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001 : 森での一件

それは、彼らにとっての始まりの物語。

空白の歴史の、最初の1ページ。








《プロローグ》



とある研究機関。おそらく本来は稼動していない時間なのであろう。

電灯の消えたその廊下を一人の青年が足早に歩いていく。

「確か、この先にあった筈だ・・・」

そうひとりごちる彼は白衣を纏っており、研究者のようであった。

顔には焦燥感が滲み出ており、動きも挙動不審。何かを探しているようだ。


やがて目的のものを見付けたのか、ある部屋の前で立ち止まる青年。

その部屋の扉には大きく『立入厳禁』と書かれている。

彼はそれを見ると苦々しげに「判ってるよ・・・」と呟き、持っていた鞄から小さな端末を取り出した。

そして扉の横、セキュリティのために設けられているのであろうその場所に端末から伸びたコードを差し込み、なにやらカタカタと操作し始める。


数分ほどで、端末のモニターに『unlock』の文字が並ぶ。

「ふー・・・」

憂鬱そうにため息を吐く青年。あとはEnterキーを押すだけである。彼は再び扉を見つめ、震える指でキーを押す。


ゆっくりと開いていく扉。あくまで暗い顔の青年。

「何でこんなことに・・・」

そう呟いても扉は開く。

それでも、扉は開いてゆく。

それでも、足を踏み入れる。

やがて来る、恐るべき未来を、変えるために・・・。









《第1話》



少女が少年を起こそうとしている。

少年の自室なのだろう。部屋の3割ほどを占めるベッドの上で少年が眠っており、その脇で少女が少年の名前を必死に呼んで揺すっている。

「カイン!カインってば!ほら、もう起きて!」

カインと呼ばれた少年はまどろみの中考えた。

コレはアレだ。幼馴染の少女が「しょうがないんだから!」とか言いつつも甲斐甲斐しく起こしに来てくれる、っていうよくあるシチュエーションだ。やったぜ・・・。そんなくだらないことを考えながら、とりあえずこの甘酸っぱいひと時をもう少しだけ、と思いながら「あと5分・・・」と変わらず惰眠を貪ることを少女に伝える。もちろん目は開けていない。

