板垣政志3
月曜日、騒がしい保坂をきつく睨みつけ、黙らせた。何かを察したらしい。何かを聞かれても答えられる言葉がない。どういうのが正しいのか、どうすれば丸く収まるのか、どの言葉が納得できるのか俺には分からなかった。最低限の人間としか関わってこなかったツケなのかもしれない。うまく取り繕うことは今のところ無理だろう。別に保坂を責めるつもりはない。そこまで捻くれても幼くもない。だけれど、本当の事を口にすれば、きっと保坂は少しだけでも罪の意識を感じるかもしれない。感じないかもしれないけれど、感じるかもしれない可能性がある以上、正直には話せない。
俺が分かりやすいのかもしれない。察しがいいのは保坂だけではない。いつものごとく的場もなぜか板垣も何かを感じているようだった。ただ、何も聞けなかったのだろう。鈍感ではなくて助かった。だけれど、これからこのおしゃべりの板垣と一緒に出かけなければならない。その時、もしかしたら何かを聞いてくるかもしれない。かわせるかどうか不安だった。
案の定と言うべきだろうか、会社を出た途端、板垣はまくしたてるように話しだした。
「休日何か事件がありましたね。俺には分かりますよ。一ヶ月ちょっと一緒にいるんです。だからよく分かります。多分、嫌なこと。あまり思い出したくない事かも知れませんね。こういうことは吐き出すことが必要です。誰かに話すことによって昇華することっていっぱいあると思うんですよね。で、何があったんですか?」
何があったか興味があるから話せと言う事か。うまいこと聞きだそうと言葉を選んだようだけれど、まだまだ幼いな。
「耳が痛いから黙っていてくれないかな」
俺はわざとらしく板垣がいる側の左耳を塞ぐように手で覆った。
「聞いていました?」
「おまえこそ聞いていた?『黙れ』って言ったんだよ」
少し強めに言うと、叱られた犬のように板垣の勢いはしぼんだ。扱いやすい。
「何があったって構わないだろう。仕事には支障はない。それだけだ」
テンションを少し戻してやるために、軽く頭を叩いた。単純な奴は扱いやすくて好きだ。人付き合いが得意ではない俺にだって扱えるのだから。
「それにしても板垣、まともにしゃべろうとすればできるんじゃないか。何で今まであんなに馬鹿っぽく話していたんだ?」
「馬鹿っぽく見せるためですよ。相手を油断させるんです」
本気で言っているのなら馬鹿げている。だけれど、自分を下げて見せてから、後に上げていく作戦は賢いのかもしれない。俺には耐えられないのだけれど。
「まあ、癖なんですけどね。気が抜けるとあんな感じになるんですよ。なので、気が抜けないように気を張っているって言うことでしょうか」
どれが本当なのか分からないけれど、このままだと約束を果たさなければならないのだろうな。それがちょっと憂鬱だ。
短いですが、今日はここまでにしました。
次回は陸君と連君。暖かいのでおでん屋ではないですよ。
次回もお付き合いください。




