覚醒
笛の音は、遙か遠くまで響きわたる。
同時に、静かに、しかしズシンと重い音。
「僕が呼んだのは、系統、ドラゴン」
音が徐々に大きくなる。
「レベル15、獣級モンスター」
空が暗くなって、空気が重くなる。
「ネームド・ドラゴン」
それは、緑色の龍。
「安直な名前だけど、強いよ」
「強いって……え!?」
しかし、驚いている暇など無い。
ドラゴンが、目の前に現れ、いきなり口を大きく広げた。
あまりの出来事に、少年の足が固まる。
「避けて! 炎ブレスだよ!」
フロウが叫ぶ。
しかし、少年は動かない。
変わりに彼が取った行動は……。
「火……かぁ」
ただ、右手を前に突き出す限った。
「少年!」
フロウの叫び声。
そして、ドラゴンが火を吐いた。
轟音とともに、緑色の火が、少年を包み込んだ。
フロウは、少年を助けようと……。
「え……」
しかしどうしたことか、少年の悲鳴は聞こえない。
「龍に、火とは、なかなか面白いですね」
変わりに聞こえたのは、嘲笑を含んだ声。
ドラゴンの口から、火が途絶える。
そこに立っていた少年は、傷一つついていない。
「あ……ああ……」
フロウの目の色が変わる。
それは、なにか強大なものを見る目つき。
「これは……!」
ドラゴンが少し、おびえたように後ずさりする。
少年の顔は、
「ちょっと、狩らせてもらいますよ?」
笑っていた。
数分あって。
「すごかったねぇ~」
フロウの顔に幸せそうな笑顔。
しかし、
「すいません……よく覚えてないんですけど……」
少年には、戦闘の記憶がなかった。
「んー、なんだろっかなぇ?」
フロウが不思議そうな顔をする。笑顔のまま。
「ま、いいよ。無事にネームド・ドラゴンも倒したし、レベル、上がったでしょ?」
そう言えば、戦闘終了後、ファンファーレのようなものが聞こえた気もする。
少年は、目の前に現れていたテロップを必死で思い出そうとする。
「レベル……10かな?」
「うん、なら大丈夫」
フロウが少年の目の前の地面に、双剣を突き刺した。
「なにを、するんですか?」
「名前ー。ネームド・ドラゴンを倒し、かつレベル10になっていれば、儀式ができるんだ」
「儀式、ですか」
ちょっと唐突すぎる話に、少年は戸惑っていた。
「いくよ。片膝で座って」
少年は、言われるがまま、片膝を立てて座った。
ほとんど同時に、周りの景色が一変し、真っ暗な世界になる。
『創造主よ……』
フロウが胸の前で合掌する。
『我、双剣使い、フロウ・トリッパー。
今、この者に、命を与えたまえ……』
フロウは静かに瞳を閉じた。
『この者……属性、業火。』
少年の体が、熱くなる。
『刺青、龍。』
「ツッ……!」
少年の背中に、痛みが走る。
『名を……』
『デルマックス・カタストリア』
少年の中で、なにかが弾けた。