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004 : 港へ

《第4話》



旧貴族屋敷での一件から一夜明け、現在は昼過ぎ。

トゥルーサー、ヒイロ、カイン、ユーノの4人は宿の食堂に集まっていた。


昨夜、盗賊との戦闘を終えたトゥルーサーはその後すぐにカイン及びユーノと合流。

彼自身は軍の宿舎へと、カインとユーノは気絶しているヒイロを(主にカインが)抱え用意された宿へと、それぞれ戻っていった。

ちなみに深夜の作戦だったため、カインとユーノは昼前に起きたばかり。

トゥルーサーは兵士なのでもう少し早めに起床し、作戦の成功とケイブ氏宅の盗難物の件について上司へ報告し、その後カインらの宿へ合流。

作戦中に気絶していたヒイロも少し早めに起床し、眠そうなカインを一度起こして事情を聞き、城のミドルスの元へと報告及び今後の行動について軽く打ち合わせをして戻ってきたところである。

本来報告するべきなのはフェリウスだったのだが、彼は多忙のためミドルスが窓口となった。


そして現在、時間もちょうどいい頃合いなので宿屋の食堂で昼食を摂りつつ作戦会議が始まったところである。

「《最果て》へ向かうための船を、港に用意してもらってるらしいんだ」

そう切り出したのはヒイロである。恐らくミドルスとの打ち合わせで得てきた情報なのだろう。

「そう言えば、用意してもらえるって言ってたな」

カインが思い出しつつ応える。《最果て》までの移動手段は(温情として)政府側に用意してもらえるという話は昨日の時点で出ていたものだ。

「ってことは、港までは徒歩移動?」

ユーノが尋ねる。港は帝都から十数kmほど南下したところにあり、時間はかかるが徒歩で行けないこともない距離である。

「うへぇ、出来れば馬車か何かで移動したいところだよなぁ・・・」

馬車で行けば1~2時間ほどの行程で済むので、かなりの短縮になるのだ。カインの呟きも尤もだろう。

「どうする? 路銀もあるし、乗合で行ってみる?」

ヒイロが言うのは帝都と港を繋ぐ乗合馬車のことだ。ちなみに、路銀は政府から貰ったものなのでこちらも無理な話ではない。

「ふむ・・・。なんだったら、軍部の馬車を調達してみようか?」

それまで黙っていたトゥルーサーが切り出す。

「いいんですか?」

「ああ。軍部なら融通が利くし、御者も俺がやればいいしな」

カインが確認に快く応えるトゥルーサー。

「それは助かります!」

「ありがとー! トゥルーサー君!」

「まあ、この程度ならな」

ヒイロとユーノも異論なしと礼を言い、実際さして手間でもないのだろう、トゥルーサーもなんてことないと返す。

「じゃあ、食べ終わったら馬車を取りに行ってこよう」

「判りました。僕らもその間に準備しておきます」





《閑話休題》


ガタガタと速歩のスピードで2頭立ての幌馬車が走る。

幌の中にはヒイロ、カイン、ユーノの3人が乗り、御者台にはトゥルーサーが陣取っている。

「ところで、トゥルーサーさんは軍部のどこの所属なんですか?」

御者台のトゥルーサーに対しヒイロが尋ねる。

「陸軍特殊部隊だ。主に昨日のような雑用が仕事だ。・・・あと、俺のことは呼び捨てで構わない。歳も一つしか違わないし、先も長くなるだろうからフランクな方がいいだろう」