少女はそんな少年の様子を見ると、「いいよもう、起きないんならこっちにも考えがあるよ!」と窓へと向かっていく。

そのまま窓を開けた少女は、穏やかな朝日が降り注ぐ街並みに向かって息を吸い込み話し始めた。

「え~、皆さんおはようございます。突然ですが、この部屋に住むカイン・ストリーム君17歳はベッドの下やクローゼットの中、更には天井裏などに所狭しと何十冊ものエr」

「やめーい! 起きるからー! 適当な嘘を街中へと叫ぶなぁ!」

残念ながら、少女の独白はこれからというところで飛び起きたカインの糾弾によってかき消されてしまった。

「起きちゃったか。残念」

ベッドへ向き直り、悪びれもせずに残念がる少女。

「俺はこの予想外の展開が残念でならないよ」

それに対して悲痛な感想を漏らすカイン。

「これからがいいとこなのに」

「もういいから・・・。で、ユーノ、いったい何の用なんだよ?」

さっさとさっきのことを忘れたいのか少女の訪問理由を尋ねるカイン。

「え~、忘れたの? 昨日、ヒイロ君と3人で森に行くって言ってたじゃん!」

ユーノと呼ばれた少女は信じられない、と責める口調で答えた。

それを聞いたカインは昨日のやり取りを思い返す。そういえばそんなこと言ってたような・・・。

「あ~、そっか。ごめんごめん、忘れてた」

今ひとつ思い出せなかったカインは、きっと言ってたんだろうなと思い、正直に謝る。

「もう! じゃあ、早く準備して降りてきてよね、下で待ってるから!」

少女はそれだけ言うと部屋を出て行った。おそらくいつものように家の前でヒイロと待っているのだろう。

カインは、あまり待たせてさっきの二の舞はごめんだとばかりにすぐに外出の準備に取り掛かりだした。

やはり昨日の約束は思い出せないでいたが、準備に夢中で気にしないことにした。


服を着替え、居間に下りて顔を洗い、朝食を食べ・・・。

「あれ? 母さん、俺の朝ごはんは?」

そこでカインは、ダイニングテーブルの上にいつものように並べられてある筈のものが見当たらず、台所で皿を洗う自分の母親に疑問をぶつける。

「あら、おはよう。ご飯なら、さっきユーちゃんとヒイロ君が食べてったわよ」

こともなげに事実を伝える母。

そしてカインは悲壮な顔を顕に「俺の朝のエネルギーは!?」と紛糾する。

つーか母よ、少しは止めてほしかった、という気持ちを込めることも忘れない。

「バナナあるわよ」

「行ってきます・・・」

意外にも冷たい母を尻目に仕方無しにバナナを頬張り、店の方へ出るカイン。

うん、今日も元気だバナナがうまい、やっぱり朝はバナナだよね、と自分を慰めながら。


ストリーム家は自宅で商店を経営しており、居住スペースと商店スペースが一体となっている。ちなみに、武器や防具などを売っている武具屋である。

バナナを食べ終えたカインは、店側に出て何かの作業をしている父に声をかける。手にしていたバナナの皮は傍らのゴミ箱に入れておいた。

「父さんおはよ。ちょっと森に行ってくるから、剣持ってっていい?」

カインの父は作業の手をいったん止めカインに目を向けると、いくつかの剣がささっている傘立てのようものをあごで指し示した。

「・・・じゃあ、その辺のナマクラ、適当に持ってっていいぞ」

それだけ言うと、またすぐに作業に戻ってしまった。


この街付近は割と平和な方である。

とは言ってもたまに危険なワイルドやモンスターも出るため、街から出る時には何かしらの武器を持って行くことになっている。

ちなみに、ワイルドとは野生動物のこと。

というわけでカインは父に言われた通り、ささっていた適当なショートソード(ナマクラ)を2本手にした。そしてそれをそのまま持っていた鞘に収め、腰に括る。

カインは、剣2本を使って戦う二刀流の使い手だ。

そして純然たる庶民であるストリーム家では、剣は消耗品であり、鞘はリユーズ出来るものなので森に行く時は大体いつもこんな感じだ。

というか、普通の庶民なら殆どこのスタイルだろう。

愛剣、なんてものを手にしている人間はほんの一握りの剣士や戦士ぐらいのものである。

「じゃあ、行ってきます」

「ああ、あとコレ、ユーノちゃんに」

そう言って、丈夫そうな革のグローブ(拳の部分には痛そうなリベット付き)をカインに渡す父。

カインが腰にぶら下げているナマクラよりだいぶいいものだ。

「え、なんで?」

カインはそれを受け取りつつ、当然の疑問を口にする。

「修理の返却?」

充分あり得る展開も予想しておく。

「いいから。」

父はそれだけ言うと、カインにグローブを押し付け再び作業に戻ってしまった。

カインはそんな父の背中を見つめ、相変わらずユーノのファンだなこの親父は、と少し伏せ目がちになるばかりだった。


外では案の定、入り口の横で2人が待っていた。カインは寝坊したことを謝ろうと口を開こうとしたが、そういやこいつらに朝食奪われたなということを思い出し、一瞬躊躇する。

