操舵 3
実が下から飲み物を運んでくると、みんなすっかりくつろいでいて、流れてくる音楽が気になったのか、実の妹のあかりもいつの間にかちゃっかりユキチの隣に座っていて、実がそれに気づいて、
「あかり、お前の分はないぞ」と言うと、
「別に飲みたくないもん」とプイッと顔を横に振ると、それを見たユキチが、
「あたいのを飲めばいいさ」とお姉さんのようにやさしい表情を浮かべた。
「そっか、ユキチは実と中学が一緒だからなついてるんだ。あれ、じゃあ、なんでさっき歳を聞いたんだ」とぽかんとした表情の大介。
「こうやって直に話すのは初めてだからさ。人見知りの性格なんだよな、あかりちゃんは」
するとあかりはモジモジしながら、
「面白そうな音楽が聞こえたから…」とか細い声で囁くと、それを見た実が、
「大介の音楽が気に入ったんだろ」とつっけんどんに言った。そして、
「あかりもみんなの作った音楽を聴くか」と言うと、
「うん」と元気よく答えた。隣のユキチも、
「ここからが佳境だからな」と口走ってしまった。それを聞いた大介はほっぺたを膨らませて明らかに不満そうに、
「俺たちはなんなんだよ」と不平をあらわにする。しかし、さらにユキチは、
「まあ、前振りかな。でもあたいたちもオリジナルは初めて作るからたいした差はないさ。じゃあ、ユカ次いくか」
「あいよ」ユカ元気に答えて、
「実、キーボードを使わせてもらっても構わない?」
「ああ、ユカがキーボードを弾くなんて久しぶりだな」
そしてその会話にユキチが口を挟む。そして、
「ユカはベースだけじゃないマルチプレーヤーなんだ」と言うと、さらに驚いた顔の謙二が、
「なんか自信失っちゃうな、みんな凄すぎて」
それに答えてユキチは、
「謙二はきっと大器晩成なんだよ、心配する必要はないさ」と励まされる始末。そんな状況がひと段落したところでキーボードの椅子に座ったユカが口を開く。
「今回私は売ることを最大に意識したんだ。参考にしたのはボン・ジョヴィの『Livin' On a Prayer』さ」と言うと、
おいおい正気かよという表情の実が、
「随分メジャーなところを攻めてきたな」の声に対しユカは、
「巷で変な奴らが商業ロックとか言って馬鹿にするけど、私は一人でも多くの人に聴いてもらいたいから、印象に強く残る曲を参考にしたんだ」と付け加えてからゆっくり指を動かし始めた。
イントロのメロディーは淡々としていたが、8小節を過ぎたあたりで場面は一気に躍動へと変わり、ハードな演奏になる。そしてユカの澄んだ歌声が部屋に響いた。
「ラララ〜、ララ〜、ラララ〜」
このとき大介はユカの曲作りに感心していた。音感の響きに注目した音の組み立ての巧妙さ、はっきりしたリズム、そして演奏はハードなのにメロディーはとてもシンプルである。女の子の作るメロディーもいい。男には真似できないほど細部まで目が行き届いていて小憎らしいほどである。大介がそんなことを考えてるうちに曲は進みサビを通過し、なんとキーボードソロまでいってしまった。
「凄い、ここまで出来上がっていれば後はどうにでもなる」とユキチが叫ぶ。実もこれなら路上でも騒音とは言わせない、と確信を持つ。大介は大介なりに自分とユカはどう違うのか分析した。そしてやはり決定的なのが音楽に費やす時間と考え方ではないか、という結論に達した。俺はもっと音楽にのめり込まなくてはダメだ、しかも血が体内を逆流するくらいの衝撃を作らなくては、と。




