加賀山桃香1
注意事項があります。
主人公は自分の感情に疎いため、自分の想いに気づかず、何人かの女性と関係を持ちます。誰かに一途に想い、奮闘していると言う事はありません。
R15設定にしたのは、主人公が突っ走り過ぎ、相手の同意を得ず(得る前に)、肌を合わせるシーンがある為です。
幼稚園生の時、俺に妹ができた。同い年の妹だ。初めて出逢った時、人形かと思うくらいくりくりした瞳が印象的だった。それ以上に無機質な雰囲気が人形のようだった。彼女は心を失っていた。
「今日から家族になる桃香だ。陸と同い年だからきっと仲良くなれるはずだ」
父がそう言って俺に桃香を紹介した。俺は桃香に見惚れた。かわいらしくて、それでいて脆くて。まるで幻想の中に生きているような儚さがあったから。
「よろしく、桃香」
俺はそう言って桃香に微笑みかけた。だけれど桃香の瞳に俺は映っていなかった。
父に連れられて俺は両親の部屋に行った。
「桃香のお父さんとお母さんは交通事故で死んでしまったんだ。その人たちはお父さんとお母さんの友達だった。だから、桃香を引き取ったんだ。今はまだ陸には難しい事かも知れないけれど、今桃香は辛くて苦しくて大変な気持ちを抱えている」
「何で?」
「もし、陸のお父さんとお母さんが死んだら陸はどうする?悲しくは思わない?」
「分かんないよ」
「うん。そうだね。陸にはお父さんもお母さんもいるからね。でも想像してごらん。一瞬にして今まであった大切なものが無くなるってどういう事か。想像することは大切なんだ」
父はそう言って俺の両手を大きな両手で包み込んだ。それは温かくてそして力強かった。
「陸はお兄さんになるんだ。そして、桃香を助けてあげるんだよ。桃香が笑う事ができるようになるように。できる?」
父はじっと俺を見つめていた。逸らす事を許さない力強さで。
「ぼくが桃香を助けるの?」
「そう。男の子でお兄さんだから」
「どうすればいい?」
「簡単だよ。陸がいつも笑いかけてあげて、優しくしてあげて、守ってあげればいいんだ。優しく包み込むようにいつもね。陸にならできる。だから、桃香を守ってあげるんだよ」
俺はその時どうすればいいのか分からなかった。だけれど、思ったんだ。あの無表情の人形のような女の子が笑ったらどれだけかわいいだろうって。そう思ったら、笑ってもらいたいって思って、そのために俺は頑張ろうって思った。
俺はずっと桃香の近くにいた。小学校も中学校も高校も大学も。そして、就職先である会社も同じだ。さすがに部署は違うが、できるだけ桃香の近くにいて、誰よりも早く桃香が苦しんでいる時に駆けつけてやりたいと思っている。それが俺の役目で、それが俺の存在価値だから。
桃香は世界に眼を向け、様々な言葉を学びたいと大学生活を過ごし、そしてこの会社で様々な仕事を経験したのち、バイヤーになった。
俺は様々な外国の小説を原文で読みたいと思い、それらを理解したいと思い、大学で勉強し、この会社で営業になった。本当は違う仕事をしたかったけれど、桃香の近くにいるためにその未来を捨てた。
俺にとって桃香が総てで、桃香に勝るものなどないのだから。
始まりました。
時間があるときにお付き合い願えればと思います。
よろしくお願いします