躊躇した結果、「遅れてごめんけど、朝食返せよ。」とそのままの気持ちをぶつけることにした。

「うん、ごちそうさま♪」

「美味しかったよ☆」

2人はその率直な気持ちにいい笑顔で答える。朝食のお礼と感想も欠かさない。

それに対してカインはもうため息しか出てこない。

「はあ・・・。そういえば気になってたんだけど、昨日、森に行くなんて話したっけ? どうしても思い出せないんだけど・・・」

ため息ついでに、朝起こされてから気になっていたことを聞いてみる。

「したよ。昨日、ユーノと2人で」

「あ~、なんだ、やっぱしてたんだ~。でも2人で、ってそれじゃ俺知ってるワケないじゃーん。つーか、ホントもう朝食返せよ、おまえらーッ!!」

「ヒイロ君、やっぱり怒られちゃったね~。しかもちょっとノリツッコミで」

「だねぇ。しかも徐々にツッコミに変わっていくというちょっとした小技まで・・・」

「ちょっとは謝ってくれよ!」

「まあまあ、いつものことなんだから」

3人の関係性は大体こんなところである。

ヒイロがカインをいじり、ユーノがそれに乗っかり、カインはそれにツッコミを入れる。

ちなみに、ヒイロとカインは同い年で17歳。ユーノは一つ下の16歳だ。

「ようし、3人揃ったところで森にしゅっぱーつ!」

それまでの流れを意に介さず、元気よくユーノが言い放つ。ヒイロもそれに倣う。

「話聞けよ・・・。ていうか、いつものことってのを嘆いてんだけどな・・・」

カインはもう強く言うのが疲れたのか、元気な2人に諦めモードでついていくことにした。



「カイン、これ朝食のお礼。きっと美味しいよ!」

「うん、いろいろツッコミたいけど、コレまず毒だから」

「え、そうなの? でも、ヒイロ君が・・・」

「ヒイロ、怒るぞお前!」

「冗談だってカイン。ほら、こっちは食べれる」

「まったく・・・」

森の中、3人は朝食を食べていないという可哀想なカインのために食料を探しながら進んでいた。

「もううぃえば、みいろ?」

口の中で木の実をもごもごしながら話しだすカイン。

「なに?」

当然スルーするヒイロ。

「・・・・・。いやさ、森に何しに来たのかと思って」

暫く黙って口の中を空にしたあとに疑問を口にするカイン。もぐもぐごっくん。

「ああ、ちょっと遺跡を調べにね」

「遺跡? 『渡月廊』のこと?」

ユーノは遺跡とやらに心当たりでもあるのか、とげつろう、と口に出しヒイロに確認する。

「そう、『渡月廊』」

「へえ、なんでまた急に? 行っても何もなかったんじゃなかったっけ、あそこ?」

カインは記憶を辿る。

自分達の住む街から最も近い遺跡『渡月廊』は、その近さゆえ当然何度も調査し尽くされており、既に誰からも興味を示されなくなった忘れられた遺跡である。

それ故、この遺跡の眠る森は『忘却の森』なんて呼ばれているくらいだった筈だ。

「いや、何となく」

「何となく?」

ヒイロの意外な理由に首を傾げるユーノ。

「うん、別に目的があるワケじゃないんだ。僕自身、何度もここに来たことあるし。強いて言えば、夕べたまたまここの調査記録読んでたからちょっと気になったぐらい」

「ふ~ん・・・。あ、そうだ!」

突如何かを思い出したのか声を上げるユーノ。

「どした?」

「いや、たまたまで思い出したんだけど、私もちょっと『渡月廊』に用事があるんだったよ。たまたま」

カインの問いに、自分にも『渡月廊』に用があると答えるユーノ。

「ユーノこそ珍しいじゃないか、何の用なの?」

「うん。大した用じゃないんだけど、なんか最近『渡月廊』付近に割と大きい鳥のワイルドが出るから、様子見て来いってお父さんに言われてて・・・」

「へえ、師匠がねえ・・・」

ユーノの家は道場をやっており、ユーノの父はそこの師範である。

ヒイロはそこに通っている生徒なので、ヒイロにとってユーノの父は師匠なのだ。

ちなみに、カインも通っている。

「んで、危ないから片づけて来いって」

「片づけるって・・・」

「危ないなー」

「あと、カインとヒイロにもやらせとけって」

「え」

「えっ」

「えっ?」

ユーノの一言に固まる2人。

それを見て何故か固まるユーノ。

「いやいや、聞いてないよ!」

「うん、言ってないもん」

なんとか沈黙を破り突っ込みを入れるも、こともなげに返されるカイン。

「師匠、相変わらずだなぁ・・・」

一方、ヒイロは既に悟ったかのように呟くだけだ。

「別にね、すぐじゃなくてもよかったみたいなんだけど、まあ、今日でいいかなみたいな・・・」

「こ、心の準備が・・・」

「まあ、今回のは師匠にしてはまだいい方じゃない?」

「うぐぅ、過去のトラウマが・・・」

ヒイロの慰めで、何かの思い出が蘇ったのか呻きだすカイン。

ユーノの父はこういった課題を突如子供たちに吹っ掛けることで有名なのだ。

そしてその課題に対し、若干アレ気味のユーノは特に苦でもないらしく、飄々としたヒイロは後頭部に汗をかきつつこなし、カインはいつも嘆いている、といった感じである。

ちなみに、他にも道場生はいるのだが、この3人への課題が最も厳しい。

まあ、それだけ期待されているのかもしれないが、実は気兼ねが要らないからというのが3人の知る由もない師匠の本心。

「と、そんなこと言ってるうちに着いたね」

いつの間にか到着していたのかヒイロが前を促す。

そこは少し森が開けている崖下で、小さな洞窟と簡素な案内板が佇んでいた。

案内板には簡単な説明書きまでされており、ここが如何に調べつくされたかが見てとれる。

というかそもそも、森が開けているのは調査の為に整備されたからであり、ここへ来るのもそれなりに整備された道を歩いてきたのだ。

「ホントだ。やれやれ、急に件の鳥が出てこなくて助かったよ」

「ホントだ。結構大きいね」

「大きい?」

カインが安堵を呟くも、現実は非情である。

ユーノの頓珍漢な感想に振り向くと、そこには高さ2.5mほどの2足歩行の鳥がこちらを睨んでいた。凶暴そうに。

「うわあ、こりゃでかいなあ」

「て言うか、今にも襲われそうなんだけど・・・」

感情のない声で感嘆するヒイロと、ビビりまくるカイン。

“ぎょえ~!!”

件の鳥は、テンション上がってきた!とばかりに威嚇し始め、3人も戦闘態勢に入る。

「あ、そうだ。ユーノこれ!」

剣を構える前に父から預かっていたグローブを思い出したのか、それをユーノに手渡すカイン。

鳥は律義に威嚇し続けて場を繋げてくれているのがありがたい。

「え、くれるの?」

「うん、父さんから」

「やったー♪ ありがと!」

カインからグローブを受け取り、装着するユーノ。

「さてと、じゃあそろそろ捌きますか。」

「え、食べるの?」

「ささみがいいよね」

居合で向かうためか刀の柄に右手を添え調理宣言するヒイロ。

2本の剣を鞘から抜いて構えつつツッコミも忘れないカイン。

自分の好きな部位を語りつつ装着したグローブで拳をぐっぱして感触を確かめるユーノ。

下らないやりとりをしながらもそれぞれ鳥に相対する3人。

師匠のお陰か、実は結構闘い慣れていたりするのだ。

“ぐけぇ~っ!!!”

