(4/4) マトリューシカと踊る
勇者グレンは追い詰められていた。魔女のコンヴァラリアに対する攻撃が全て防がれている。しかしここで退却する訳にはいかない。ここで防がないと街だけでなく大陸全土が壊滅するだろう。仕方ない、最後の手だがブラックボックスを使おう。城の宝物庫に保管されていた4つの聖具の1つであり禁忌の道具、ブラックボックス。どのような相手も封印できるが使うためには生贄が必要となる。グレンがコンヴァラリアの攻撃をわざと受けたのと同時に聖具を発動させる。
ブラックボックスはコンヴァラリアを棺桶状の小箱に閉じ込めた。生贄となるグレンと共に。そう、永遠に。
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「コンヴァラリア。終わりだな、このまま永遠にこの箱の中で過ごしてもらうぞ」と勇者グレンが言った時、魔女はいきなり泣き出した。泣き出しただけではなく狭い箱の中でグレンに抱きついてきた。
「嬉しい!! あなたと居られるならどんなに狭い空間でも嬉しい」
そう言って魔女はグレンに身を擦り付けつつも服を脱ぎ始めた。
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「という物語はどうかな。今、思い付いたんだけど」
「先輩、それありきたりっスよ。最近の量産型AIが作った話みたいだし、仮にも大学の文芸部の部長ならもう少しオリジナリティ出せませんか」
「いや、表向きは嫌っているように見せて本当は好きだったと」
「はい、ありきたりっス。テンプレ、ベタ、陳腐、まだ言います?」
「いいね、そうやって罵られるも悪くない」
「はぁ、、、で、この状況をどうします?」
時は30分ほどさかのぼる。
大学文芸部の部長である高村隆一と2学年下の柚原芽郁が大学の地下倉庫に閉じ込められていた。ちょっと椅子を取りに来ただけなので2人ともスマフォを部室に置いてきたままだ。
「だから古い棟は嫌いなんですよ。って、先輩、何やっているんすか?」
高村隆一は壁を叩いている。
「ここの蓋が空きそうでね。古いけどダストシュートのようだ」
「で、先輩がそこから地上に出て助けを呼びに行くと」
「いや、明かりは見えるけど結構高さあるから1人じゃ無理だな。俺が下から押してやるから、ほら、柚原。登れ」
「はァ、私、運動神経無いスよ」
ブツクサ言いながらも柚原は狭いダストシュートのなかに入り、高村隆一が下から柚原の足を持ち上げて行く。
「先輩。もう少し。あとちょっとで出口に手がかかります」
高村が手を持ち替え柚原の靴底を下から押そうとした瞬間、高村の手が滑り柚原が一気にずり落ちてきた。
しかも柚原は高村とダストシュートの壁の隙間に落ちてきて二人が身動きでないくらい堅くはまり込んだ。
それが現在の状況だ。
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「柚原」
「な、なんスか。ちょっと息荒いっスよ」
「お前、結構胸あるんだな」
柚原は真っ赤になって高村を殴ろうとするが腕が動かせず単に身を捩っただけに終わる。
「柚原、そうやって動くと刺激が強すぎる」
「ちょっ、何、興奮してるんスか」
「いや、こういう状況で興奮するなという方が無理だろう」
「おかしな事、考えないで下さいよ。こんな所で」
「こんな所でやったら筒状多重化でマトリューシカだな」
殴りつけたかったが手が動かせない柚原は思い切り高村の肩に噛みついた。
「痛たた、、、」
高村が悲鳴を上げる。
「待て待て、冗談だ」
「冗談も時と場合によるでしょ」
狭い空間で熱が籠もってきたせいか汗をかいてきた。
身動きできないまま体を擦り付けるようになり少々理性のストッパーがズレたのかもしれない。
「柚原」
「な、なんスか」
高村が言う。
「お前の汗、いい匂いだな」
今度こそ柚原は本気で噛みついた。
「ぐぁーーーっ」と高村は大声で叫ぶ。
熱気と息苦しさで呼吸を乱しながら高村が言う。
「お前と一緒ならこんな狭い空間でもずっといていいな」
「何、遺言みたいなこと呟いているんスか」
柚原も少し目眩がしてきた。ヤバいかもしれない。
柚原がそう思いつつ見上げると高村先輩の顔がすぐそこにあった。
意図せず見つめ合ってしまう。
「柚原」と高村が静かに言う。
「何スか」
「好きだ」
「⋯」
柚原は口をパクパクさせている。
「俺はお前が好きだ」
「⋯」
「お前の返事を聞きたい」
「いや、嫌いじゃないすけど、、」
柚原の声はさすがに小さい。
「何だって。聞こえない」
柚原はヤケになった。大声で叫ぶ。
「私も部長が大好きッス」
筒状になったダストシュートのメガフォン効果で拡声されていて、その声に大勢の学生が集まっているのに、柚原と高村はまだ気がついていなかった。




