キスキスキス!
私には最近、悩みがある。恋人のキスが異常に上手いのだ。
いやいや、ノロケじゃあない。最近付き合うことになった彼氏が、校内でも1・2を争うイケメンかつ成績優秀だなんてことを自慢する気もない。
彼氏――修也は私の幼なじみだ。小さいころからどこに行くにも一緒だった私達は、同じ学校に進み、偶然にも同じクラスになった。これでも、私も結構頭が良かったりするのだ。
それから、まあ、なんだかんだ色々あってお互いずっと好きあっていたことを知った。残念ながら私はけして美女ではないので、それはもう妬まれたし、修也に振られた子達から可愛い嫌がらせもされた。精神的な攻撃はあまり気にならない性だし、直接的な攻撃はそれとなく修也が防いでくれていたみたいだからそんなに堪えなかったけど。それよりも修也と付き合えるようになった事のほうがずっとずっと嬉しくて、どちらかと言うと浮かれっぱなしだった。あれ、これはノロケ?
さて、話を本題に戻そう。付き合うようになってから二人きりになる度にキスをしてくるのだけど(それは別にいいのだけど)、最初は軽く触れるだけだったのが今では深く、舌を入れるくらいのものになってる。それが、その、気持ちが良い。ずっと修也が好きだった私には当然ながら男性と付き合った経験が無い。お年ごろだからそれなりにそういったコトには興味があるのだけど、どうにも気恥ずかしくて詳しくは調べられなかった。だから、初めて舌を入れられたときはそれはもう吃驚して思わず歯を立てちゃった。それ以降ゆっくり優しく、というかねっとりとキスをされていつも最後には腰が抜けるんじゃないかってくらい気持ち良くされてしまう。
イケメンかつ成績優秀な修也の周りにはいつも女の子が群がっているし、修也は笑顔でそれに答えているけど、特定の彼女が出来たことは一度も無い。学校でも休み時間は私と一緒にいるし、休みの日だってお隣さんなこともあって大抵はどちらかの家にいる。だから、彼女がいた事は無いと思う。けど……。
あのキスはとても初めてとは思えない。すごく経験がないと出来ないキスな気がしてならない。だとしたら、誰と?修也には彼女じゃなくてもキスできる人がいるんだろうか。……修也だったら美女のほうから寄っていきそう。
それとも、私が知らないだけで彼女がいた事があったりするんだろうか。もしかして今だって他に彼女がいて、私は遊ばれてるだけだったりして。……全然洒落にならない。なんてったってイケメンかつ成績優秀、美女だって才女だって選びたい放題なんだから。それが私と付き合ってくれてるってだけで奇跡みたいなもんなんだから。修也のことは信じたい。でも、どうしても疑ってしまうのは私が嫌な女だからなのかな。
「どしたのー?なんか深刻な顔になってるけど」
あれ、いつの間にかHRも終わってるし教室にはもう人もまばらだ。考えすぎた。
「ちょっと悩み事があってね、考えてただけ」
私の前の席の石田くんが椅子に前後ろに座ってこっちを覗きこんでいた。石田くんは小学校からの修也の友達だったりする。
「結構悩んでる?眉間にふっかーい溝ができてたよ?」
そう言って私の眉間をビシーっと突いてくる。
「石田くんと違って、私にはおも~い悩みがあるのですよ」
「ふうん。ようやく修也とくっついて、ハッピーオーラを周りに振りまきまくってる美緒ちゃんに悩みなんてあったんだー」
「ハッピーオーラなんて振りまいてません」
「いやいやいや、修也と美緒ちゃんが一緒にいるときなんてやばいよ?オレ、いっつも砂糖吐きそうだよ」
「じゃあ私と修也が一緒にいるときは近寄らなきゃいいじゃん」
「ひどっキミたちが一緒じゃないほうが少ないと思うんだけど。ま、ホントに悩んでるんだったら相談乗るよ」
石田くんって修也とは系統が違うやんちゃ系だけどイケメンだよなぁ。彼女がいたのも知ってるし、モテてるよなー。
「ねえ、ちょっとだけ相談乗ってもらってもいい?」
「うんうんナニナニ?」
周りを見ると教室にはもう私達しかいない。修也もなにか用事があったのか、教室に姿は無かった。
「修也なら職員室に用事があるって出てったよ。なに、修也のこと?」
そんなワクワクしたような目で見られても困るんだけど。
「あのさ、えーっと、うーん、ちょっとこっち寄って」
手招きすると、椅子をぐっと前に出して顔を寄せてきた。口に手を当てて、ごくごく小さい声で言う。
「あのさ、…………キス、したことってある?」
「えっオレがってこと??」
「そう」
「そりゃーあるけど。彼女いたし」
「ど、どんな感じ?えっと、その、軽くじゃなくてもっと深い感じのってする?初めてのキスで深くまでって普通?普通の人はキスしたらすっごく気持ち良くなる?」
恥ずかしくてここまで一息で喋った。てか、なんてこと聞いてんだ私!
