新世界
まるで──
「……草原?」
目に飛び込んできたのは緑に輝く草原。
身を包むのは、麻の服。
見覚えにない景色。
……夢か?
そう思っていた矢先。
ズゥゥゥウウウン……
なにか大きなものが倒れる音。
「な、なんだ? 建物の倒壊?」
少年はグルっと周りを見渡す。
しかし、建物など無い。
その代わりに目に映ったのは──
「火の魔法が効かない!」
「ばか! あっちいんだよ!」
「二人とも、狩りに集中して!」
白と黒の鎧を着た二人の男と、いかにも魔法少女チックな女。
と、
グギャアアアアアアアア!!
キメラ。
「……は?」
夢だと信じたい。
しかし、そんに儚い願いは、彼らには届かないだろう。
全長五メートルはあろう巨大な怪物は、三人に襲いかかろうと体勢を低くする。
攻撃がくるのを悟ったか、
「チッ! これでもくらいやがれ!」
黒い鎧の男が地面を蹴って大きな跳躍。
キメラの顔の前で、両手に持った大剣を思い切り降りおろす。
ザシュッ! と、気味の悪い音がして、キメラの顔に大きな傷が生まれる。
ギャアアアアアアアアアア! と、人の悲鳴にも似た叫び声が響く。
「前だけじゃなくて、後ろも注意だよっ!」
と、いつの間にかキメラの背後に回っていた白い鎧の男が、手にした双剣でキメラの後ろ足を斬る。
たまらずキメラが倒れ込み、そこへ魔法少女(?)が、
「コール=ヘルブリザード!」
と、叫ぶ。
瞬間、辺りの温度が急激に下がり、氷が地面を覆う。
まるで、魔法のように。
キメラは、その氷に抵抗し、立ち上がろうとする。
しかし、地面に張り付く氷が、それを許さない。
「終わりにしようぜ」
黒い鎧の男が、体の半分を凍り付かせたキメラの頭を、
ザクッ!
斬り落とした。
キメラは断末魔を残すことなく、散った。
「な、なん、なんだ」
少年は驚きのあまり、腰を抜かす。
サクッ……と、草の音。
その音に、黒い鎧の男が反応する。
「誰だ!」
(まずい!見つかった!)
別に見つかったところでどうということは無い。
しかし彼は逃走を計った。
「どうしたんだい? ディー」
「草が潰れる音がした。人間だ」
少年は立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。
「モンスターの音、ってわけじゃないのね?」
「ああ。モンスターならこんなミスは犯さない」
無理に足を動かそうとして、少年は前に倒れ込んでしまった。
「もしかして……『道化』かも?」
「有り得るな。おい、ミリー」
「ん?」
「張れ」
少年はとにかく少しでも離れようと、地面の上でもがく。
しかし、全く前には進まない。
(は、早く逃げなくちゃ!)
「はいはいまかせて」
ミリーと呼ばれた女が、手にした木の杖を体の前に掲げ、
「コール=スパイダーフィールド」
と唱えた。
フッ、と、彼女を中心に青い光の輪が現れた。
光は少しずつ広がっていき、少年に迫っていく。
そして、光が、少年の足を捕らえた。
「見つけた! 草むらのとこに倒れてるわ!」
しまった、と思い、少年は声をあげる。
「待っ……」
「こんにちは、少年」
しかしその声は、白い鎧の男の笑顔によって、掻き消された。
「君、誰?」
白い鎧の男が、少年に訪ねてくる。
「あ、あの、僕は」
「あー、慌てないでいいよ。たぶん味方だからさ」
彼の優しそうな笑顔に、少年は安心を覚えた。
「なーに勝手に決めつけてんのよ! 敵だったらどうするの!」
と、割り込んできたのはミリーと呼ばれていた女だ。
「そんなこと言わないで、ほら、彼、おびえちゃうよ」
二人の間で話が進む。
仲がよさそうだ。
「おい、さっさと済ませるぞ」
と、もう一人の男。
ディーと呼ばれた黒い鎧の男だ。
「おい、そこのガキ」
自分のことか?と少年はおそるおそる返事を返す。
「は、はい」
「俺はのろまな奴と子供が大嫌いだ。だから、一度しか問わん」
男は、一拍間をあけ、
「お前、『道化』か?」
「ピエ……ロ?」
少年は聞き覚えのない単語に困惑する。
「知らないの? それともとぼけてるの?」
前者だ。
しかし、声が出ない。
「……まぁいい、ギルドでとことん調べてやるさ」
男の顔に、残酷な笑みが浮かぶ。
「ごめんねー、ちょっとだけ眠ってもらうわ」
と言って、ミリー(?)が魔法を唱える。
「コール=ソムヌス」
「あ……」
そして、強烈な睡魔が、少年を襲った。