保坂連2
次の日の朝、俺は保坂の顔を見つけた時、ある決意を抱いた。それが良い方法なのか分からないが、いい機会なのだと思った。
「昨日の合コンの件なんだけれど、まだ大丈夫なら俺参加するよ」
俺の言葉に一瞬きょとんとした保坂はすぐに意地の悪い笑みを浮かべた。
「やっと女に目覚めたって?大丈夫だよ、大歓迎。一緒に楽しもう」
いつも軽いノリの男だと思ったけれど、俺の心境の変化を探らないあたりはやはりできた男だ。
「ああ目覚めた、目覚めた。一夜にしてドカンとね」
「そりゃ目出たいね。今夜は赤飯か?」
「作ってくれるのなら」
「妹君に紹介してくれるのなら作りに行ってやる」
「おまえがどういうつもりで言っているのか知らないけど、あいつには結婚を前提とした男がいるよ。残念だけれど遅かったな」
「ふうん。その心境の変化ってことか」
「聡い奴は嫌われる」
保坂は俺の妹がこの会社でバイヤーをしていることを知らない。一度俺に桃香の話を振ってきた事があった。
「おまえと同じ苗字の女がいるんだ。そいつが結構俺の好みで口説きにかかろうかと思案している」
そんな風に俺がその女性の兄貴なのだと知らずに保坂は言った。俺はネタをばらすことなく、興味なさそうに「ふうん」と一言だけ答えると、つまらなそうな顔を保坂がした。
「相談のしがいがないな」
「なら一言だけ。すでに手を付けている奴がいるみたいだから、諦めた方がいい」
この時、桃香に恋人はいなかった。だけれど、保坂になんて大切な妹は預けられない。泣かされて終わってしまうのが容易に想像できて嫌だった。桃香を泣かせた人間は誰も許すことはできない。保坂を嫌うことはしたくなかった。
「おまえ、何にも興味がない顔してどんな情報通だよ」
保坂はニヤニヤしながらからかうように言った。
「この前、談話室でそんな話を耳にしただけだよ」
こんな誤魔化しで納得してくれた保坂に感謝した。その時の噂の女が俺の妹だと知ったら保坂はどんな顔をするのだろう。あの時俺の忠告も聞かず突っ走っていれば、もしかしたら違う展開になっていたかもしれない。考えるだけで胃が痛くなるけれど。
保坂はぼうっとしている俺を不思議そうに見ていた。変な事を思い出したなんて言えなくて笑って誤魔化して見せた。
「もう、結婚相手が決まっている妹でもいいなら今度会わせてやるよ。すぐに会える」
「すぐに?なら今日にでも本当に会えるわけ?」
「ああ、今からでも会おうと思えば会える」
「何それ」
「おまえ、加賀山がそんなに有り触れた苗字なんて思っていないよな。俺今まで同じ苗字に出逢った事がない。バイヤーをしている加賀山桃香は俺の妹だよ」
「嘘……」
「本当。似ていないとか馬鹿な事言わないでよ。本当に俺の妹なんだから」
「おまえ、それで俺にあんなこと言ったのか?俺に妹をとられたくなくて」
「おいおい、別にそう言う意味じゃないよ。ただ、モモには泣いてほしくないからさ」
桃香は本当の両親を亡くしてから俺に出逢うまでにどのくらい泣いたか分からない。俺と出逢ってから桃香は両親のことで涙を流すことはなくなった。だから、枯れ果てるまで泣いたのだと思っている。桃香はあの時一生分泣いたのだ。一生分涙を流した桃香をもう泣かす必要なんてないんだ。だから、桃香を泣かすもの総てを俺は許さない。たとえ俺が原因だとしても。あの時、充分傷ついたのだから、もう傷つけたくはないんだ。
「おまえ妹を『モモ』って呼んでいるんだ」
「ああ。最初は『とうか』と呼んでいた。でも、いつからかな。『桃』が『モモ』と読めると知った時から『モモ』と呼ぶようになったんだ。そのほうがかわいらしくて似合っていると思ったから」
「おまえシスコンなんだ」
「さあ、どうなのかな。ずっと俺はモモを守るためだけに存在していたから」
うわ、あまりの低迷に耐えられず、2話同時に更新してしまいました。まあ、こんなことをしても、まだまだ覗いてはくれないでしょう。物語は佳境に入ってからいっぺんに読むのが楽しいんですからね。まあ、まず、このお話が楽しいと思ってくれるように頑張らないとならないのですが……。
まあ、愚痴愚痴言わずに――既に言っていますが――頑張るので、見放さずにお付き合いください。
次回は合コン。無縁の世界だったので、うまくは書けていません。