晴天と血を飲む鳥
空は青。
地は緑。
まさしく、快晴。という感じだった。
「君、運がいいね。今日の季節は『春』だよ」
今日の?
「今日って……春は一日だけなんですか?」
「ああ、いや、違くてね。ここは、春夏秋冬に加えて、雨期、乾燥期、氷河期っていう季節があるんだよ」
フロウが説明してくれた。
「それって、いつ変わるんですか?」
「真夜中。ちょうど日付が変わる頃にさ。期換って言うんだよ」
「へー……じゃあ、真夜中に外に居れば、その期換が見れるんですか?」
少年が興味津々で尋ねる。
その問いに、フロウは、
「そうだね。おすすめはしないけど」
と答えた。
おすすめしない、と言うのは、どうゆう事だろうか。
「日没と同時に、モンスターたちが凶暴化するんだ」
「凶暴化!?」
「具体的には、全ステータスが50倍に跳ね上がるんだ」
「まじ……ですか……」
さすがに驚愕をせざるを得なかった。
例えば、レベル2で攻撃力100のモンスターならば、レベル100の攻撃力5000になる計算だ。
これはヤバすぎる。
「日の出までずっとこれなんだよ。参っちゃうよね」
フロウが苦笑する。
「大抵、その凶暴化したモンスターを、『悪魔』って呼ぶんだよ」
「悪魔ですか……なんて言うか、ピッタリですね、それ」
「でしょ。笑っちゃうよね」
と言ってフロウは笑い出す。
少なくとも笑える話しではないな、と少年は思った。
二人は、ギルドの入り口から丁度反対側にある、馬小屋のような場所に来ていた。
小屋の中には、緑色の毛の、ダチョウのような生き物がいた。
「あの、フロウさん」
「んー?」
「あの生き物は一体……?」
「ん、ああ、あれは家畜級モンスターのブラット・モアだよ」
モンスター、と言う言葉に少年が驚く。
「なんでこんなところにモンスターが!?」
「飼ってるんだよ」
「え?」
フロウが小屋に近づいていき、しゃがんで、
「ほら、見てごらん」
緑色で、卵型をした何かを取り出す。
「ブラット・モアの卵だよ」
「たま……ご?」
モンスターにも親や子供がいるのか、と少年は思った。
「大丈夫。仲間だと認めてもらえれば、危害は加えられないから」
確かにフロウは無断で卵をとったのに、攻撃されていない。
「どうすれば認めてもらえるんですか?」
少年はモアにおそるおそる近づいていく。
「簡単さ。顔の前に掌を出すんだよ」
「それだけですか?」
少年はそっと、右手をモアの顔に近づける。
「うん、それだけ。あとは、彼らが勝手にやってくれるよ」
「勝手にって……」
少年は、隣に立ったフロウを見た。
瞬間、掌に鋭い痛みが走った。
「ツッ……!」
視線を掌に戻すと、そこには、モアのくちばしが掌を貫いている。
「フ、フロウさん!」
少年は、フロウに助けを求めた。
「落ち着いて! すぐに終わるから」
「そんなッ……!」
まもなく、フロウの言葉通り、モアがくちばしを抜いた。
掌からは、大量の血が……。
「……あれ?」
流れない。
「モアのくちばしは特殊でね、傷を瞬時に回復させるんだ」
「でも、すっごく痛いんですけど……!」
血も穴もないが、痛みは消えない。
「そのうちなくなるよ。それよりホラ」
モアが少年の前に座り、首を垂らした。
「認めてくれたよ」
少年は、モアの頭をそっと撫でる。
それはまるで、子猫を撫でているようで、
少年は、少し嬉しかった。