一方鳥は、いい加減痺れを切らしたのか襲いかかってきた。食うなよ!って感じで。


まず、前衛のカインに襲いかかる鳥。

鋭い嘴を眼前に突き立てるが、左剣で払いのけるカイン。そのまま右剣で追撃しようとするが、鳥はそれを察知してかすぐに離れる。意外と頭が回るようだ。

続いてヒット&アウェイを得意とするユーノがカインの右横手から走り抜け、鳥の首元目掛けて左足で回し蹴りを放つ。

鳥はその一撃に対し、重心をずらして首の付け根辺りでユーノの足を受け止める。脚がめり込むが感触が弱く手応えが悪い。首の付け根付近は羽毛がふっさふっさのため、ユーノほどのウェイトでは決め手になりかねるのだろう。

しかも、そのまま体当たりでユーノの体勢を崩すというおまけ付き。

「どうしよう!意外とお利口だよ、あのコ!」

本能なのか知性なのか鳥の意外な動きの良さに驚愕しつつ、崩された体勢を後方に転がることで立て直すユーノ。

「じゃあ、コレならどうだ!?」

その後方に控えていたヒイロが抜き身の刀に電流を纏わせて鳥に迫る。じりじりと。

ヒイロは3人の中で最も魔術が得意だ。次いでユーノ、カインという順。

電流を纏った刀を左からの逆袈裟で鳥へと振り抜くヒイロ。その危険性が判るのか、逆袈裟を嘴で受けようともせず慌てて避ける鳥。

しかしヒイロはそれを読んでいたのか、振り抜いた刀をすぐに返し逆胴を放つ。

ガキィ! と音がしたかと思うと、驚くべきことに鳥は左脚で石を掴み逆胴を受けていた。

そのまま刀身が滑ることがなさそうなのは、摩擦の低そうな砂岩のためだろう。

偶然拾ったと思いたいなこりゃ、利口すぎでしょ。と傍で見ていたカインは思ったという。

しかしそこはヒイロ、一瞬「うそん!?」という顔をしたが、追撃の手は緩めない。

受けられた逆胴を引き離し、もう一度逆胴、振り抜き左逆袈裟、弾かれ正胴、と連撃を放つ。

鳥も負けじと、連撃を弾きつつ嘴でがんがん突いてくる。

顔付近でぶんぶん空を切る嘴。避けつつ反撃するヒイロ。

かなりの接近戦のため、ヒイロも必死、鳥も必死で一進一退。

ちなみに、剣術についてもヒイロは3人の中で一番である。

「ちょっと!手伝ってくれよ!」

ヒイロがようやく声を発したのは、進まぬ攻防に痺れを切らしお互い距離をとった時だ。

よく見ると、鳥もヒイロもぜぇはぁ言っている。

「えー、もうヒイロが頑張ってくれよ・・・」

「いいから!タッチ!」

「うげぇ」

選手交代。今度はカインが鳥へと迫る。しぶしぶ。

鳥はその様子を見て、地面を蹴りつけカインの目の前へと礫を舞い上げ当たり散らす。

うわ、とカインが驚いて礫を躱そうとするが、礫を目くらましに鳥が迫る。

飛べない羽根をばたつかせカインへと鉤爪を突き立てようと襲いかかる鳥の巨体。そして眼前に迫る鉤爪。それに驚いたカインは思わず右剣で頭部を庇うが、その右腕が鉤爪に引っ掻かれてしまう。

「ぐぁっ!」

“どすぅっ!!”

痛みに声を上げるカイン。しかし、引っ掻かれてすぐに鳥の巨体が左へと盛大に吹っ飛ぶ。

ぐけぇ、と苦しそうに鳴き声を漏らし地面を転がる鳥を吹き飛ばしたのはユーノのドロップキックであった。鉤爪がカインを襲いそうになったところで既に駈け出していたが、間に合わなかったのだろう。