「あ~~~やっぱ今の質問無し!聞かなかったことにして!」
「へー、修也とそんなキスしてるんだ」
「~~!いやっあのっ」
「修也って結構手早いんだね」
「それって、普通じゃないってこと?」
「うーん、人によると思うけど、童貞処女カップルのするキスとしては進んでるかなー」
「っどうっ!!」
「で?それがどうしたの?」
こいつ、ニヤニヤして絶対面白がってる。
「わ、私は、しょっ……初めてだから、全然、そういうキスの仕方知らなくて。でも、修也はそういうキスも知ってて、慣れてるみたいで」
「だから、修也は初めてじゃないんじゃないかって思っちゃった?」
こくこくと頭を縦にふる。あー恥ずかし。
「修也に他の女の影は無かったけどな。オレにも美緒ちゃんにもこっそり女と会ってるかもしんないけど。今もホントは別の女と会ってたりして」
その言葉に私の顔からザッと血の気が引く。もし、もし、今別の人とキスしてたら……。
「わわ、ごめん、そんな泣きそうな顔しないで?そうだなあ、そしたら美緒ちゃんもキスが上手くなるように練習したら?」
「練習?」
「そ。練習。上手くなって修也をメロメロにして美緒ちゃんしか見えないようにすればいいんだよ」
石田くんがずずずっと顔を近づけてくる。
「ちょっと、近いんだけど」
「キスの練習しない?オレも結構上手いよ。修也だって今頃してると思うな~」
最後の言葉にビシっと身体が固まる。石田くんの顔がどんどん近づいて、ああもう息がかかりそうどうしよういやいや駄目でしょ!
止めようと右手が動いた瞬間、バーンと大きな音を立てて教室のドアが開いた。
「なにしてんだ?」
そこには、物凄い怖い顔をした修也が立っていた。
「ありゃりゃ。もうちょっと遅く入ってくればよかったのに」
「……殺すか」
「うわー!ちょ、ちょ、たんま!嘘!嘘だって!修也がドアの前にいるのわかってちょーっといたずらしようかといててて、ごめんなさいごめんなさい」
般若のような顔の修也が石田くんの耳を引っ張って私から離していく。そんなに引っ張ったら耳ちぎれちゃうって!赤くなってるし!
「修也!石田くんには相談に乗ってもらってただけだから!耳離して!」
「なに、美緒はこいつの肩持つわけ?こいつとキスしたかった?」
「何言ってるの!?そんなわけないでしょ!」
般若のような顔がより一層怖く見えるんですけど。というか、こんなに怖い修也の顔を見たこと無い。どうしよう、もしかしなくてもすっごく怒ってる。
「俺のキスがなんだって?」
「へ!?修也、聞いてたの!?」
「キスすると気持ち良いのは普通かって聞いてるあたりから」
「聞き耳立てるとか趣味わるーい」
まだ耳が痛いのかさすりながら石田くんが横からぼそっとつぶやいた。
「あ゛!?」
「ナンデモアリマセン」
うう、修也怖いよ。
「俺のキスが上手いから?浮気してるって?なんでそうなるわけ?」
「浮気というか……そういうこと慣れてるのかなって」
「今まで俺のこと疑ってたわけだ」
「だって、修也はモテるし、私なんかじゃ全然釣り合ってないし、不安になったら止まらなくて。ごめん」
「なんでキスが上手いか知りたい?」
突然修也の手が顎に添えられて、強引に上を向かされキスされた。
「えっ……んっ……ちょ、しゅう、んんっ」
唇に噛み付くような荒いキスに息が乱れる。そのまま腕を引かれて立たされて、空いた左腕で強く抱きしめられた。
「なんかオレお邪魔みたいだから退散するわ」
こそこそと石田くんが教室を出て行くのが視界の隅に入る。
「ん……はぁっいしだくん、いたのにっ」
「俺とキスしてる時に他の男のこと口にするなんて余裕だね」
「やっ……ん……ぅんっ」