「うーん、それはさすがに呼びづらい気が・・・」

少し固いイメージがあるからだろうか、躊躇するようにそう応えるカイン。

「まあ、慣れてからでもいいさ。但し敬語は抜いてくれ。こっちまで気を遣ってしまう」

「そういうことなら判りま・・・った!」

「なにその軌道修正」

ヒイロの貴重な突っ込みシーンである。

「トゥルーサー君は、一人暮らしなの?」

それまでに流れをぶった切り、唐突に別の質問をするユーノ。

「ああ、軍部の寮住まいだ。ちなみに男子寮」

「男子寮・・・。大変そうだなあ色々と・・・」

寮とやらのゴミゴミとした雰囲気を想像したのか、そう呟くカイン。

「ああ、大変だよ。特に入ったばっかりの時は貞操を守るのに必死だった」

「貞操!?」

「ああ、おかげで俺も随分と趣味が変わって、今じゃ年下の男子の後ろ姿を見るとこう・・・」

「怖っ!」

「まあ、冗談だがな」

「真顔で言わないで!」

カインのツッコミが冴える。ボケ要員は増える一方だ。

「グレイブ総統は叔父さん・・・なんだっけ?」

「ああ、あの頭の固い総統のイメージからか、俺もクソ真面目だと思われがちなんだ」

ヒイロの質問に補足しつつ答えるトゥルーサー。

「確かに、トゥルーサー君はそうでもなさそうだね」

「ああ、多分父親に似たんだろう」

「父親? ってことはグレイブ総統のお兄さんだっけ?」

カインが尋ねる。実は、彼の父親スタンリー・アーネスト元陸軍中尉も弟である現総等と共に革命軍に参加していた有名人なのだ。というか、彼自身が十二分な程のサラブレッドである。

「早くに亡くしたから俺も詳しくは知らないけど、たまに総統に恨めし気にこう言われるんだ。お前はアイツに似て真面目な顔してふざけているから厄介だ、ってね」

「なるほど、確かにそうかも」

ヒイロが面白がって納得する。

「だからまあ、気楽に接してもらえると助かる。というか、軍の連中だと堅苦しいところがあるから、その方が楽なんだ」

「にしても、さっきの冗談はタチが悪かったよ。つい身構えちゃったし」

「安心してくれ、男色のケはないさ」

「じゃあ、私の方が危険だったり!?」

カインが冗談交じりに糾弾し、トゥルーサーが受け流す。そして何故か息巻くユーノ。

「・・・今後の成長に期待しよう」

「あー、もっとこう凹凸あった方がいいみたいだねぇ。」

「どんまいユーノ」

「3人とも蹴り落とすよ♪」

失礼なことをのたまう野郎3人を笑顔で脅すユーノであった。

「お、あんな感じとか凹凸凄いんじゃないか?」

さすがに殺気がやばかったのか前方へと視線を戻したトゥルーサーが、何かを見つけたのか他の3人へと声をかける。

「えっ! どんな感じ?!」

「珍しい、ヒッチハイク?」

迫真で食いつくヒイロと、なんだか珍しい光景に少し驚くカイン。

「あー、確かに凄いねアレは。でも、いい加減怒っていいよね私」

殺気を膨らませるユーノに対し、息巻く野郎3人衆。彼らの視線の先には、ふくよかな胸部が目立つ女性がその手に持った杖を掲げ道の端に立っていた。巨乳の登場である。





幌馬車は身元不明のヒッチハイカーを難なく受け入れていた。男性陣が驚くほどスムーズに彼女を引き上げたのだ。ユーノが若干冷たい目を向けていた気がするが、気のせいだろう。