「カイン、大丈夫?」

「ありがとう、助かった!」

蹴りから見事な着地をキメたユーノがカインへと駆け寄る。

「怪我は?」

「ん、ちょっと掠っただ・・・け?」

倒れこんだ鳥は、しかしやはりユーノのウェイトでは効きが浅いのかすぐに立ち上がり、ヒイロの放った電撃を避けていた。

ヒイロはそのまま鳥を牽制しつつ、2人へ近寄る。

「大丈夫?」

「・・・固まった」

「へ?」

鳥からは目を離さず様子を訊くと、カインからは予想外の回答。

思わず変な声が出てしまい、カインへと目を向けるヒイロ。

「って、うわ!」

カインの右腕は確かに固まっていた。灰色に硬化していたのだ。具体的に言えばものの見事に石化していた。それを見たヒイロも思わず驚きの声を上げる。

「ヒイロ、あいつモンスターだこれ・・・」

「うわ、石化初めて見たよ、わたし」

カインは意外にも冷静そうにそう告げ、ユーノも驚きの声を上げる。

というか、あまりの事態に2人とも呆然としている感じだが。

ちなみにワイルドとモンスターの違いは、こういった魔術的なものを使えるか否かで見分けることができる。

「みたいだね、こりゃあ・・・」

ヒイロは相変わらずこちらへ攻撃する機会を窺っている鳥へと目をやる。退化した分厚そうな羽をたまにばたつかせ威嚇したりしている。

「よし、そうと決まれば危ないから一気に片付けようか!」

基本的にワイルドよりモンスターの方が数が少ない。しかし、圧倒的にモンスターの方が危険と言われている。

なぜなら、ワイルドは人の少ない場所に多く生息し、基本的に自身のテリトリーに他者が入って来ない限り自分らからは攻撃してこないものなのだ。モンスターも、人の少ない場所で自身のテリトリーを守るという点ではワイルドと同様だが、彼らは突然発生し、凶暴性が段違いに高く、テリトリーそのものも非常に曖昧なため“極めて危険”とされている。

勿論、例外はある(異常に強力なワイルドも稀にいる)ため一概には言えないが、概ね上記の通りであり、それ故モンスターの発生というのは人々の生活にとって死活問題なのだ。

そして、この『忘却の森』には今までこのように強力な鳥モンスターなどいなかったため、新しく発生したのだとヒイロは考えた。新しい発生はこの鳥を足がかりに発生源を突きとめ食い止めることもできる。そのため、ここでこのモンスターを仕留めることには非常に高い意味が出てきたのだ。

「どうするの?」

「僕が時間稼ぐから、ユーノはカインの石化治してからいつものヒット&アウェイ、カインは石化治ったら炎剣ね。OK?」

ユーノが問いかけ、指示を出すヒイロ。

こういう時に指揮を執るのは決まって最も高い実力を持つヒイロなのだ。

適当に指示を2人に打ち出したヒイロは、一斉攻撃になれば息も自然に合うだろう、付き合いは長いのだ、とも考える。

「了解! 隊長!」

「判った。じゃ、その間は頼むわ」

ユーノとカインもその指示を汲む。

「全く、相変わらず師匠の課題は無茶苦茶だよ・・・。」

流石の出来事に不在の師範に対し愚痴を漏らしつつ、ヒイロは刀を構え直した。


正眼の構えである。

ヒイロはこのような時間稼ぎのような局面においては、この攻守ともに繰り出せる、最もスタンダードな構えをとる。

今度はこちらから大きく踏み出す。

右上段から、一見剥き出しに見える首目掛けて一閃。

その一閃を鳥は、ヒイロの右側へと器用にステップし逆にヒイロの右肩口へ目掛け嘴を繰り出そうとする。

しかしフェイク。

ヒイロは踏み出したかに見えた右足を実にスムーズに半歩下がらせ、刀をすぐに返し、逆袈裟に近い斬撃を肩口へと迫る頭の後方、つまりは鳥の首へ目掛け振り上げ・・・。

そして、拮抗。

動物の本能か否か、鳥は突き出す首を直前で急遽右下へと方向転換してのけた。

“ガキィン!”

鳥の嘴は刀身を銜え込み、ヒイロはその刀身を嘴の奥へと突き込むように渾身の力を込め応戦する。

まさに一進一退の接戦を繰り広げるヒイロと鳥であった。


少し離れた場所。ユーノがカインの石化を治している。

ユーノはこういった回復系を得意とする水属性魔術を操ることができる。

「凄いねー、ヒイロ君」

「もう、あいつ一人で片付けてくれると助かるんだけどなぁ・・・。」

「んー、でもやっぱり決め手に欠けるんじゃないかな?」

案外暢気なものであった。

「・・・っと、治ったよ♪」

「お、ホントだ。ありがとう」

「それじゃあ、加勢に行きますか!」

「だな。3人でかかれば流石に一気に終わるだろう。」

治療が終わり、立ち上がる2人。いい加減決着をつけるために。


実際、それから決着までは早かった。

カインは火属性魔術を扱うことができ、ヒイロが刀に電流を纏わせたのと同様に剣に炎を纏わせつつ加勢に向かう。

そして、先に向かったユーノが鳥の羽毛を引っ掴み投げ飛ばし、ヒイロとの拮抗を崩す。

次に、ヒイロがすぐに体勢を立て直し飛ばされた鳥へと雷撃。ようやくまともなダメージを与えることに成功する。

続いて、雷撃に立ちくらむ鳥に対し間髪に入れず回り込んでいたカインの炎剣が羽毛を焼き切る。

そう、まさにフルボッコに・・・。しかし、ここで鳥が悪足掻き。

“ぎえ~!!”

と断末魔のような鳴き声を高らかに叫ぶ。

「カイン、下がれ!」

“ずどん!”

