3.リストランテタイム
小太郎と合流した漆紀達は企業がテストとして学徒会の街に出店した新しいファミレスに来ていた。
「こうして三人で食事と言うのはやはり楽しいですな」
感慨深そうに小太郎は頷きながら丸眼鏡の反射光をキラつかせてそう呟く。
「お前今度は丸眼鏡なんか付け始めたのか小太郎」
「キモオタと言ったら古風なこういう丸眼鏡が良いと思ったんでござるよ。彩那嬢、どうですかな?」
「まあ、より一層キモオタの擬態は出来てると思いますよ」
「それはなにより。どうですか、メニュー決まりましたかな彩那嬢」
小太郎がレディーファーストだと言って彩那にメニュー表を渡していたが、
「色々ありますよね……私決まりました。次、竜王様決めてください」
漆紀はメニュー表を渡され、パラパラとページを捲って考える。
「俺は……やっぱシンプルにタンパク質だよタンパク質! 動物性タンパク質とらねえと体が育たねえ。俺決めた、次は小太郎な」
漆紀はメニューを決めて小太郎にメニュー表を渡す。
「拙者は……ふむ、慎ましくこれでいくでござるか」
一通り決まったので、漆紀は店員を呼んでメニューを伝えた。
漆紀はハンバーグ単品(動物性タンパク質)。ライスは頼まず炭水化物を避けた。
彩那は白身魚のソテーとライス小。魚を選ぶところは佐渡流竜理教信者としての名残だろうか。
小太郎はほうれん草のバター醤油炒めと鳥唐揚げ、ライスはなし。
「竜王様もキモオタさんもこういう時ぐらい炭水化物摂れば良いのに」
「まあ抜けれる時はほどほどに炭水化物を抜くんでござるよ」
「それは同感。魔法に限らず筋肉付けて物理的にも強くなんなきゃな」
「ぐぐっ、男共が筋肉脳すぎる」
「一昔前に筋肉のアニメが流行ったではありませぬか。お願いしマッス」
「おっとそこまでだ小太郎。あれちょっと寒いから歌い出すんじゃねえ」
「やっぱりキモオタさん、それ擬態じゃなくて素でキモオタやってるんじゃないんですか? ミイラ取りがミイラになる……はちょっと違うし、えーっと……」
「狂人の真似とて大路を走らば即ち狂人なり、が一番近いですかな。狂人の真似をして大通りを走ってたら狂人と大差ないという意でござる。狂人をキモオタに書き換えれば意味は通じるでござ……いや、自分で言ってて悲しくなるでござる」
もはや素と同じぐらいにキモオタが馴染んだ小太郎だが、忍者としてはそれだけ成りきっている方が良いのかもしれない。
「それはそうと小太郎。今夜、俺と彩那は会長室で会長の仲間と顔合わせがある。小太郎には悪いけど、これも小太郎は来ない方が良い」
「まあ、拙者は魔法使いでもなんでもないですからな。ただの人間が来ても困りますよな」
小太郎は単なる人間である。忍者であることを除けば本当に単なる人間。
「と言っても、その会長の仲間達は一体どんな人達でしょうな」
「チー牛顔とかあからさまな出っ歯とか来たら悪いけど笑っちまうぜ」
「それか思想が左か右に偏ってるやべー人とか? ほら、学徒会って学生運動が大元の組織ですし居そうじゃないですか?」
「完全に偏見でござるよソレ!」
「偏見で言えば、キモオタさんは手裏剣とか使わないんですね」
「それを使うメリットがないからでござる。銃は手裏剣や苦無の上位互換でござる」
「現代忍者ぁ~……夢をぶち壊してくスタイルじゃないですか」
夢も何もない、そもそも忍者は夢とはかけ離れた汚く戦う存在である。
「んー……つまんねえ、なんか趣味の話でもしないか?」
「それ、竜王様の時点で詰まっちゃう話題だと思うんですけど」
「俺に趣味がねえってか!」
「じゃあ何か熱中してるものとかあります? これまでずっと続けてきた誇れるものとか」
「……うん。ごめん、ねえわ趣味」
「無味無色人間ですなあ漆紀殿。何か気に入ってる行動とか事柄とかないんですかな?」
「気に入ってるか……強いていうなら、便利屋の仕事の時、バイクで走ってる時は楽しい」
漆紀が微かに笑みを浮かべて自信と共にそう話すと、彩那と小太郎の二人は「趣味あるじゃん」と言葉が重なった。
「それでいいじゃないでござるか。趣味アリですぞ」
「バイクですか……いつか二人乗りさせて下さいよ」
「二人乗りは二輪免許取って一年後だぞ。俺まだ一年経ってない。来年だな、二人乗りは」
「バイクですか。拙者もバイク考えてみるでござるか」
「俺は便利屋だから取っただけだけど……慣れるとバイク乗っても特別感はないぞ」
バイクに対する所感を単純に述べる漆紀だが、小太郎は「アリですな」と頷く。
「そしたら私の趣味ですねー。私は射撃とか好きなので、自宅にエアガンとかあります。拳銃サイズのだけですけど。あとはスリングショットとか弓とか」
「ああ、佐渡でそう言ってたな」
佐渡島で彩那が漆紀に語った趣味を覚えられていたことが嬉しいのか、彩那はにんまりと笑みを浮かべる。
「そうですよー。なんなら今度一緒に撃ちますか、竜王様」
「いいかもな。どっか暇な時間見つけたらやろうぜ」
「拙者もご一緒いいですかな? 射撃は拙者も自信あるでござるよ」
小太郎が手を上げてそう言うと、漆紀と彩那は「もちろん」と返す。
「じゃあ次は小太郎の趣味だな。正直言って、この中じゃ小太郎が一番多趣味そうだ」
「そうですな。拙者はフィギュア、アニメ、ゲーム、射撃やプラモデルなんでもござれでござる。大体の趣味は広く浅くでござるが、キモオタご用達の趣味は特に詳しいでござるよ」
「さすがキモオタだぜ……いいじゃねーの。まあガチキモは控えて欲しいが」
「流石に拙者もそういうのは控えてるでござるよ」
そうこう話していると、先に彩那の注文したメニューを店員が持って来た。
「先に食べていいでござるよ彩那嬢」
「ああ。俺らの待ってる必要ないぜ、食べとけ食べとけ」
「では先にいただきます」
彩那は食事を食べ始め、漆紀は小太郎と向き合う。
「小太郎はよー、今後俺らはいずれ竜理教の魔法使いと戦う事になるんだぞ。どうやって魔法使いと渡り合うんだ?」
「それなのですが、秘密兵器があるでござるよ。我が家の宝刀・封魔の小太刀があるでござるよ。そいつを振るえば、魔法を斬り打ち消すことが出来るそうでござるよ」
「それ、確かめてみたのか?」
「確かめてないから今度漆紀殿には効力を試すために相手して欲しいでござるよ」
「わかった。今度な」
「わらひでもいいんれすよー?」
食べ物を口に含みながらも彩那が恐らくは「私でもいいんですよ」と告げる。
「勿論、彩那嬢にもご協力いただければ嬉しいでござるよ」
小太郎が笑んで返すと、彩那は「笑顔キモいよぉ」と冗談を零しつつも口に含んだ食べ物を飲み込んだ。