操舵 2
「次は誰だよ」とユキチが力強く言った。すると大介が素早く、
「俺がいく」とはっきり答えた。
「お、いい返事だな、自信があるのか」とユキチが確かめると、伏し目がちの大介は、
「はは、その逆さ、ブロンディみたいな曲を書きたかったんだけどな。お風呂みたいになっちまった」
「なんだよ、その例えは」とユキチは呆れがちで…。
「うん、一応チャック・ベリーの『Johnny B.Goode』のコード進行を使ってロックンロールを作ってみたんだ。『コール・ミー』みたいなポップな曲にしたかったんだけどな。だけど、俺にはとても無理だった
「まあいいさ、アコギを弾きながらうたうのか」
「ああ、路上でやることを意識して作ったから、それに近い演奏形態がいいと思って」
「よし、早速やってみてくれ」
「わかった」と大介。ネックに挟んであったピックを右手に移して、左手をポジションに滑らせると一気に弦をはじいた。
ジャアーン、ジャア、ジャアーンのイントロから大介はラララーとメロディーをうたいだす。そして進むにつれ、緊張もとれて知らず識らずのうちに乗ってきた。不思議なもので大介は駄作と思っていた歌がきらびやかに変化していく。彼のユキチに対する思いが乗り移ったかのような繊細なメロディー。決してうまいとは言えない歌が周りの心を一つにしていく。
俺はお前に首ったけなんだ、また、俺の気持ちをわかってくれ、と叫んでいるようにも取れた。人間は限界を超えたとき不思議なパワーが生まれると聞いたことがあるが、このときの大介はまさにそんな言葉がピッタリと当てはまっていた。
大介の感情が乗り移ればうつるほどそのサウンドは情熱的で、聴くものを虜にしていった。彼は不思議な力によって全てを吐き出すことに成功したのだ。そして演奏が終わるとみんなしばらく黙っていた。
そこで実が
「うん、まずまずの出来だ。ただユキチがうたうことを考えると疑問が残るな。大介は気づかないかもしれないが、この曲はどちらかというと男歌のような気がするんだ。だからユキチの声質を考えた場合パンチ不足は避けられない。でも、心に残るいいメロディーだと思う」
「改善の余地はあるがトータルで考えると合格点じゃねえか。おい大介、1曲しか出来なかったのか」
「ああ悪い、ユキチ。1曲作るのが精一杯だった。だけど、自分の部屋で作っているときはひどい状態だったんだぜ。今の演奏誰か録音してくれていたか」
「大介、安心しな。そんなこともあろうかとiPhoneでバッチリ録っていたから」とユカが携帯を大きく左右に振った。
「ありがてえ、多分もう一度同じ演奏をしろ、と言われても出来ねえと思う」
やっと乗り越えることができたな、とばかりユキチがやさしい眼差しで見つめていた。そこで実が、
「よし、ストックに入れよう。ユキチ、お前がうたうんだから作詞をお前の仕事だぞ」
「ああ、はじめからその心積もりさ。大介よく頑張ったな」
「まあ、過程はどうあれ結果が全てだ。みんなにそう言ってもらえるとやっぱ嬉しい」
「大介、次は俺も頑張るからさ」と謙二が拍手をしていた。
「ここで少し休みを入れて、何か飲み物を持ってくるけどリクエストはあるか?と言ってもカルピスかオレンジジュースぐらいしかないんだけど」と実。それに対して、
「毒が入っていなかったらなんでもいいさ」とユキチがイタズラっぽく言った。