それが魔術発動の予備動作だと勘付いたのはヒイロのみであった。そしてそれを鳥に最も近いカインへと叫ぶ、が同時に衝撃。地面が轟く。

「うわ!」

驚いたカインが一旦引く。

しかし結果的にその衝撃は、カインだけでなく3人全員をよろめかせることに成功していた。

そして次の瞬間、そもそも洞窟近くの崖下で闘っていた3人は悪寒を感じ、崖上を見上げる。

鳥の悪足掻きは、幾つもの落石を呼び寄せていた。

どすどすと、大小の落石が3人を襲う。主にヒイロとユーノを。

「ヒイロ君、危ないのこっちじゃん!?」

「ごめん!避けて!!」

ユーノがヒイロに突っ込むという珍しい光景。双方必死に落石を避けつつ。

「あ! カイン、鳥が逃げる!」

そこでユーノがこそこそとこの混乱に乗じて逃げ出そうとしていた鳥に気づき、小さめの落石を避けていたカインへと報せる。

「ホントだ!待て、この!」

「カイン、あと頼む!」

落石を避けつつ慌てて鳥を追うカイン。

避けるので必死なヒイロ(とユーノ)はカインへと託す。ここで逃すのは後々まずいのだ。

鳥も気付かれたのに気付いたのか、後ろを振り向き追ってくるカインを確認すると慌てて羽をばたつかせ“ぎょわ~!”と敗走する。

だが、実は3人中最も速いのはカインである。落石が一瞬止んだ隙を狙い一気にトップスピード。

敗走する鳥の直前で跳ね上がり、両手の炎剣を振りかぶる。

「こんがりしてやる!チキン野郎!」

ちょっとどうかと思うセリフを放ちつつ、炎の2連撃を敗走の鳥へと振り抜く。

“くぎゃ~!!”

そして鳥は本当の断末魔を叫び倒れ、カインは炎が尾を引く剣を鞘へと収めフィニッシュ。

3人の勝利である。

そしてカインは落石に当たった。ごすん。


「にしても、最後のあのセリフはどうかと思うよねー?」

ユーノがカインの頭部を治療しつつ呟く。

「しかも、フィニッシュ決めた後に落石に当たる辺り、もうミラクルとしか・・・」

「いいじゃんか! 勝ったんだからさぁ!」

ヒイロが笑いを堪えながらカインを褒め称えるが、お気に召さなかったようで悲痛な声で反論される。

「いやあ、でも何とか勝てたね」

ユーノが安堵して漏らす。治療も終わったようだ。

「ていうか、最初っから3人でかかればよかったけどね」

「いやあ、ヒイロと鳥の大接戦が見ものだったよ」

すぐに一斉攻撃しなかったことを後悔するヒイロに対し、カインはここぞとばかりに反撃する。彼らは基本的にとんとんの関係なのだ。

「そういえばあの鳥、新しく発生したんだよね? なんて種類かな?」

前述したようにモンスターは(何らかの要因があるらしいが)突然発生するのだ。今回の鳥の件に関してもそうであり、ユーノがそのことに対して言及する。

「ああ多分、コカトリスの亜種、じゃないかな?」

心当たりがあるのかヒイロがその疑問に答える。

ヒイロはこういった知識に関しても3人の中で抜きん出ており、他2人が知らないような知識を広く有しているのだ。

更に言えば、剣術・魔術・知識と3人の中で最も優秀なヒイロは、実は稀に見る天才と言われている。

性格は多少アレだが。

「コカトリス?」

ユーノはその名を耳にしたことがないのであろう、ヒイロの言葉に鸚鵡返し。

「石化の毒を有する雄鶏の姿をしたモンスターだよ。落石引き起こす奴は初めて見たから亜種じゃないかな。」

カインも横で首をひねって頭に?を浮かべていたため、彼らに解説するヒイロ。

「知ってたのか?」

事前に情報があれば対処も違っていた筈では、と言外に尋ねるカイン。

「いや、『チキン野郎!』で思い出した」

「ああ、なるほど・・・」

3人は倒したコカトリスを改めて確認し、確かにどう見ても鶏だなこれは、とうんうん頷く。

コカトリスはぐったりとしている。こんがりと。



今回のメインの目的であった『渡月廊』は崩落していた。

「そりゃあ、まあ、あんな落石があったあとじゃぁねぇ・・・」

カインの治療を終えた3人は、すぐに『渡月廊』へと続く洞窟に入ったが、予想通り通路の途中が大小の岩で塞がれており、それを前に立ち尽くしていたのだ。

ヒイロも、コカトリスの魔術の影響であることは確かであろうと漏らす。

「残念だったねぇ」

「まあ。元々深い目的があったわけでもないしね。とりあえず、一旦街に戻って然るべきところに報告しようか」

ヒイロがそう言い、通路を引き返そうとする3人。

「あれ?」

ところが、振り返ってすぐ立ち止まるカイン。

「どうしたの?」

「・・・いや、何か聴こえない?」

ユーノの問いにカインがそう答えたので、他2人もその音を聴こうと耳を澄ます。

“サー……か…サー…い……!…サー…”