歯列をなぞられて薄く開いた腔内に強引に舌を入れられる。舌を絡めとられ、嬲られて、甘咬みされる。上顎をちろりと舌が這うとたまらなくゾクゾクする。
角度を変えて何度も何度も深くまで貪られて、修也の気が済む頃には頭の芯までぼおっとして蕩けてしまう。
「俺は、美緒だけが好きだ。他の誰とも付き合ったことないしキスもしてない。ずっと美緒だけ見てきた」
真剣な修也の目には嘘の一欠片も見えなかった。馬鹿だな、私こんなに想われてたのに信じてあげられなかったなんて。
「ただ、キスをした記憶はある」
「え?」
「信じられないかもしれないけど、俺前世の記憶っぽいのがあるんだよね」
「は?」
「頭がおかしい訳じゃないんだ。断片的にだけど、覚えてるんだ」
え、なになになに!急な展開に吃驚して頭がおっついていかない。冗談?じゃ、なさそう。表情は真剣そのものだし、なんだか切実なものを感じる。信じてもらえなかったら、私から変な目で見られたらって怯えてるような瞳。
「……わかった。修也には前世の記憶があるのね」
よし!ならば信じようじゃないの。きっと、ずっと言わないつもりだったんだろうし、私が疑ったせいで言わざるを得なくなっちゃったんならそれを私が信じないでどうするの。さっき、修也のことはもう疑わないって決めたんだ。
「本当に?信じる?こんな馬鹿げた話」
「信じる。修也が嘘とか冗談を言ってるように感じないから」
「そっか、よかった……」
安堵の表情を浮かべる修也の頬に軽くキスをしたら目を丸くして驚かれた。今日はなんだか色んな表情の修也が見れたな。
「だからさ、覚えてるんだよね。前世で付き合ってた人とのキス」
「だから上手いの?」
「そう」
「それって前世の彼女と濃厚なキスをしてたってことだよね」
なんだかモヤっとして私から修也の唇にキスをした。普段なら恥ずかしくて絶対に出来ないけど、そのまま舌も入れてみた。
「……っ!美緒」
「忘れて欲しい。前世の彼女のこと全部」
前世のことなのに、嫉妬心が湧いてきて止まらない。どうしてこんなに自分は醜いんだろう。
「覚えてないよ」
「へ?」
「不思議なことに前世での彼女の顔とか名前とかどこに行ったとか何を話したとかは全く覚えてないんだ」
「でも、キスの記憶があるって、」
「なんていうか、ソレ系の技術だけ覚えてるんだよね」
「そんな都合のいい……」
「しょうがないだろ、ホントなんだから。やっぱり信じられない?」
そう言って悲しそうな顔をしたって、目が笑ってるんだから。
「あー、もう、いいわ。信じる信じる。修也にはそういう都合のいーい前世の記憶があるってことで」
「トゲのある言い方だなー。美緒だってお得だろ?」
「何が」
「こんなに気持ちのいいキスができるんだからさ」
ちゅっ、と唇に軽くキスをして微笑む修也。
「バカ」
「ねえ、美緒。キスしていい?」
「……好きなだけ」
蕩けるように甘いキスをあなたと何度でも。
**************
「ん……はぁっ」
「……美緒、今日俺の家来ない?」
「え?」
「今日親いないし、俺ちょっと我慢出来そうにない」
「どういうこと?」
「キス以上のコトがしたいってこと」
「え、え、それって」
「嫌だって言っても強引に連れてくからね。ごめんね?」
「ちょ、聞いといて選択肢ないの!?」
「大丈夫、スッゴク気持良くしてあげるから」
「いやいや、そういう問題じゃなくて」
「ほら行こうイこう」
「えーっ!?うわ、助けてー」
お読み頂きありがとうございます。
ひたすら甘々なモノが書きたいなー、と衝動的に投稿してしまいました。
オマエラ教室でなにやってんだ!ってツッコミは無しでお願いします(^_^;)