「ありがとうございます。助かりました」

改めて進み出した幌馬車の中、そう丁寧な物腰で礼を述べたのはヒッチハイカーの女性である。

シンプルだが上質そうなブラウスとクリーム色のワンピースを着こなし、明るいブロンドの巻き毛や一つ一つの所作なんかが育ちの良さを表している。

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」

それに対し爽やかげに返すヒイロ。

「なあ、誰かそろそろ御者交代しないか?」

「ごめんやったことない」「私も」「どんまい」

「くっ・・・」

闖入者と親交を深めたかったトゥルーサーの提案はすげなく却下。どんまい。

「ところで、港までお送りすれば良かったですか?」

「・・・港・・・ですか?」

ヒッチハイクなので当然行き先が港の方なのだろう、そう考えたヒイロが女性に確認するが、彼女は不思議そうに小首を傾げるだけであった。上目遣いとの連携があざとい。

童顔なためか、その仕草も妙に様になっていて可愛いじゃないかと男2人とユーノまでもちょっとキュンとしたりしたがそれはどうでもいい。

あと、位置的に会話に入れないトゥルーサーの背中がちょっと寂しげだ。

「いや、ここは港へ向かう道ですからね。そこでヒッチハイクしてたので、港へ向かうってことでいいですよね? という確認でして・・・」

「・・・・・・ああ、港へ向かう途中なんですねぇ。いいですよ、そこまででお願いします」

ワンテンポ遅れ、頭をを下げながら答える女性。ちなみに応対は全てヒイロである。

カインはこういう時は役立たずなのでしょうがない。

「・・・ええっと、お姉さんはどこから来たんですか?」

「・・・お姉さん・・・?」

なんかちょっと雲行きが怪しくなってきた遣り取りに、それまで様子見していたユーノが助け舟を出すが、女性は再び小首を傾げながら自分を指し示す。

ユーノがそれに対しコクコクと首を縦に振って応えると、女性が両手をポンと打ち合わせ満面の笑みを浮かべる。

「お姉ちゃんって呼んでもいいですよぉ♪」

その直後しばらく野郎2人が無言で悶絶したのは言うまでもないだろう。そしてド正面でそのスマイルを受け止めたユーノはと言うと。

「・・・カイン、ヒイロ君。ヤバいよこの人かわいいよ!」

長い沈黙をそんな言葉で打ち破った。

ユーノ自身もだいぶ天然入ってると見られがちだが、彼女とは根本的に種類が違うのだろう。

テンポ的な意味で。

なによりユーノの行動は実はちょっと意識的に行なっているところがある。

けして計算高さからではないが、その方が自身の行動がスムーズに運ぶことをユーノは無意識に知っているのだろう。

「えーっと、それで、どこから来たんですか?」

なんとか持ち直したのか、そうヒイロが尋ね直す。

「はあ・・・、それがよく憶えていなくて・・・」

「憶えてない・・・?」

予想外の答えに思わずオウム返ししてしまいつつ、続けて尋ねるヒイロ。

「えっ、じゃあなんで道端で?」

「それはですねぇ、どうやら先程まで草むらのところでお昼寝してしまったようでして・・・。でも、近くで馬車の音が聞こえたので・・・?」

「聞こえたので・・・?」

小首を傾げなら唐突に止まる女性の説明。ヒイロが続きを促すも、女性も考え込んでいるのか暫く続く沈黙。

「・・・あの、つかぬことをお伺いしますが・・・」

「はい?」

意を決したようにそう切り出してきた女性の質問は・・・。

「・・・私は、何処から来て、何処へ行くのでしょうか?」

随分と哲学的なものであった。





記憶喪失である。

その後女性から詳しく状況を聞いたところ彼女からは、普段の動作や話し方までというワケではないものの意識を失う直前の行動はおろか、名前・年齢・出身地などの自身に関する情報すらもすっかりと抜け落ちてしまっていた。

そして現在は幌馬車内の3人で彼女の持ち物(とは言っても小さなウェストバッグとポケットの中と杖ぐらいだが)を検め、出来るだけ彼女の情報を引き出そうとしているところである。

「あ! これ名前じゃないかな?」

ユーノが何かを見つけたのか声高に何かを掲げる。

その手には一冊の小さなノート。裏面には確かに名前らしきものが書かれてあった。

「おお、どれどれ?」

「ふぃ、フィア・・・さん?」

ノート受け取りそれを検めるヒイロ。カインも覗き込み、滲んで殆ど読めなくなってしまっている文字の最初の方の文字列を読み上げる。

実際どこかでノート自体が水に浸かってしまったのだろう。その感触はやたらとごわごわしており、ノートの中身も殆ど滲んで潰れてしまっている状態であった。

名前らしき文字列も最初の数文字しか読めず、中身の方もどうやらスケジュール帳的なものだったのだろうということしか判らなかった。

「じゃあ名前はフィアさんでいいとして、これからどうしよっか?」

ユーノが皆を見回し尋ねる。

「とりあえず、港に着いたら診療所にでも行ってみるしかないだろうね・・・」

ヒイロが妥当な提案をする。

「なんだかお手間を掛けさせてしまい申し訳ありません・・・。私ってば忘れっぽいんですかね・・・?」

記憶喪失自体はさほどショックでもないのか、随分とのんびりとした感じでそうユーノらに頭を下げるフィア。忘れっぽいどころではない。

「なあ、ところでさっきから別の馬車の音が聞こえてくるんだが、後ろから来てるのか?」

それまで御者に集中していたトゥルーサーが荷台へと声をかける。

荷台の4人は会話を中断し耳を澄ますと、確かに自分たちのものとは別の馬車の音が後方からゴロゴロと響いてきていた。

すぐにヒイロが荷台の後ろへとその姿を確認に向かう。

「音からすると向こうのが急いでるみたいだね。道譲った方がいいか・・・もおおおお!?」

幌布を捲り上げ外を確認したヒイロの語尾が、何を見たのか不自然に引き伸ばされる。

「どうしたのヒイロ君? 牛なの?」

「ち、違う! 牛じゃない! ・・・虫だ!」

“バシュゥウウ!”