確かに、小雨のような音と、それに混じって人の声のようなものが聴こえる。

「ホントだ。どこからだろう?」

「声、かな?」

ヒイロとユーノもその音に気付き、周りを見渡す。

「あ! あそこ!」

カインが先に音源を探していたのか、薄暗い洞窟の中、崩落した通路の右手上方を指差す。

カインが指し示す先へ目を向ける2人。

そこは、積まれた落石によって隠れるようになってはいたが、確かにその先に空間があることを示していた。

「え、あんなとこに部屋?!」

「なんか、鉄の棒みたいなのも出てるね」

ヒイロは文献にない部屋の出現に驚き、ユーノは上方の空間から飛び出た金属の一部確認する。

「ヒイロ、新しい部屋なのか?」

「うん、今まであんなとこには何もなかったはずだよ」

「もしかして・・・」

「うん、コカトリスの崩落で壁が崩れて出てきたんだろうね」

目を輝かせて推測するヒイロ。彼はこういう知的好奇心をくすぐるものが大好きだ。

心なしか、ユーノとカインもそわそわしている。

「ねえ、行ってみようよ!」

「賛成」

案の上、先へ進むことを提案するユーノ。カインも地味に賛同。

「え~。でも、こういうのはやっぱり専門の人に任せないと、ねぇ・・・?」

渋るヒイロ。勿論、落石を登りながら。

僕は止めたんだよもうしょうがないなー、とかのたまいつつ。半笑いで。

3人で協力して落石を幾つかどかしていくうちに鉄棒の正体が判明する。

どうやら、梯子のようだ。その梯子は上へと伸びている。

それを確認した3人は顔を見合わせ、にやりと笑う。

そして、落石をどかす作業は続く。何故か無言で。みんなニヤニヤしながら。

小雨のような音が近付いている。


3人が梯子を登り終えると、そこには5m四方ほどの大きいとも小さいとも言えない部屋が広がっていた。ところどころ崩れてはいるが、平らな壁に囲まれた人工的な部屋だ。そこかしこに見たこともない、道具ともインテリアともつかない物も転がっている。

「『渡月廊』に似てるけど、ちょっと違うな・・・。」

部屋を見渡してヒイロが独りごちる。『渡月廊』とは部屋の名前なのだ。

「ねえ? あれ・・・、人、だよね?」

先ほどよりも小さくなってしまっていたが、雨音(のような音)は変わらず流れ続けており、カインがその音源らしきものへと指差す。

その先には、確かに人がいた。

光沢のあるガラスのような板の表面に張り付いた、上半身だけの人がいた。立体感が無い。

3人はその人物を見詰め立ち尽くす。こんな状況は初めてだ。

まるで窓から身を乗り出すように二次元の人間が叫んでいるのだから。

「誰か、聴こえないのか!? 聴こえたら、手元のボタンを押しながら応えてくれ! 頼む! 誰か!!」

雨音に混じってはいたが、その声は確かにそう何度も繰り返し叫んでいた。雨音にかき消されそうになりながらも、必死に。何度も。

3人は、あまりの事態にしばし呆然としてしまっていた。

この部屋は何だ? あのガラス板は何だ? あの人は誰だ? どうすればいい? 大混乱である。

しかし、ユーノだけはそうでもないのだろうか、あまり間を空けずにガラス窓へと近づく。

カインとヒイロが止める間もない。彼女は考える前に動くタイプなのだ。特に、誰かが困っていれば躊躇はない。

「聴こえますか?」

「こたえてく・・・・・・え?」

ボタンの位置は迷わなかった。ガラス板の下部にテーブルのようなものが突き出ておりそこに一際目立つボタンがあったのだ。

そのボタンを押しつつユーノが応えるが、相手も状況が飲み込めていないのか、少し間抜けな反応を返してしまう。

「聴こえますか? あなたは、誰なの?」

男性陣が後方から見守る中、ユーノが再度尋ねる。

「・・・・・・・・・手元に黒い丸いダイヤルがあると思う。それを右に回すと音が大きくなる筈だ」

窓に映る男は驚愕による長い沈黙ののち、質問には答えず、努めて冷静に答える。

顔は驚愕のままだったが。

「これかな?」

黒いダイヤルを右へと少し回すユーノ。

「回したよ」

「ありがとう。さっきより聴こえやすくなったと思うけど、どうかな?」

「うん、よく聞こえる」

ガラス窓の男が、驚愕の表情は崩さず、それでも口調だけは冷静に、その音質を確かめ、ユーノはその良好を伝える。

雨音、ノイズも同時に大きくはなっていたが、男の声は先ほどよりも明らかに大きな音量となっていた。

「確認するけど、君が今いるそこは、“地上”で間違いはない?」

白衣の男が“地上”の部分を強調して尋ねる。

「うん、ここは地上だよ。海の中でもないし、空中に浮いてもないからね」

ユーノもそれにさらりと返す。

そんなユーノに対し、こいつはなんて大物なんだろう、とカインとヒイロはしきりに感心するばかりだ。

「そうか、良かった。繋がったんだな・・・」

男はその返答に心底安心したように呟く。

「正確には地中といった方がいいかもですが」

そこで、我を取り戻したヒイロが突然会話に割り込む。そして、一気に捲し立てる。

「ここは『渡月廊』。月に渡ることができる回廊、と呼ばれている科学文明時代の遺跡です。いろいろ聞きたいことはありますが、まずひとつ。あなたは、一体何者なんですか?」

「うわ! びっくりした! もう一人いたのか!?」

向こうは音声のみなのだろう。窓、画面上の男はその声に心底驚く。

「ああ、すみません。実際は3人です。もう一人います。」

「そ、そうかい・・・。そこにいるのは3人か・・・。それに、『渡月廊』・・・。」

驚いた男に弁明するヒイロに対し、何かをぶつぶつ呟きながら考え込む男。

「それで、あなたは一体・・・?」

「ああ、僕が誰か、だったっけ? うん、どうやら君は頭が良さそうだから、一気に話させてもらうよ」

“ピーッ!ピーッ!ピーッ!”

