佐原誓2
金曜日、当然のように佐原から夕食に誘われた。本当は行きたくなかったが、ここで行かなければクリスマスイブまで持たないかもしれないと思い、承諾した。佐原はとても嬉しそうに飛び跳ねて喜んだ。その姿を見るとわざとらしく感じて、苛立ちが走った。
「佐原さんと付き合っているって本当ですか?」
外回りの帰り、的場は意を決したように聞いてきた。ずっと聞きたくてむずむずしていたのだろう。少し涙眼なのもかわいらしい。
「まあね。クリスマスイブを一緒に過ごそうと誘われたんだ」
「それで、受けたんですね」
「そういうこと」
的場はじっと俺を見つめた後、眼を逸らした。何か言いたそうだ。でも、ここで言われたくない言葉が出てくるのは想像できた。だから、それから逃げるように少し速く歩きだした。
俺はずるい男だ。自分がかわいいと思い、甘やかしたいと思った時は手懐けるような行動をする。それが楽しくて、反応を見るだけで嬉しくて止まらなくなる。だけれど、つき纏い、面倒になると面倒くさくなり、突き放したくなる。だけれど完全に離れられないんだ。かわいいペットはやはりかわいいから。やはり自分の都合のいいように扱いたくなる。今の的場がそうだ。可哀想だけれど、ちょうどいい距離を保って楽しみたい。
的場は小走りで俺に追いついた。その姿が纏わりつく子犬のように感じ、俺は躊躇いもなく的場の頭を撫でた。
夕方、事務所に戻ると、佐原と眼があった。佐原はにこりと俺に微笑み、俺を誘うように視線を投げた。癪に障ったが、クリスマスイブまでの辛抱だと思い、荷物を机の上に置いた後、佐原の後について行った。なんとなく背中に視線を多く感じたが、振り返る気にはなれなかった。嫌な空気だ。
談話室へ行くと、そこは無人だった。それをいいことに、佐原は俺の腕にしがみついた。
「わたしは、ミルクティーがいいな」
奢られるのが普通だと思っている時点で俺好みから逸れる。本当に俺のどこが好きなのだろう。俺のどこを見ているのだろう。告白の時かわいらしく見えたのは幻か?
「はいはい」
俺は自販機に小銭を入れ、ボタンを押した。佐原は落ちてきたペットボトルを屈んで取ることさえしない。どれだけ甘やかされてきたのだろう。俺はそれを無視し、自分用に缶コーヒーを別の自販機で購入した。勘違いは直してもらわないと困る。普通だったら「俺の許可をとる必要はないんだから、欲しいものを買えばいいでしょう」くらいは言っていただろう。俺の本心が出る前に気づいてもらいたいものだ。
「イブね、仕事定時で終わらせてね。そのままフレンチ食べに行くから」
「分かった」
「着替えもね。ホテルも予約完了」
「よく予約できたね」
「まあね、裏技」
まさか――と疑えばきりがないが、別にその裏技がどんなものだって俺には関係ない。聞くだけ苛立つので聞かない。お互いのためだ。
それにしても、付き合い始めて――俺はそうは思っていないけれど――数日で、ホテルにお泊りとはよくやる女だ。そういう尻軽女が一番嫌いだという事を知らないのだろう。本当に俺に惚れているのだろうか。嫌われるために一緒にいるとしか思えない。
「楽しみだなあ」
紅い艶やかな唇をすぼめて、ペットボトルに口をつけている姿は、卑猥にしか見えない。わざとやっているのなら止めた方がいい。誰か注意してくれる人はいなかったのだろうか。まあ、俺には関係ないけれど。
陸君やはり性格悪いですね。批判ばかりです。
お話を書くとき、サブタイトルなどを考えずに突っ走るので、ここに載せるときにすごく悩みます。サブタイトルもどこで話を切るかも。今回は陸と関わる人たちの名前でサブタイトル。本当はサブタイトルを考えて、それに合わせて事件が起こるとまた違うのでしょうね。そうやって書ける時も来るのかしら?
次回は佐原と外食。やはり陸節炸裂。主人公性格悪いよね、本当に。
怒らずにお付き合いください。