ヒイロが後方から目を逸らし、ユーノたちの方へ向き直る。

同時に何かが噴き出るような音。

「虫?」

“ズダァアアン!”

ユーノがヒイロの訳の判らない回答に疑問を浮かべた瞬間、荷台のすぐそばで爆音が轟く。

「うおわあああ! なにごと!?」

突然の爆音に目を白黒させるカイン。他のメンツも爆発に驚いたのか動けずにいる。

「何だ、何があった!? さっきの爆発は何だ!?」

本当にすぐ近くで爆発したのだろう。御者台にいたトゥルーサーが荷台へと目を向けると、爆風に耐え切れなかったのか幌布が荷台の端に辛うじて引っかかっているような状態になっていた。

しかし、そのすっかり役に立たなくなってしまった幌布の先も爆風で巻き上がった土埃がもうもうと隠してしまっていた。

「げほっ、えほっ・・・」

「何なの、何が爆発したの今・・・?」

ユーノが咳き込みながら、ヒイロが状況を飲み込めないままそれぞれ復活。

ちなみにフィアは爆発に驚きすぎたのか目を回してフリーズ中である。

「判らんが、後ろから来てる馬車が原因じゃないのか?」

トゥルーサーが後方へと声をかける。

「そうだ、あの虫馬車だ!!」

「はあ!? 虫馬車ってなんだよ!?」

「アレだよ!!」

ヒイロが指さした先、そこには土埃を掻き分けるように走る馬車と、それに追随するように周囲を飛び回るかなりの数の虫たちが、自分たちの馬車へと迫ってきていた。

明確な敵意と共に。





「ビビってる、ビビってる」

楽しそうに笑うのは大きなゴーグルと耳当てのようなものをした赤い髪の女。

「当てちゃえばよかったのに・・・」

そう呟くのは赤髪と同様のゴーグルと口元を大きく覆い隠すマスクをした黄色の髪の女。

「馬鹿。当てたら荷物もダメになっちゃうでしょ」

2人を注意するのはゴーグルだけを装着している青い髪をした女。

それぞれ、止まれ、注意、進め、と言ったところだろうか。

彼らが乗っているのは言わずもがな、カインらの乗った馬車の後方を走っている件の虫馬車である。

「この調子でドンドン爆破してやる!」

「ちょっと! ホントに荷物まで巻き込まないでよ!」

「だーいじょーうぶだって! 火薬抑えめで行くからさ♪」

「・・・私の出番無さそうだし、終わったら教えて」

「アンタは寝るな!」

「そうだぞー。だいたいアイラの睡眠薬の効き目が弱かったから・・・」

「・・・ミリアもちゃんとトランク閉めてなかった」

「2人ともちゃんとやんなさいよ! ミリアは花火であの馬車をなんとか足止めして、アイラも出番あるかもしれないから寝ないの! ていうか、手綱握ってて!」

「むう、判った・・・」

「へいへい。んで、ナヴィはどうすんのさ?」

「私はこれから虫たち使って荷物拾った連中何とかするのよ!」

楽しそうで喧しい赤髪はミリア、口数が少ない黄髪はアイラ、そして真面目そうな青髪はナヴィ、とそれぞれ呼び合っているようだ。

まさに、女3人寄れば姦しいを体現する連中である。

そしてそのまま、かしまし娘たちの攻撃が開始された。





“バシュゥウウ!”

再び噴出音を発しながら何かがこちらへと向かってくる。

正面から見ると判りづらいが、それはよく見ると30cmほどの細い棒状で先端が少し膨らんでいる飛行物体のようだ。

「マズい! ユーノ! 氷弾でアレ撃ち落として!」

それを目視したヒイロがその後の展開に気付いたのかユーノへと咄嗟に指示を出す。

「判った!」

その指示に応え、すぐに氷弾を目標へと撃ち出すユーノ。

ちなみにユーノは水属性も使うが、本来はこういった氷属性魔術を得意としている。

“ズダァアアン!”

