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ガンギマリズム4 竜国編  作者: 九空のべる(旧:ジョブfree)
第一章「学徒会、顔合わせ」
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5.月守舞香の勝負

漆紀は部屋に戻り風呂を済ませて眠りに就こうと思ったが、不意に漆紀の部屋のインターホンが鳴る。

「え? なんだこんな時間に」

漆紀が玄関の方に出て扉を開けると、不満げな様子の舞香が居た。

「げっ、あんたかよ……えーっと……月守だっけ」

「私は一応先輩なんだけども」

「じゃあ月守先輩、何しに来たんだよ。お礼参りって事か?」

漆紀は眠たそうな顔でうんざりした様子で言うと、舞香は漆紀の手を握る。

「付いて来て、勝負よ」

「はぁ?」

「体育館に行くわよ。夜だし空いてるから、そこで勝負よ」

「こんな時間に何を勝負するってんだよ。寝たいんだよ」

「今じゃないとダメ! 私の怒りが収まらないうちに」

「あーもう面倒臭え。わかったわかった、勝負すりゃいいんだろ。やってやるぁ」

漆紀は面倒臭がりながらも舞香に付いて行き、体育館へと向かう。

体育館に着くと、二階部分の窓から月光が薄っすらと差し込んでとこか神秘的な空気感を漂わせていた。しかし舞香は体育館の照明を点けて神秘的だった空気を台無しにする。

「さあ、勝負よ。あなたは会長室で見せた魔法を使って。刀を出しなさい」

「おいおい、まさか真剣勝負とか言わないよな。頼むから物騒なのはやめてくれよ」

「勝負は単純、お互いの得物を無防備な相手に突き付ければ勝ちよ」

「得物って言うけど、月守先輩はなんも持ってないじゃん」

漆紀がそう指摘すると、すかさず舞香はバッグの中から全体が銀色のハンマーと取り出す。

「私はこのアルミニウムハンマーで行くわ」

「はあ、物騒なもん持ち歩いてるんすね。じゃあ、ちゃっちゃとやりますか」

漆紀は村雨を取り出すと、気怠そうな様子で構える。

「じゃあ……行くわよ!」

舞香がハンマーを横に振るったかと思うと、そのハンマーは瞬時に漆紀の方へと伸びた。否、伸びたのではない、溶けたのだ。溶けて伸びて形になると、しなりながら漆紀の脇腹へと向かって来る。

