操舵 4
「ヨーシ!次はあたいがいく」
「取りはやっぱ実か」と大介が言えば、
「当たり前だろキャリアと才能が違うんだから」とユキチが当然のような表情を浮かべる。
「大介、アコギを貸してくれ。おっ、一丁前にエピフォンか」
「そいつは入門用で3万円しなかった」
「高校生のアマチュアには十分すぎるだろ」と言いながらユキチは左指をフレットに滑らせ、右指でフラメンコギターを弾くように弦をはじいていた。そして、
「みんな参考にした音楽を発表しているからあたいも言うよ。今回はBangles の『Eternal Flame』さ。特にスザンナ・ホフスには憧れたな。艶があって、ハートに響く羨ましい声の持ち主だ」
「おい、『Eternal Flame』ってバラードじゃないか」と大介は驚いて、
「ユキチ、バラードを作ったのか」と問いただすように語気を荒げた。
「そうさ、乙女チックに恋に焦がれる女心をうたいあげたものさ」
「ユキチもやっぱり女の子だったわけだ」と実。
「馬鹿野郎、勘違いするな。中学のとき、クラスにファンがいてさ、どうしてもあたいのうたう切ないバードが聴きたいって言うもんだから、苦労して作ったっていうわけさ」
すると実が、
「おったまげた、そんな話初めて聞いたぞ。ユキチそいつは誰だよ」
「実もユカもよく知っている菊池春香だよ」
「なんだよ、女かよ」と大介がポロリ。
それを横で見ていたユカが、
「大介、何を心配してるんだ。ユキチに男がいたら具合が悪いのか」と誘導して、
「なんでもないよ。ただ、今まで男と付き合ったことがないって言ってたから」と大介はしどろもどろになっていく。
「そういえば、ライブにかわいい女の子が来てたよね。二股はよくないぜ」とさらにユカがあおる。
「馬鹿野郎、ただの女友達さ」とヒヤヒヤで落ち着かない大介。
「額に汗がにじんでいるぜ。どこか悪いのか」と実も追い打ちをかける。
それを見ていたユキチは業を煮やし、
「お前ら、うたえねえだろ」とドスを効かせてみんなを黙らせた。
「よし静かになったな、それではうたうぜ。あたいの作詞作曲で『忘れないで』」
ジャア〜ン、ジャア〜ン、ジャ、ジャア〜ン「〜初めて逢った時から 感じていたときめき そうわかっていたの 私にはあなたが必要だと〜」
ユキチが作ったバラードはとても心地よかった。切々と噛みしめるようなうたい方、さらに詞もよくあるジレンマというより、自分の至らなさやこの恋に賭ける思いが 綴られていて、聴く人の心もあったまっていく。普段は女らしい振る舞いなど皆無であるが、ここぞというときはさすがユキチである。バラードはバラードらしくしっかり決めてくる。
歌詞は3番まであり、ユキチが最後のフレーズを弾き終わると周りから歓声があがった。
実が口火を切る。
「ユキチもそんな歌がうたえるんだからやっぱり女なんだな」
「おい、じゃあ聞くが実。今までのあたいは一体なんだ」
「そうだな、超一流の男心を持った規定外の女かな」
「なんだよそれ」
「そこがユキチのいいところじゃねえか。枠に収まりきらないところがユキチらしささ」
「褒めてんのか、けなしてんのか、さっぱりわからねえ」
「大物だってことだよ」
「そんなことより歌はどうだった」
するとあかりが真っ先に、
「とてもいい歌」と瞳を輝かせる。そして実も、
「文句ねえいい作品だ。だけど、タイトルはよく考えないとダメだな。『忘れないで』じゃあ、同名の曲が多そうだ」
続いて、
「確かに文句なしだ」と大介も良さを認めた。
「やっぱりリーダーだわ」とユカも心から賞賛を贈る。最後に謙二が、
「おそれいりやした」と深々と頭を下げた。




