨らませるぞ」
「あいよ、頭ごなしにあれはダメこれはダメじゃあ話にならねえ。あたいたちの人間性を信用しろっていうの」
「その中で一番訴えたいことは」
「女の幸せは自分で決める」
「つまりどういうこと」
「結婚して子供を産むだけが女の幸せじゃない」
「うむ、価値観の格差か。たとえば、昔ウーマン・リブというムーブメントがあったことは知っているかい」
「なんだい、それ」
「戦後起こった女性解放運動のことさ。信じられないかもしれないが昔は男性社会が当たり前で、女性が様々の分野で表舞台に進出することは大変なことだったんだ」
「壁があったってことか」
「そうだ、女性ロッカーが台頭し出したのもこの頃さ」
「なかなか曲の世界が見えてこないな」
「はは、そんなに作詞が簡単なはずねえだろ。ユキチも知ってるはずじゃないか」
「ああ、『忘れないで』か」
「ここからが勝負だ」