「うおっ!」

漆紀は伸びた銀色の金属を村雨で受け止める。

「なんだよ今の! アンタの能力か!」

「この初見殺しの一撃を防ぐとはね……一つだけ言っておくわ、私のこのオブジェクトはアルミニウムで出来てて、私にかかれば変幻自在に形を変えられる……それ!」

舞香は遠距離からアルミニウムの鞭を漆紀へと何度も激しく振るってくるが、漆紀は何度も村雨でそれらの攻撃を弾いて防ぐ。

「やるわね。でもこうすれば!」

アルミニウムの鞭は村雨に巻き付き、舞香がそのまま鞭を引っ張ると漆紀の手から村雨の柄が呆気なくすっぽ抜ける。

「しまった! クソ、村雨を取られるだなんて……でも呼べるんだよねぇ~」

漆紀は得意げに右手に霧を起こすと、そこから村雨を再度呼び戻して取り出す。すると舞香が鞭で捕らえた村雨は霧散して消え去る。

「なっ……武器を呼び戻せるというの? それが魔法……認めない、カルトに組する疑いがあるなら私は……ッ!」

舞香が後方へと身を捩りながら構え、突きの体勢に入る。それを見た漆紀は危険を感じて一計を講ずる。

「ムラサメ、霧だ!」

ムラサメの名を呼ぶと、彼女は漆紀の心に『ええ』と一言だけ答える。その直後、村雨の刀身から一気に霧が噴出して辺り一帯を瞬く間に視界不良にする。

「き、霧!? み、見えないわね、小賢しい。ならば全方位に振るって探知するのみ!」

舞香はアルミニウムを鞭の形に変形させると、三百六十度グルグルと鞭を振るう。

「やっぱりアンタ、賢いようでバカだろ! 霧の中で振るったって、相手が見えなきゃ当たらない」

漆紀がそう声を発すると、舞香は声のした方を振り向いて鞭を形状変化させて剣を形作る。そして声のした方へとそのまま一直線に剣を細長く針の様に伸ばした。

もし人に当たればそのまま串刺しになっている事だろう。

しかし漆紀の苦悶の声は聞こえない。

では漆紀はどこにいるのか。

漆紀は霧の中でも術者ゆえに敵の位置を知りえる事が出来る。よって、舞香の背後を取る事も容易い。

舞香の背後に回った漆紀は霧を解いて舞香のうなじに村雨を突き付ける。

「これで俺の勝ちだな」

そう言うと舞香は呆れた様子でため息を吐く。

「誰がアルミニウムオブジェクトが一つしかないだなんて言ったかしら?」

そう言われ、漆紀は股間の当たりに違和感を覚える。視線を下ろしてみると、漆紀の股間の辺りに針の様に尖ったアルミニウムの切っ先が突き付けられていた。

「接近することぐらい読めたわよ。左手のアルミニウムは隠してたわ……これを一気に伸ばせばあなたの股間は使い物にならなくなるわね」

「でも俺だってアンタの首、刺そうと思えば刺せるし引き分けって事で良いか?」

「引き分け……そうね、良いわよ。あなたがどんな事を出来るのか色々知れたわ」

舞香は漆紀の股間に突き付けたアルミニウムを収縮させると、左手に持ったアルミニウムを球状に形状変化させる。

漆紀も村雨を霧散させると、構えを解いて舞香の方を見る。

「で、少しは実力を認めて貰えたか? 俺はどうだ?」

「やはり気に入らないのは変わらないわ。私の能力でも引き分けだなんて」

「もう寮に戻って寝て良いか先輩。すげえ眠たい」

「ええ。いいわよ……ああちょっと待って。連絡先の交換、他のメンバーとはしてるのでしょう? 会長の下で共に竜理教と戦うのなら、私とも連絡先交換しなさい」

「変な所、律儀なんたな」

新参の漆紀が気に入らないらしいが、それでも連絡先交換はしておこうと考える所に舞香の真面目さを垣間見える。

漆紀と舞香は連絡先を交換すると、漆紀は解散しようとするが舞香はまだ呼び止める。

「ねえ、あと少しだけ散歩に付き合ってくれないかしら?」

散歩の誘い、これが彩那とならば漆紀は快諾しただろうが相手は大して気心が知れない初対面の女である。いくらレディーファーストという言葉があれどそこまで対応してやる義理など無いだろう。

「あの、マジで眠いんで勘弁してください。もう帰らせて下さい」

「急に敬語にならないで、そんなに私とは嫌だ?」

「嫌だとかじゃなくて眠いんだよ先輩! 眠りたい……」

「ああもうわかったわよ! そういう事なら帰って良いわ。散歩は今度ね。色々話したい事があったんだけれど」

「話なら聞きますよ、手短に」

漆紀が舞香の話を聞く姿勢を見せると、舞香は少し申し訳なさそうに話し始めた。

「私は会長の事が好きよ。だからこそ、いつだって会長のためを考えている。もし会長の害になるような事をするのであれば、私はあなたを殺す」

「結局殺害予告かよ。今日一日でアンタに二回も殺害予告されてんだけど……俺と会長の目的は一致してんだ、害になることなんかしねえよ……じゃあもういいか月守先輩、俺はマジで眠たいんだ」

「ええ、戻っていいわ。今言った事を肝に銘じてくれるのならね。おやすみなさい」

「……ああ、おやすみだ先輩」

漆紀はそれだけ言うと寮の部屋へと戻って行った。

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