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「えっと、真理さんの息子さんは、このイケメ……こほん。この人で、元夫さんは病死している、と」
なるほど、さすが美人の真理さんの息子さんなだけあって、とんでもなくイケメンである。目がつぶれそう。顔面偏差値高すぎる。羨ましい。
「よろしくね、陽向」
にこにことしているイケメン君は、蒼生というらしい。真理さん曰く、なんでもそつなくこなす完璧超人なんだとか。
「よろしくお願いします」
「やだなあ、陽向。敬語なんていらないんだよ」
と、蒼生さん。うるさいなあ、心の構えってものがあるんですよ……。お父さんも頷いているし。勝手すぎる父親にはわからないかもしれないですね。
そんなこんなで、私とお父さんの苗字は真理さんたちの苗字、「月影」に変わり、一難去ってまた一難であった私の父親の再婚は完了した。そして、いつもと違う日常が始まったのだった。
「ん? なにこれ」
翌日、朝起きたらリビングのテーブルに置手紙があり、読んでみると
【陽向、蒼生 おはよう。蒼生は朝には弱いから今読んでいるのはきっと陽向ちゃんね。
私たちは今日からちょっと海外まで新婚旅行に行ってきます!
二人とも、元気でね! 父、母】
どうやら父と義母かららしかったが……。
「海外までって、どういうことよー!!!!!!!」
普段穏便なはずの私は、勝手すぎる両親への怒りが爆発し、朝から我が家に絶叫をとどろかせたのだった――。
「蒼生さんって朝弱いんだ……。今日高校あるのに起きてないのはそういうことね」
私たちは再婚前から同じ青清高校に通っていたらしい。学年が違うとこんなにも合わないものなんだなぁ。
それにしても、これは、起こさないと絶対に遅刻するやつだ……。
お兄ちゃんって呼ぶ? いや、蒼生さんで良いよね。
「蒼生さん、蒼生さん!起きてください!」
「うーん、あと十分……」
「あと十分じゃないですよ、遅刻しますよ!」
「は!」
耳元で叫ぶと、起きた。よし、これ後でメモっておこう。
「私まで遅刻するの嫌なんで先行きますね」
「陽向、おいていかないでよ」
まだ寝ぼけているのか、私の服の袖を引っ張る蒼生さん。
「完璧超人のくせに、朝には弱いんですね。弱点発見」
無情だと言われてもいい、私は彼の手を振り払った。
あっという間に終わってしまった高校。
「はあ、あの完璧超人と二人暮らしなんて冗談じゃない。大きな子供ができたみたいだわ……」
溜息しか出てこない。
ひゅうっ、と冷たい風が吹く。今は春のはずなのに、どこか冷たく感じられて、それが私を嘲笑っているみたいで何か嫌だった。
「ただいまー」
「お帰り、陽向」
「うわあっ!?」
玄関のドアを開けると、目の前に蒼生さんが立っていてびっくりした。また今日も笑顔を浮かべている。
「朝も思ったんだけど、蒼生さんじゃなくて、お兄ちゃんって呼んでくれるかな?もう兄妹なんだし」
「……」
どうしよう。これは、呼ばないといけないパターンだろうか?
「……」
圧!笑顔の圧を感じます!!
いつも笑顔浮かべていて疲れないのかな、なんて明後日な疑問が浮かぶ。
今はそんなことよりも呼ばないといけないっぽいのに。
「お、お兄、ちゃん」
私が言い切ると笑顔が発光したように見える。あああ、恥ずかしい!なんかよくわかんないけど恥ずかしい!
「お兄ちゃんは、ずっと笑顔で疲れないわけ!?」
恥ずかしい勢いに乗って口から言葉がこぼれ出てしまった。
途端に蒼生さん――改めお兄ちゃんの顔がこわばる。
やばっ、地雷踏んだ!?
「あ、やっぱ今のなし……」
「……さあ、どうだろうね?」
お兄ちゃんは笑みを浮かべたままそうはぐらかした。
「何それ、意味わかんないんですけど」
「いいから。それより陽向、何が食べたい?」
お兄ちゃんはそういい、エプロンをつけようとする。
さすがに、何でもできるお兄ちゃんに全部任せるわけには……。料理くらいやらないとでしょ!
「あっ、いいよ!私が作るから」
「え、陽向が?作れるの?」
「いや失礼じゃない?作れるよ、うちはお母さん代わりにやっていたんだからね」
さらっと失礼な発言をかましたお兄ちゃんは放っておいて、さっさと作って食べようっと。
私は知らなかった。
このときお兄ちゃんが、私の背にぎらぎらとした光を宿らせた目を向けていることを――。




