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《全能》のスキル

陽だまりの中庭で、俺はゆるりと前髪をかきあげる。

立ち姿から自然と余裕が滲む。

遠くの空でも眺めている風を装いながら、

視線の端では女たちがこちらを見ていることをきちんと認識している。


俺の周りには視界から消えないほど女がひしめいていた。

キャーキャー騒ぐ声はハーレムラブコメのテンプレのように見慣れた光景だ。

俺は無自覚ハーレム主人公を装いながら全員をふんわりキープしている。


「俺、恋愛感情ないから」


そう口にすると女たちの反応は多種多様だ。

怒り、戸惑い、期待。それでも俺は構わない。


俺は、努力せずにここまで手に入れた。力・人気・女、すべてだ。

人の心なんてたやすい。女なんてトロフィーみたいなもんだ。

別に要らないが他の男が羨むから持っとくか、といったもので格別の思い入れはない。

どうせ俺より優れたヤツなんていない。どうせ俺の元に集まる。





そんな俺が全てを失う物語。




校門前で、空気が変わった。

金髪ツーブロック。色黒。太い首、張り出した肩、無駄に短い袖から覗く筋肉。

オタクが人生で一番目を逸らしてきたタイプの完成形が、正面に立っていた。


「おい」


たった一言。

それだけで周囲の人間が距離を取る。逃げるように、視線を切るように。

近くに居た先生がヤンキーの方へ向かい少し話していたが、ここからじゃ聞こえないな。

ビビったのかよ…ヤンキー通して校内に入れてるし…。


「はぁ、なにビビってんの…」


俺はいつもの姿勢で前に出る。

後頭部で手を組み、余裕を装い、世界を見下ろす角度で。


「どうせ俺がやることになるんでしょ?来なよw」


その時ヤンキーのスマホに着信あり、一言だけ話して通話を切った。

「コイツか。わかった。」

スマホをポケットにしまいながら真っすぐこっちに歩いてくる。

「お前と話すことないわ。このまま行くで。」



ピピピ…


スキルのインターフェースが空中に浮かび上がる。

これは他人には見えていない。

インターフェースからなにか連絡があるのは初めての時以来だが、今はそれどころじゃないな。


「後で見る。今は消えてろ。」 ブゥン…


そう、俺には《全能》のスキルがある。

脳内でスキル発動と唱えると、念じたとおりの能力が備わる。


肉体強化・人心操作・瞬間移動など願ったこと全てができる。

普段は目立ちすぎないようスキルを発動せずに生活している。

でも女にモテる能力は普段からつけっぱなしにしてる。


余談が過ぎた、今戦闘中だったわ(笑)

あと数歩のところまで金髪ヤンキーが迫っていた。



脳内で詠唱。

「スキル、発動……!戦闘力10倍!」

ここで望んだ通りの力が俺におりてきて、世界が俺の都合に合わせて動く。


一拍。

二拍。


体に流れる感覚がいつも通りじゃない。

俺は不思議に思いながらも頭のどこかで気づく。

「な、なんだこれ……?」発動しな__

バチッ、ゴッ――。


「ま、まさか君も能力ゴッ」


視界が跳ねる。

頬が焼ける。

体が勝手に後ろへ崩れる。


金髪が訝しげな顔をした。

「なんやねん能力て…。お前まだそんな夢見てる年頃なん?」


体のどこにも、あの“来る”感覚がない。

俺にだけ備わっていたチートスキルが発動できない。


「いや、ちょっと待っ……!」


声が裏返る。

喉が勝手にひきつる。


「ま、待っ……待っ…ママァ…!」


周囲の騒ぐ声も、金髪が何か言ってる声もよく聞き取れない。

ただ俺の泣き声と、繰り返される打撃だけが校門前に響く。


熟知しすぎたスキルが逆に足かせになっていた。

スキルをどう使うか熟知していたからこそ、今はどういうわけか使えないことを瞬間的に把握していた。

その初めてが今、来た。まさかさっきのユーザーインターフェース…。

この後おこりうる展開が高精細で俺の脳に描画されていく。





怖い見た目の金髪だが実のところ喧嘩は数度しか経験がなく、クリーンヒットが出せずにいた。

ガチのヤンキーならアゴやタマを狙う。耳ビンタ、歯を狙っての頭突きも不良の喧嘩では有効。

経験の浅さゆえの、どこをどう殴るべきかもわからずの殴る蹴る。


決定打が出ないまま、そこまで痛くない打撃も俺は何倍にも痛く恐ろしく感じていた。

万能感依存の崩壊で耐えられない恐怖を感じていた。



「ごめんなさい……! ごめんなさい……!」

誰が言ってんだコレ… 俺か… 意識が遠い…



「お兄ちゃん、もうええよ…」女の声。

見覚えのあるその女は安心した顔で微笑んでいた。

ヤンキーの暴力が止まる。

泣きわめく俺を一通り叩きのめすと、金髪ヤンキーはそれ以上何もせず背を向けた。


「これで勘弁したるわ。調子こいたらまたシバきに来るからな。」

「安心してええで。何もせんかったらシバかへん。ネチネチいじめたりもせぇへん。お前みたいな陰キャと違うからな。」


それだけ言って去っていく。

残されたのは、砂まみれで泣きじゃくる俺だけだ。



ピピピ…

目の前の空間に再びホログラムの映像が浮かび上がる。

不穏な文言が表示されていた__


《チートスキル剥奪》


俺はそのまま気絶した。






数日後、俺は校庭の端でひっそりと過ごしていた。俺は一人だった。

女にチヤホヤされる力は失われた。打撲はまだ痛み、顔の腫れも残っている。

自分を肯定するものが何一つないこと。たった一つのもので自分たりえたのだと気付いたこと。

あの日の砂の味、泣きわめいた声がまだ耳にこびりついていた。


後になって、噂で知る。

あの金髪ヤンキーには妹がいて、

その妹が俺に泣かされたことがあったらしい。

俺が「無自覚」でやってきたことの結果だった。


あの日の暴力は復讐だった。

仁義を守ったただ一度きりの制裁。


でも俺はチートスキルがまた使えねぇかなと願っている。

世界を再び俺のものにするために。

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