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限りなく続く  作者: みこえ
本編
48/57

保坂連8

 いつの話だっただろう。桃香の結婚が決まってすぐの話だったかもしれない。この部屋に誰が住むべきかを考えると、それは必然的に棚島と桃香だと言う答えに辿り着く。


 俺がここに一人住んでいても仕方ない。もし、棚島と桃香がここに住むことを拒むのであれば、ここを迷うことなく売ろうと思っていた。いくらで売れるのかは分からないが、きっと桃香たちの生活の足しになってくれるだろう。保坂が以前、ここで一緒に住むと言ってくれたが、男二人で同居というのも淋しいものがある。

 いろいろ考えて、二人に俺の思いを伝えた。棚島は桃香次第だと言った。桃香はこの部屋は思い出の場所だから手放したくないと言った。だから、俺はもう少しでここを出ていかなければならない。


 一応十一月の初めに出ていくつもりでいる。十月に桃香と棚島の結婚式がある。それを考えると呑気な話だ。別に今更二人の邪魔をしたいわけではないのだが。まあ、それは措いておいて、そのため、九月に入ってから、不動産屋巡りが始まった。桃香は俺に「別に焦らなくていいよ」と言うが、そんな風に甘えていたら、俺はずっとここに居座ってしまいかねないのだ。きっと三人で暮らすのは俺にとって居心地が良過ぎると思うから。


 場所は会社近くにしようと考えていた。桃香たちとは離れてしまうが、そのほうが棚島にとっていいのではないかと思ったのだ。年中、義兄が部屋に来るなんて嫌だろうし。近くに住んでいたら、毎晩のように夕食に招待されかねないから。


 だが、そんなにうまくいくものではない。貯金もあるし、引越しする分には苦はないが、気に入る部屋がなかなか見つからない。休日はずっとそんな日々を過ごし、どんな部屋が生活しやすいのか分からずに頭がぐちゃぐちゃになっていた。




 俺は早めに昼食を終え、談話室で一人、間取り図を睨みながら缶コーヒーを飲んでいた。もうすでに九月末。もうそろそろ決めたいところだった。


「よう。どうした。すごい大きな溜め息が聞こえたけど」

 後ろから声をかけてきたのは疲れ果てた声をした保坂だった。板垣の面倒を見始めて、もう少しで一ヶ月になるがなかなか慣れないらしい。


「おつかれ。おまえこそ溜め息を吐きそうな勢いだな」

「後三ヶ月もあると思うと力が抜けるよ」

 苦笑する保坂もまた格好いい。


「それとさ、もうそろそろ俺、営業ではいられなくなりそうなんだ」

「まさか、経営者にはならないよな」

「そこは飛躍し過ぎだけれど、近いかな。取締役あたりはもらうかもしれない。相手が社会人になって、社長秘書をしているんだけれど、仕事も慣れてきているからそろそろ話を進めようと言う話にもなっているんだ」

「遠い存在になりそうだな」

「実は土曜日に会ってきた」

「へえ、本格始動だな」

「そうなるだろうな」

 溜め息まじりに言うその言葉はどんな感情が混ざっているのだろうか。


「俺も始動しているんだ。今部屋を探しているところ」

「へえ、どの辺に住むつもりだ?」

「保坂のマンション近くを探している。そうすれば楽しいかなって思ったけど、保坂がそうなるとどうなんだろう」

 俺の言葉に保坂はフッと笑った。


「近くに住んでくれよ。結婚したら遠くになるかもしれないけれど、それまでは相談相手が近くにいた方が嬉しい。俺の立場を理解してくれているのは加賀山しかいないから」


 少し淋しそうに微笑む保坂を見ると、俺には想像できない何かが保坂を縛り付けているのだと思えた。その縛り付けているものは保坂にとってプラスになるのかマイナスになるのか分からないけれど、その場所はきっと保坂にしか立てない場所で、歩けない道なのだろう。


「再会した婚約者は素敵だった?」

「ああ。女性とはああいうものなんだなって思えるくらいにおしとやかで柔らかい雰囲気を持っていた。何をするにも滑らかでスマートだ。教育がなっているのか、お嬢様だなって雰囲気を持っているのに、しっかり芯がある。彼女の父親がやっている会社で社長秘書をしている。まあ、かわいい娘を手放したくない父親心なんだろうな」


 再会した婚約者の事を想像しているのだろうか。まんざらでもないと言った雰囲気の笑みを浮かべている保坂を見ていると少し安心した。保坂が彼女を気に入った様子だったから。


「俺さ、これから敵だらけの世界に飛び込むんだと思っているんだよ。きっと今までとは全く違う世界なんだ。だから、こいつなら信じられると言う人に傍にいてもらいたい。だから一度だけ言わせてもらうよ。俺と一緒に住んでもらえるのが一番心強いけれど、きっとそうはいかないと思うから、本当に近くにいて欲しいんだ。一緒に部屋を探してもいい。加賀山なら信じられるから、俺のそばに今はいて欲しい」


 俺は思わず笑ってしまった。真面目に話してくれた保坂には悪いが、俺にはそれがプロポーズに聞こえて可笑しかったのだ。笑う俺が気に食わなかったのか、保坂は俺を睨みつける。だけれど、あんな言葉を聞いた後ではこの笑いを簡単に収めることなどできなかった。


「悪い、もう少し待って」

 俺は笑いながら、保坂に言った。保坂は溜め息を吐いた後、俺の缶コーヒーを奪い、ごくごく飲んだ。


「悪かったって。俺は嬉しいよ。保坂のプロポーズもどき。そう思ってくれていたんだって素直に思えたし、嬉しくも思った。モモの代わりとしてはかわいくないし、ごついけどね。まあ、だから、近くで部屋を借りる。俺にとっても気が置けない友達だし、きちんと怒ってくれる親友だとも思っているんだ。俺だって感謝しているんだよ」


 保坂があんな恥ずかしい言葉を照れる事なく伝えてくれたものだから、俺もお返しに素直な言葉で伝えた。学生の頃の友人でさえこんなにも心を開いたことはない。俺の格好悪いところを曝け出せるのは保坂だけだ。多分保坂が俺に格好悪いところを曝け出してくれるからだろう。見た眼は完璧に見えるけれど、結構弱いところを持っている保坂を知っているのは限りある人間だけだと思っているから。


なんかなあ、という感じです。読んでいて恥ずかしい……。


次回は結婚式。二人はいつまでも仲良しです。


次回もお付き合いください。

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