6.情報収集は容易にならず
翌日、漆紀と彩那は学徒会内の竜理教の情報を探るためにどうすべきかを小太郎と共に話し合っていた。場所は会長室で、会長が不在の時は完全にフリーの会議室と化しているので漆紀達が入って使っても問題なかった。
当の会長・神代輝雷刀はこの日不在なので全く問題なかった。
「で、どうやって情報を集めるかだ」
「やっぱりまずは聞き込みから始めませんか?」
彩那がシンプルな答えを言うと漆紀は「まずはそれだな」と頷く。
「聞き込みはかなり根気強くやらないと折れますぞ。有用な情報が出るまでは完全にガチャと同じですし……学徒達に聞き込みをするのですな?」
小太郎が漆紀に是非を問うと、漆紀は「ああ」と返して続ける。
「聞き込みやるとしたらな。あとは、他の手段も考えないとな……竜理教そのものに潜入するとか?」
「潜入でなくても、竜理教の設備を調べる事もアリですな。学徒会内にも寺院の一つや二つはあるでしょうから、有力な情報がありそうなのはそこですな」
寺院を調べて何か情報が無いかを探すのが最もな有効打であろう。そこで竜理教が違法な行為をしている証拠が見つかれば、事実があるという事で通報も可能だろう。
「寺院を調べる場合って、どうやれば良いんだ? やっぱり信者になって、そこの寺院に所属して内側から告発して崩壊させるって感じか?」
「もっと良い方法があるでござる。漆紀殿は竜王でござるから、竜王であることを証明して全部洗いざらい喋らせるでござるよ。竜王様相手に信者は嘘を吐けまい?」
「それが手っ取り早いか。でもそれやった後が怖いな……残党が俺を狙って何か一計講じる可能性がある」
「それを恐れたら何も出来ぬでござる。まずは竜理教の寺院へ行ってみることでござる」
漆紀に寺院へ行くことを提案する小太郎だが、彩那の表情は険しい。
「竜王様が一人で行くよりは、私も付いて行った方が良い気がします。そもそも竜王様、信者の人達の目に耐えられます? 自分の父の命を奪った竜理教の信者に求める目をされて、怒りませんか?」
「耐えなきゃ進まねえだろうが。俺は行くぜ」
「今から行くんですか?」
「ああ、その方が良いだろ。今から寺院に向かおう。小太郎、どこにある?」
「そう言うと思って既にリサーチ済みですぞ。ですが、今いきなり行くのはオススメしませんぞ。まずは聞き込みしてからの方が良いかと」
「……それもそうか。敵を攻め落とすのにいきなり城を目指す必要はねえか。わかった、まずは些細な事でもいいから情報からだな」
漆紀は早まる気持ちを押さえて、まずは三人で聞き込みをすることにした。
漆紀達は学徒会の街中をそれぞれ散って聞き込みを開始した。道行く人達に長時間に渡って話し掛けるのだ。テレビや怪しい宗教の勧誘であれば断られがちだが、調査というだけなら学徒会では研究の場合もあるので抵抗が少ない。よって聞き込みを断る人は半分ぐらいであった。
漆紀達は根気強く聞き込みを続けた。
そうして聞き込みを続けること三時間、三人は連絡を取ると学徒会の食堂に集合し成果を話し合った。
「小太郎、どうだった?」
「拙者の方はそこそこ良い情報を手に入れられたでござる。竜理教の友人がいるという学徒の方が複数人会いました。彼らが共通して言っていたのは、竜理教の友人が最近頻繁に福井県に行っているとのこと」
福井県に行っているといっても、それだけだとたまたま旅行先が被っただけかもしれないので決定的な何かには至らない情報だろう。
「福井県? それだけだとただの旅行だけど、どの人の竜理教の友人も福井県に?」
「そうでござる。どの人もでござる。何か怪しいでござろう?」
「ああ。でもそれだけだと何とも言えないな。彩那はどうだった?」
「私は色々聞けましたよ。そもそも敢えて竜の意匠のこの修道服を着てますし竜理教の人から話し掛けられますしね。色々聞けました。まず、最近の竜理教は竜理教内でも立場のある人間同士で別れているようです。その一つが、福井県の司教です」
「お、繋がったな福井県が」
小太郎の情報と彩那の情報で福井県という点が線で繋がった。
「福井県でなにやら大掛かりな準備をしているそうです。それも、竜王を奉るかのような大掛かりな準備が」
「くっ……拙者忍者なのに、彩那嬢の方が有用な情報を得ている……!」
「まあ、竜理教方面では彩那の方が顔が利くって事だよ小太郎。そう落ち込むな」
「福井県に動きがあるのは確かなようで、福井県の司教はネットの公式サイトで福井県を竜の国にするという目標を掲げていました」
漆紀は首を傾げて疑問を抱く。竜の国とは何を言っているんだ、ファンタジー小説の読み過ぎかと漆紀は心底理解出来なかった。
「とりあえず、福井県で竜理教が何かやろうとしてるって事だな。じゃあ俺の方だけど……ごめん、マジで何の収穫もなかった。ごめん」
「マジですか……」
「拙者より悲惨ですな。まあ、聞き込みは運もありますので仕方ないでしょう」
小太郎と彩那の憐れむ目線に耐えかねた漆紀は話題を変えていく。
「話題変えるぞ。学徒会に来たは良いけど、俺達授業はどうすんだ?」
学徒会に来た目的は安全もあるが、学校が爆破されて授業を受けられないので学徒会、それも本部に来たのだ。
「学徒会の授業は大学の様に単位制でござる。高校の教科相当の授業を受ければいいでござるが、単位申請の期間が過ぎちまってるでござる。故に、夏休み明けまでは授業免除でござるよ」
「それが良いんだか悪いんだか……とにかく、今の俺らに出来るのは竜理教の調査だな」
「とりあえず、今日はここまでですか? あとは……」
「今日の残り時間は真紀の様子を見に行く。真紀はリハビリも既に始めてて、ある程度動けるようになってきてるらしいけど……まだ心配だ」
「妹さんですか。私も一緒に行きますよ」
「助かる。小太郎はどうする?」
「拙者は暇なので調査を続けますよ。ひょっとするとちょっと大変かもしれませんが」
「そうか。じゃあ今日はこれで解散するか」
漆紀がそう締めくくると、今日は解散の運びとなった。