しかも命中精度もそれなり。氷弾が当たり、馬車へと届くことなく爆発する飛行物体。

ヒイロの読み通りである。

一方、ユーノが馬車後方で飛行物体を撃墜している間にも側面へと虫たちが迫ってきていた。

「うわあああ! 虫来た! コレどうすんのヒイロ!?」

「どうするもこうするも、叩き落すしかない!」

悲痛な声を上げるカインに対し、自身も刀を抜き放ち、群がる昆虫どもを斬り伏せながら叫ぶヒイロ。

「き、気持ち悪いぃいい!」

サブイボ立たせながらも双剣で必死に応戦するカイン。

「またデカい音したけど、後ろで何が起きてる!?ていうか、虫が凄いけどなんだこれ!?」

ここに来て御者台のトゥルーサーも混乱の渦中へ。

「急に攻撃されて僕らもよく判らない! とりあえず、スピード上げて後ろの馬車振り切って!」

「了解!」

ヒイロの指示にスピードを上げる馬車。

しかし、相手の馬車はともかく虫たちは飛んでいるのだ。すぐに何匹もの奴らに追いつかれてしまう。

ユーノもいつの間にか虫たちを叩き落とし始めている有様だ。

「コラァアア! お前ら、止まれぇえええ! あとそいつ返せぇえええ!」

暫く虫たちを必死で叩き落としていた3人に突如罵声が浴びせられる。

声の主は彼らを追う馬車の上、赤い髪の女だ。

「ソイツ・・・? あぁっ! フィアさんか!?」

赤髪の言葉の意味を理解したのか、ヒイロが昏倒しているフィアへと視線を向ける。

「ヒイロ、あいつらの狙いってフィアさんなのか?」

群がる虫たちを双剣で斬り払いながら、ヒイロへと尋ねるカイン。

「多分、そうだろうね・・・」

“バシュゥウウ!”

「ヒイロ君、またアレが来る!」

三度噴出音。爆発する飛行物体が迫る。

「くっ! ユーノもう一度・・・いや、トゥルーサー! 一旦スピード下げて!」

さっきと同様ユーノの氷弾で撃ち落とそうと指示を出そうとしたヒイロだったが、急遽それを取り止めそのまま御者のトゥルーサーへと減速の指示を出す。

「・・・!?」

状況が掴めないながらも、指示に従い手綱を少し引き寄せるトゥルーサー。

「おいヒイロ、どうすんだ!? 当たるぞ!」

馬の嘶きとともに減速する馬車。当然縮まる飛行物体との距離。もう目と鼻の先だ。

「カイン! 任せた! 投げ返せ!」

「はあッ!?」

ここでまさかの無茶振り。しかし、考えてる暇はない。飛行物体は今にも着弾する寸前である。

「ああもう、ちくしょう! ユーノ伏せて!」

馬車後方、ユーノの隣へと躍り出るカイン。

伏せるユーノの頭上近く、カインのほぼ真横であるそこを飛行物体が駆け抜けようとしたその刹那。

その動体視力により軌道を捉え、その反射神経により飛行物体の柄に当たる部分をタイミングよく引っ掴むカイン。

「お返しだあああ!」

そしてそのまま投擲。

「今だトゥルーサー! 加速!」

叫ぶヒイロ、再び嘶き。

“ズダァアアアン!”

次の瞬間、そのベクトルを180度反転させられた飛行物体の着弾音が轟く。

今度は自分たちのではなく、相手の馬車の近くでだ。

「やった・・・! 出来た・・・!」

「さすがカイン! 信じてた!」

「ヒイロ、お前なぁ・・・」

「まあまあ。でも実際出来るとは思ってたよ。だってアレ・・・」

「判ってるよ、確かにアレは・・・」

「「矢に比べれば遅い」」

2人の声が重なる。実際、さっきの飛行物体は放たれた矢に比べれば遅いものであった。

そして以前、実際の弓矢を用い、迫る矢を斬り落とす練習をしていたことのある彼らである。

しかも唯一撃墜に成功したカインにしてみれば、迫り来るそれを斬り落とすだけでなく、掴み、投げ返すぐらいやってのけて然るべきなのだ。(とは言っても常人には到底不可能な領域ではあることは間違いないが)

