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旋律 1

翌日、大介が朝のテレビニュースを見ていると、携帯のコールが鳴った。ユキチからだった。

「おい大介、今日空いているか」

「別に空いているけど、朝一番で実から電話があったろ」と確かめると、

「ああ、今週中に実とユカの詞を仕上げろって。結局藤井中の3曲をCDに収めるからって」

「俺には日曜までに自分の曲に詞をつけて、みんなのギターソロを考えておけって言われた」

「なんだよ、実の奴もうアレンジを仕上げるつもりか。大介、お前の曲も路上で演奏するつもりなんだろ」

「ああ、だけど俺の曲はまだ発展途上だし、詞を煮詰めるのも厄介なんだ。ユキチの詞の世界と合わないといけないと思うし…。そんなことよりどこへ行けばいいんだ」

「大井町のマックまで出てこいよ、一緒にやろうぜ」

「ちょうどいい、俺もユキチの意見が聞きたかったところだ。今から30分ぐらいかかるけど」

構わねえさ、地下にいるから」

「わかった」と大介は電話を切ると自分の部屋に向かった。そしてパジャマからTシャツとジーンズに着替え、すぐに外に出た。


大介が住む街から大井町までは大体歩いて20分ちょっとかかる。外は午前中とはいえ季節は夏本番である。少し歩くだけでシャツに汗がにじむ。仙台坂を登りきると大井町の商店街を抜けマックはすぐそこである。到着するとすぐに地下に向かった。あたりを見回すとユキチが奥のテーブルで一人難しそうな顔をしていた。


「待ったかい」と声をかけると、

「そんなに待ってねえよ」といつものつっけんどんな態度。それを見計らって大介は、

「どっちの詞を書いてるんだ」と確かめた。すると、

「ユカのほうさ。実のは『ソルジャー』ってタイトルが決まっているじゃねえか。やりにくいったらありゃしない。だってよ、ソルジャーって調べたら兵士だぜ」

「サブタイトルで愛の兵士とか、色々やりようがあるぜ」



「おっ、さすが文学少年機転が早いな。それなら兵士より戦士のほうがロマンチックだな」

「ユキチの好きにすればいいさ」

「大介、お前の曲はどんな設定なんだ」

「それがまだ固まっていない。ユカと実の曲のイメージに照らし合わせたいんだ」

「じゃあ、あたい次第ってことか」

「そういうことだ」

「じゃあ、意見を出し合っていこうぜ」


「テーマを決めなきゃ始まらないぜ」

「ユカの曲は友情なんてどうかな」

「女の友情か」

「そうか、女同士の友情は難しいかもな」

「別に男と女の友情でもいいじゃないか」

「余計難しくねえか」

「ユキチ、お前の思いが一番重要だってことを忘れるなよ」


「そうだった、そうだった。それにボン・ジョヴィだったよな」

「『リビング・オン・ア・プレイヤー』は元々はラブ・ソングだって聞いたけど」

「そうなんだ」

「よく知らねえけど、誰かそんなことを言ってたぜ」


「パンチが欲しいな。ユカが頑張った分だけ」

「ユキチ、希望を込めたらどうかな」

「なるほど、希望か。じゃあ、今の暮らしに憤りを感じているところが出発点だな」

「そうだ、失恋から這い上がるのでもいい」

「失恋したことがないからな」

「お前は男と付き合ったことがないから当たり前なんだよ」


「でもキスはあるぜ」

すると二人に距離が一気に縮まる。大介はユキチの瞳に吸い込まれるように、

「俺も一回だけある。一生忘れることのできない熱いキスだ」

「別に3回や4回あってもいいぞ」

「なんだよ、ユキチ。それじゃあ、詩人は無理だぜ」

「だったさ、正直な気持ちだもん」


「そうか、帰るとき襲っちゃうからな」

「おっ、受けて立とうじゃないか」

「こら、勝負する奴がどこにいるの。普通の女の子の気持ちにならないといい詞は書けないぜ」

「だってよう、瞳を閉じて唇が触れるのをただひたすら待つ心境なんてこっぱずかしくて書けねえよ」

「バカ、いい題材じゃないか。そんな思い出も今や遠い昔、いがみ合って別れたのになぜ思い出は美しいのだろう、とか」

「なんだよ、思い出だけじゃ生きていけないよ。大切なのは現実!」

「おまえ、詞を書く気があるのか」


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