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限りなく続く  作者: みこえ
本編
34/57

板垣政志1

 営業の先輩、日野さんが移動になった。それを引き継いだのは的場だ。三月十日過ぎから、日野さんについてまわり、引き継ぎをしていた。そして、また五月の連休が明け、新入社員が一人、ここに来た。名前は板垣政志(いたがきまさし)。今時の雰囲気を纏った軽そうな男だった。それでも、当社の研修は厳しい。せっかく入社したのに、脱落する人間もいると言うくらいだ。


 一週間程お寺で世話になり、三週間程研修所で社会人としての知識を身につける。そして、適性に応じて職種の知識を身につけていく。だから、はっきり言えば、ここに来た時はこの会社の社員として出来上がっているのだ。だが、そんな教育を受けてきた男には到底思えない雰囲気があった。話し方からして危ない。


 まず、俺から面倒を見ることになった。次に保坂が四ヶ月面倒を見る。本当は五月は両親の命日もあるので、面倒を見ることは避けたかった。保坂にもそれを話したが、その時はフォローすると言われた。保坂としても、一番に接するのは嫌だったのだろう。的場と違って癖があって、探りを入れたいのだ。



 会社を出て、電車に乗った時、板垣は早足で歩きだし、空いている席に躊躇いもなく座った。それが当然という風だった。そして、俺はその隣に遠慮がちに座った。そんな長い距離乗るわけでもないので、普段ならドア付近に立っているところだ。


「いやあ、それにしてもうちの会社って美人率高いですよねぇ。受付の女性も、事務の女性もみんなきれいで驚きましたよぅ。華やかですよねぇ」

 何を思い出しているのか分からないが、板垣はニヤニヤと笑っていた。


「でも、ちょっとみんな派手なんですよねぇ。男慣れしている感じがして駄目だよなあ。あれって社長の趣味だったりして」

 俺に話しているのか独り言なのか微妙な音量で話す板垣を無視して、俺は小説を読み始めた。それにしても、後半の言葉は、保坂には禁句だろうな。


「男も格好いい率高いですよねぇ。課長も渋かったし、保坂さんなんて欠点なさそうだしぃ。加賀山さんもクールを装っていて、人気がありそうだしぃ」

 本人を眼の前に「装っている」とは失礼な。俺はそんな気は全くない。


「でも、保坂さんが近くにいたら霞んでしまいますよねぇ。あまり近くにいたくないなあ」

 保坂も遠慮したがっているからちょうどいいはずだ。


「俺としては的場さんがいいですねぇ。奥手の感じが出ていて、俺色に染まってくれそう」

 クツクツと下品な笑いが耳元で聞こえた。俺の我慢も限界がきて、頭をおもいっきり叩いてやった。


 この男と一緒に行動してよく分かった。理解できないと言う事が。うるさくて、自己中心的で、疲れるだけではなく、イライラさせられる。静かになることはなく、話していることは大体女性の話。俺が聞かなくても総てを語る男だ。


 俺たちの所属する部署には四名の事務員がいる。その女性たちの第一印象としての評価を永遠と俺に聞かせるのだ。一番の好みは的場らしい。経験がなさそうだから従順そうだ。などとふざけたことを言う。


 事務員の四名は合コンが好きそうで、すでに恋人がいそうだと言う。確かに四名のうち一名は結婚をしており、もう一名は恋人がいると公言している。佐原ともう一名はどうだかは知らない。合コン好きかどうかは知らないが、はっきり言えば「おまえが上目線で語るなよ」ということだ。


 その次に語るのは、なぜか保坂についてだった。なぜかは分からないがライバル視しているようだった。「おまえと保坂では月とスッポンだ」と言いそうになり、言葉を飲みこんだ。


 後は自分の女性遍歴だ。別に特別ではない。合コン好きで、でもいつも盛り上げ役になり、知らないうちに自分だけあぶれている。と言う。それだけの問題とは思えないが、それも別に言うことではないので言わない。こんな事をずっと左の耳元で話すものだから、左だけが疲れた。それをきちんと聞いていて覚えている俺も大概物好きだが。



 事務所に戻ったのが十七時。板垣にやる仕事を指示した後、すぐに談話室へ向かった。静かなところでコーヒーを飲みたかった。だが、探りを入れるため、きちんと保坂がついてきた。仕方あるまい。


 保坂にコーヒーを奢らせて、数分ぼうっとした。保坂はその間じっと俺を見ているだけで、何も聞いては来なかった。俺の姿を見て、大体の事が分かったのかもしれない。


「覚悟が必要だな。あの騒がしさがずっと続くと思うとノイローゼになりそうで怖い」

「へえ」

「一日しゃべりっぱなしだ。黙っている時間がない。頭の回転がいいと言えばそれまでだけど、話している内容や口調は馬鹿そのもの。なんで営業にまわされたんだ?というより、なんで採用になったんだ?」


「へえ。何か興味でも湧いたのかな。今までにない人材を採用してみようと思ったのかもね。それはアタリかハズレか」

「おまえ楽しんでいるけど、三ヶ月後はおまえが被害者になるんだぞ」

「分かっているよ。その時は陸君が手を差し伸べてくれるんだろう?」

 保坂はニヤッと笑う。どんな表情でも似合っていて、格好いいのが気に食わない。


「おまえの近くにいると霞むから近くにいたくないってさ」

「へえ。この容姿も悪くないってことだね」

 嫌味な男だ。


ということで、新入社員が登場です。彼は話し方にクセがあるので、読んでいても彼の会話だけは判断可能。


次回は両親命日前日。


次回もお付き合いください。

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