黒い鎧の男
少年とフロウは倉庫をあとにし、ギルドの出口へと向かっていた。
途中、何人かの人に声をかけられた。
「よお、フロウじゃねぇか。なんだ、誘拐か?」
「なにー、フロウそっち趣味なの?」
「お、フロウ君、ちょっと君に聞きたいことが……」
結果、出口に着くまで10分ほどかかってしまった。
どうやら彼はギルドの中でも相当な有名人らしい。
「いやー、ごめんねー。ウチのメンバー、自由すぎてねぇ……」
フロウが苦笑する。
「いえ、全然そんなこと無いです。むしろ、楽しいです」
「そう? 気に入ってくれたなら嬉しいよ」
絶えず笑い声が聞こえて。
誰一人として暗い人がいなくて。
ケンカも一切無く、幸せそうなギルド。
これが、少年が抱いた、このギルドの第一印象だ。
(うまく、やっていけそうだ……)
内心、彼はとても嬉しかった。と、そこへ、
「おい、フロウ」
一人の男の声が聞こえてきた。
それは、先ほど、フロウと一緒にキメラと戦っていた、黒い鎧の男だ。
「なんだい、ディー?」
「その小僧に、アレ、教えなくていいのか?」
「ッ……!」
フロウの顔が一瞬、曇った。
しかし、すぐにいつも通りの顔に戻って、
「帰ってきたら、教えるつもりだよ」
と、言った。
「ほぅ……」
男は意味ありげな微笑みを返してきた。
少し、不気味だ、と少年は思った。
「おい、ガキ」
「なんですか?」
「俺の名前はジョン・ディーだ。くれぐれも、ファーストネームで呼んでくれるなよ」
ディーは左手を差し出してきた。
少年は彼の手をとって、
「よろしくです」
と、短く返した。
「気を付けて言ってこいよ」
「あいよ、まかせて」
ディーは手を放して、近くの机に向かっていった。
「なんかあの人……怖いです」
「心配しないで、彼、わざとやってるだけだからさ」
本当にそうなのだろうか?
少年の疑問。
しかしそれは、外に出たと同時に、空に吸い込まれていった。