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操舵 5

いよいよラストの実の出番となった。彼は当然のように自分のモチベーションを上げ集中していた。キーボードの椅子に腰掛けて位置に着くと、自由自在に鍵盤上を両指が踊る。さらに指のタッチを確認してから発声練習をして準備を整えていた。そしてみんなに話しかけた。


「考えてみると俺たち高校生の素人バンドがCDを売るなんて大変なことだ。みんなの発表を聴いていて感じたんだけど、俺たちは高校生らしく3曲ぐらい入っているCDを50枚ぐらい売れればいいんじゃないかと思う。値段も300円ぐらいが分相応かな。みんなはどう考えているか、話してもらえないか」


はじめにユキチが、

「確かにあたいたちのターゲットは10代が中心だな。年上の人たちを相手にするには経験不足は否めないし、まず無理だろう。路上ライブのことを先輩たちに聞いてみたんだけど、道路交通法やらで駅近くでやると、すぐに警官が注意に来るらしい。なぜ、道路交通法に引っかかるかというと、公共の場で人が集まるとどうしても危ないし迷惑になる。さらに音も騒音となって不愉快に感じる人もいて通報されるらしい。また、人気が出てくればそれをひがむ連中もいて、一言路上ライブをすると言っても問題はたくさんあるらしいんだ」


それに対して大介は、

「うん、俺も言い出しっぺだから色々調べてみたんだ。道路交通法に引っかからないように駅のターミナルとか、広場みたいなところでやるしかないんじゃないかって。騒音と感じられるのはツライけど、でも音楽を聴きたくない人もそこを通るわけだから、耳障りな音楽はできないんだ。みんなにはもっと調べてからいうべきだったと反省してる。だけど、こうやって動きだした以上最後まで演奏できる場所を探し続けるさ」


そしてユカも、

「確かにいろんな問題があると思うよ。だけど、やる前からそんな弱気でいいの。私たちが目指しているものは何?音楽をやる以上乗り越えなければいけない試練なんてたくさんあると思う。それに一つ一つ打ち勝つことが大切じゃない。行き止まったら別の道を探せばいいだけじゃない。始める前にそんな心配してバカみたい。一人じゃないんだからきっとみんなの力を合わせればなんとかなると思うわ」


最後に謙二が、

「俺はみんなの出した答えに従うよ、ついて行きたいんだ」


「みんなの気持ちはよくわかった。ヨーシ、それじゃ俺らしく曲を発表するぜ。お前らが弱気にならないような楽曲を用意した。新生デットピープルの船出にふさわしいと感じられる曲だ。それじゃみんな聴いてくれ『ソルジャー』」


実の用意した『ソルジャー』はシンコペーションを多用した独特のリズムの曲だった。ユキチにすればうたいこなすのに少々時間はかかるが、拍さえ意識すればそれほど難しい歌ではない。しかし、日本人は元々リズムに関する意識が低かった民族である。だから特に裏拍をとるのが苦手で、これを意識的に操る実の実力は高校生離れしていると言える。サビもダイナミックに盛り上がり、まるで一つのストーリーを感じさせ、詞がハマればかなりの出来になる。総合的に見て実の楽曲はやはりメンバーの中で秀逸であり、比べものにならなかった。


ユキチも間違いない、と考えていた。他のメンバーはただ圧倒され、壮大に広がるメロディーに耳を預けていた。そんな中、実だけは冷静にうたっていく。さらにリズムにハッとする罠を仕掛けて、己の音楽に対する情熱を余すことなく注ぎ込んでいた。やはり環境がミュージシャンを作り上げることは確かである。その実力は正直に音となって現れてしまうのだ。人間の魂が乗り移った音楽は、まるで生き物のようにあらゆる可能性に満ちている。

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