そこまで話したところで、突然甲高い音が鳴り響く。

「・・・!?」

「気にしないでくれ。ただのバッテリの警告音だ」

音はすぐに止み、驚いて辺りを見回した3人に対し男がすぐに説明する。

「ばってり?」

しかし、単語にピンと来ないのか首を傾げるユーノ。

「時間切れが近いってことさ。そういうワケだから、すぐに用件を伝えるよ。」

そこからは、男とヒイロの独壇場。質問と応答の応酬だった。

「まず、僕は月の科学者だ。」

「月!? やっぱり・・・。」

「理解が早くて助かるよ。」

「月にはやっぱり人がいたんですね?」

「ああ、おそらく君らの言う、科学文明時代の生き残りというやつだ。」

「伝説じゃなかった・・・」

「というか、正直僕ら月側からしても“地上”のことはよく判ってないから、この通信も繋がるかどうかは本当に賭けだったんだ・・・」

この世界において、地上と月の関係というのは概ね二人が話している通りである。

「・・・・それで、用件というのは・・・?」

時間が無いというのを考慮してのことだろう。様々な質問疑問を押し留め、ヒイロが尋ねる。

「・・・ここからは、非常に深刻な話になる」

少し間を溜めて切り出す男。

「・・・・・判りました。お願いします」

ヒイロも息を呑み応える。

「率直に言おう。もうすぐ僕たち月の文明が、君らのいる地上へと侵略戦争を仕掛ける」

「「・・・・・・・・・・は?」」

「そして恐らく、このままだと地上は負ける。確実に」

「「ええええぇぇぇぇえええっ!!!!???」」

衝撃の事実に驚愕する男2人。ユーノだけは判っているのかいないのか表情は変わらない。

男は続ける。

「つまり僕が通信を試みたのは、この事実を君たち地上の人々へと伝えるためだ」

「・・・・え、え、ちょっ、ちょっと待って下さい! そ、そんな無茶苦茶な! 戦争!?」

「・・・・ウソだろ?」

のちに、らしくなかったなと後悔するほど動転し、思わずどもってしまうヒイロ。

呆然とするカイン。

「信じられないのは判る。でも、信じて貰えなければ君達は何もできずに侵略されてしまう! だから信じてくれ。これは、事実なんだ」

真剣に残酷に、宣言する男。

「・・・・わ、判りました・・・。ああ、でも、ちょっと待って下さい・・・・今、ちょっと、考えますから・・・・」

ヒイロは動転しながらも、何とか冷静を取り戻そうとする。そして、時間を置き考えを纏める。

ちなみに、他2人はまだ呆然としている。

「つまり・・・、今ここにいる僕らはもしかして・・・?」

「多分君の考えている通りだ。このことを伝えてほしい。というか、伝える必要がある。」

「ですよねー」

予想通りの重責に、何故か棒読みになるヒイロ。

「出来れば、君たちの国のトップの者に!」

「で、ですよねー・・・」

畳み掛ける重責。さしものヒイロも少し気弱になり、自身の理解の早さを嘆く。なんて荷が重い! と叫びそうになる。

「いいよ、やろう」

ユーノが前に出る。

「え、ユーノ?」

「だって、これはもう、やるしかないじゃん。ねぇ?」

動揺するヒイロに、当然でしょ? と言わんばかりに応えるユーノ。

「済まないが、頼む!」

頭を下げる男。彼も必死なのだろう。

「・・・カインはどう思う?」

「えっ、俺!? 何で急に!?」

突然カインへと話を振るヒイロ。それに驚くカイン。ていうか俺、さっきまで空気だったのになぜ!? とも嘆いておく。

「・・・いや、正直ヤダよ。なんで俺たちみたいな一般市民がそんな重責を、ってそりゃ思うさ・・・」

そこで一息つくカイン。

「けど、ユーノが言ってるように、ヒイロが考えてるように。選択肢は、どうせ一つなんだろ?」

また少し間をおき、続ける。

「だったらもう、自分ばっか振り回されるのも癪だし、やるよ! やってやるよ!」

最後は半泣きで、科学者の依頼を請け負うカインだった。

こうして彼ら3人は、巻き込まれることになる。

まだ始まってもいない、戦争に・・・。



ひとまず第一話です。

誤字とか脱字とか、面白いとか面白くないとか、文章おかしいとか作者おかしいとかあったらおせーてください。

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