「でも、コレで向こうも迂闊にアレを撃ってはこなくなるだろうね・・・」

ヒイロはそう呟き、今しがたようやくの反撃に成功した相手馬車を見やった。





その馬車の上、3人娘は流石に固まっていた。

直撃は避けてはいたものの、その予想外の反撃にフリーズ中である。

「えっ、何でこっちで爆発したの・・・?」

「なんか、投げ返されたように見えたけど・・・?」

赤髪のミリアも黄髪のアイラも状況が飲み込めないのか呆然とそう呟くばかり。

「見えたんじゃなくて、投げ返されたのよ!」

一人持ち直したのか青髪のナヴィがそう言い放つ。

「・・・えっ? あの花火を素手で投げ返したってこと? ・・・えっ?・・・馬鹿なの?」

「まあ、多分馬鹿みたいに反応速度がいいんでしょうね!」

何時まで経っても事実を受け入れきれないアイラに対し投げやりに返すナヴィ。

「くっそー! もっと撃ち込んでやるッ!」

「やめときなさい。また返されたら流石にマズいわ」

そこでようやく復活したのかそう吠えるミリア。しかしすぐにナヴィが諌める。

「あんなのマグレだって!」

「・・・マグレじゃないかも」

「ぐぅ・・・」

アイラの追い打ちに流石に押し黙るミリア。

「アイラ、いい手はない?」

「・・・今は吹き矢しかない・・・」

「いや、あるんなら最初から使いなさいよ」

「・・・コレ、結構疲れる」

ナヴィに責められつつも渋々吹き矢を構えるアイラであった。





「痛っ!」

虫を叩き落す作業に戻っていた馬車の上、突然自身の肩を押さえ蹲るユーノ。

「どうした!?」

「判んない。ちょっとチクっときて・・・」

作業の手を止め駆け寄る男2人にそう返すユーノ。

「どこ? 診せて?」

「らい丈夫、多分虫に噛まれちゃったにょ・・・? う・・・?」

呂律が回っていないあざとい話し方をし始めたと思ったらそのままバタッと倒れこむユーノ。

「おいおい、大丈夫か?」

カインが慌ててユーノを抱え込む。

「ああ・・・、こえ、ろくだ・・・。ごみぇん、わらひむい・・・」

当のユーノはというと目を回してカインに身を預けるのが精一杯のようだ。

「多分、これのことだ・・・」

ユーノの肩の様子を診ていたヒイロが羽のついた細い針を取り出す。

「ヒイロ、それって・・・!?」

“トスッ”

「いて」

「えっ?」

「ああ! しまった!」

そういいつつ背中から針を抜き、指し示すヒイロ。

「毒針だ! カイン気をつけ・・・うっ・・・!」

「おい大丈夫か、ヒイロ!?」

「痒い!」

そう叫ぶと突如として体中を掻き毟り出すヒイロ。

「か、体中が痒いぃい! なんだよこの毒!?」

「だ、大丈夫そうだな・・・」

「全然大丈夫じゃない! カインも気をつけろ! こんな小さい針じゃ流石に叩き落とせない!」

そう叫びながらも身体を掻くのを辞められないヒイロ。どうやら相当痒いらしい。

“トスッ”

「あた」

「え」

「しまったああああ!」

「大丈夫か!? ああもう、痒いぃい!」

「クソ、今度はどんな・・・は・・・は・・・」

太腿から針を抜くカインだったが、その言葉が突如として遮られる。

「は・・・?」

「・・・ハックショイ!」

くしゃみによって。

「えええええ」

「・・・ヒイロ、もしかして・・・ブエックショイ!」

「うん、くしゃみだね。うう、痒い痒い痒い」

「くっそ、なんて毒・・・ヘアックショイ! ハックショイ!」

「・・・ふらりとも、わらひがひま、はいふく・・・」

こうして呂律の回らないユーノ、体中を掻き毟るヒイロ、くしゃみが止まらないカイン、というカオスが完成した。緊張感は皆無だが絶体絶命である。

「おい、大丈夫かみんな!? なんだ!? 後ろで何が起こってる?!」

そのカオスに流石のトゥルーサーも後ろを振り向き確認する。

「トゥルーサー! 毒針でみんなやられ・・・フエックショイ!」

「なんとなく判った! 全力で逃げよう」

「大丈夫です」

全速力を出すためその手綱を握り直そうとしたところのトゥルーサーにそんな声が掛けられる。

「えっ・・・?」

「フィア・・・さん・・・?」

突然の声と立ち上がった人物に驚く男3人。ユーノは目を回していてそれどころではない。

「もう皆さんを傷つけさせたりしませんから」

視線の先、凛としたその声はさっきまで気絶していた記憶喪失天然娘フィアのものであった。

そして彼女はその手に持つ杖を掲げ、詠唱を始めていた。

光りだす杖。正確には杖上部に嵌めこまれた丸い宝石だろうか。

詠唱によって宝石の前面に円状の文様が浮かび上がりゆっくりと回転しだす。

続く詠唱。文様は一気に大きくなり馬車をその円内へと収めるようにそのまま分裂を始める。

同じような円状文様が幾つも出来上がり、それぞれが馬車全体を包むように縦に並ぶ。

“キンッ”

馬車後方で金属音が響く。

「もしかして針が防がれた・・・!?」

「いや、針だけじゃない。虫たちも」

カインのその声に気づき見渡せば、さっきまで果敢に攻め入ろうとしていた周囲の虫たちが明らかに文様によって阻まれている。

「ていうか、僕たちの毒も・・・?」

「ホントだ・・・、治ってる・・・?」

「うう・・・。2人とも大丈夫・・・?」

いつの間にか痒みもくしゃみも止まっていた男2人に加え、一番重症であった筈のユーノすらも復活していた。

「えっ・・・? フィアさん・・・?」

ユーノもフィアの現状に気づいたのか、光り輝く彼女(正確には彼女の杖だが)へと声をかける。

「もう大丈夫ですよぉ」

ニコッという擬音がしそうな笑みをユーノへと向けるフィア。

「女の子を傷つけるなんて・・・」

彼女はその笑みを湛えたまま杖を更に掲げる。

「おしおきしないとですね」

笑みを深くしたフィアが更なる詠唱を後方へと向けた。





前方の光る馬車の中心。《荷物》の掲げた杖が一層激しく輝く。

その瞬間、ナヴィの背筋に尋常ならざる悪い予感が駆け巡る。

「ミリア、起きて!」

咄嗟の判断。

「なんだよー。もう私の出番無いんだろー?」

ナヴィの声に後方で暢気にふて寝していたミリアが不満げに体を持ち上げる。

次の瞬間、彼女らの馬車の中心線上を音も無く光が迸る。

2頭の馬の間。ナヴィとアイラの間。体を持ち上げたミリアの顔の真横。

「えっ・・・?」

一台の馬車が二台のそれへと引き裂かれていた。





“ドガッシャーン!”

馬の嘶きとともに後方の馬車だったものから轟音が鳴り響く。

トゥルーサーを除いた3人は呆気にとられ、フィアを注視していた。

「ふう・・・、皆さん大丈夫ですか?」

一仕事終えた感で、その3人へといい笑顔を振り撒くフィア。

「・・・ひ、光属性魔術・・・!?」

絶句していたヒイロが、辛うじてそう絞り出す。

「ふぃ、フィアさん、いったい・・・?」

「凄い・・・!」

驚愕を隠せず動揺を見せるカインに、アレだけの規模の魔術に驚嘆を示すユーノ。

「なあ、もうスピード落としても大丈夫なんだよな・・・?」

前方に集中していたため今ひとつ状況飲み込めずにいるトゥルーサーだけが、健気に馬の手綱を繰るのみであった。

気づけば、港まで残り僅かとなっていた。





「し、死ぬかと思ったー! ていうか、アレが私らの《荷物》なワケ?!」

「そうよ」

「・・・聞いてない・・・」

「私もよ」

馬車だった物の残骸とともに転がる3人娘。

「仕方がないわね。上に報告して、救援物資追加してもらいましょう」

「ちくしょー! 次こそ爆破してやるー!」

「・・・毒、もっと必要・・・」

それぞれに次回の奪還へ向け思考を切り替えるあたりまだ折れてはいないようだ。

「にしても、あの『魔術』とやらは厄介ね・・・」

「確かに! 聞いちゃいたけど、スゲェなー! 爆発できるかな!?」

「・・・スゥー・・・」

「どうでしょうね。まあ、対策は必要になってくるわね。あと、アイラは起きなさい」

「道端で寝たら風邪ひくぞー!」

「・・・ねむい」

3人娘はやられてもただでは起きないのだ。具体的に言えば、寝てから起きる。


4話目やっと投稿でできたー!

待ってないかもしれないけどお待たせしました!

1万文字も何とかクリア!

というワケで次も時間かかるかもですがなんとか頑張ります。


誤字脱字の指摘とか、字数多いとか、読みにくいとか、早く書けとか、そんなんあったらどうぞお気軽にー。あと感想も。

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