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ガンギマリズム4 竜国編  作者: 九空のべる(旧:ジョブfree)
第三章「太陽神と悪神」
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36. 漆紀vs古河

漆紀は古河が繰る半透明のティラコレオを村雨で斬り続けていた。斬っては退けて斬っては退けての繰り返し、それが四方向から順々に繰り返される。

「クソ、この犬ころども!」

「ティラコレオですよ、竜王様」

次々に古河はティラコレオをけしかけ、漆紀は何度も何度も切り捨てていく。

古河は牙が複数付いた首飾りを自慢げに見せながら漆紀に語り掛けていた。

(これじゃ埒が明かねえか。あの首飾り、俺のと同じで精霊術のマジックアイテムと見た)

「獰猛なティラコレオ相手によく続けますねぇ。ですが同時に攻めたらどうなりますかな?」

四匹のティラコレオは一度漆紀の周りに散開すると、四方向に別れる。

「飛び付け!」

ティラコレオ達は同時に漆紀へと襲い掛かる。

「クソ!」

同時攻撃をされれば、一度に斬り倒せるティラコレオは一匹が限界なので三匹の攻撃を受ける事となる。

漆紀は正面のティラコレオの体を斬り捨てたが、同時に他の三匹のティラコレオの牙が漆紀の体に突き刺さる。思わず漆紀は持っていた村雨を落としてしまうと、村雨は霧となって霧散する。

漆紀の両腕、右脚にティラコレオの牙が痛々しく突き刺さりドクドクと血が流れ出す。漆紀の両腕と右脚は鋭い痛みとジンジンと感じる鈍い痛みの両方に襲われる。

「これでもう動けませんね竜王様。ティラコレオ、放せ!」

ティラコレオ達は牙を抜いて漆紀から離れ、臨戦状態のまま後方へと一歩一歩下がる。

漆紀はと言うと、両腕と右脚の痛みに耐えながら、一言唱える。

「村雨」

そう呼ぶと漆紀の足元に霧が立ち込め、そこから一振りの刀が出て来る。

同時に漆紀の両腕と右脚の深々と付いた痛々しい噛み傷が急速に癒えていく。

「な、何!? 竜王様の傷が癒えて……な、何をしたのですか! い、一体?」

古河は漆紀の村雨の力を知らない。それだけでなくそもそも傷を癒す魔法自体がなく、もしあったとしても精霊術の効果でそういった回復効果のあるものを掘り出すしかないのだ。

それゆえ古河は目を点にして恐る恐る漆紀を見ていた。

「俺がこんなもんで止まると思ってんのかよ……古河って言ったっけ?」

漆紀は村雨の効果で傷が完全に治ると、足元にある村雨を逆手に持って漆紀は投げの姿勢に入る。村雨の柄から大量の水を放出し始めると、水の放出の勢いを利用してそのまま漆紀は村雨を古河に向けて投げる。

「俺はこんなもんじゃ倒れねえぞ!」

「ティラコレオ!」

古河は自身の胴の前にティラコレオを呼び出すと、漆紀が投げた村雨を受け止めさせて防ぐ。

「なんだよ遠慮すんなよ。ハートに刺さるってそのまま気持ちいいもんだぜ古河」

「侮っていた。まさか傷の回復まで可能だとは……竜王様、全力でやらせていただきます」

そう言った瞬間、古河は大量の半透明のティラコレオと色づいた現実のティラコレオの両方を呼び出す。現実のティラコレオはヒョウのような毛色をしており、それはどこか気高くもあり野性的にも見えた。

「この数……精霊術と召喚術の併用か!?」

「ご明察感謝しますよ竜王様」

漆紀の周りには半透明のティラコレオと色づいたティラコレオが大勢取り囲んでいた。

漆紀の予想に対して古河がご明察と答えた通り、恐らくは精霊術による呼び出しと召喚術による召喚を同時に行ってティラコレオの呼び出せる数を爆発的に増やしたのだろう。

その数ざっとみて三十六匹。

「数の力というものを教えてあげますよ竜王様。我々と共に来ると言うなら今のうちですよ」

「バカ言え。俺はお前らに奉られる気は毛頭ねえ。かかってこい、俺も本気見せてやる」

漆紀はそう言うと、心の中でムラサメに語り掛ける。

(ムラサメ、竜王になるぞ。あれなら次々くるティラコレオの攻撃にも反応できる)

(また一歩、人でなくなるけれど良いの?)

(出し惜しみしてる場合じゃねえ、数で劣る俺が勝つにはそれしかねえ)

(わかったわ。竜王と化し、竜が如く戦いなさい)

漆紀の後ろ髪から背中には竜の様な鬣が一気に生えていき、その側頭部からは竜特有の角の目立つ鹿のようにも見える角が生えて来る。

「おお、おおおおお! 小生如きに竜王化を見せて頂けるとは! これは光栄。では始めましょうか!」

漆紀を取り囲むティラコレオ達が四方八方から襲い掛かって来る。

漆紀はそれを、人間離れした膂力と速度で村雨を一振りすることで一気に薙ぎ払った。

「なんと……なんとなんとなんと! 竜王化の力がこれほどとは……ならば全てけしかけるまで! 全方向、全ティラコレエオ! 竜王様を無力化せよ!」

ティラコレオは全方向から迫って来る。

「同じことだ」

漆紀は再び村雨を一振りして四方八方からのティラコレオを薙ぎ払うが、それが全てではなかった。

「二段目!?」

「噛み付け、ティラコレオ!」

二段構えの陣でティラコレオは飛び付いて来ていたのだ。一陣目がやられても、二陣目が噛み付くのだ。

漆紀は体中をティラコレオに噛まれ、全身に走る痛みに体を震わす。

「痛ぇじゃねえかよ! オラあああ!」

体を無理矢理動かして噛み付いたティラコレオを振り払い、それでも落ちぬティラコレオは斬ったり刺したりして無理矢理落とす。

「はあ……はあ……今までで一番痛ぇぜ。首を斬られた時の痛みもかなりすげえが、食われる痛みってのも半端じゃねえなこの野郎」

漆紀はかつてムラサメによって送られた過去の古戦場で首を斬られた忌々しい体験を思い返しながらそう呟く。

「お前をやるには正面突破しかねえな。ムラサメ、もっと力よこせ!」

(わかった)

漆紀は古河に向かって跳躍し、村雨を構える。

「ティラコレオ!」

何匹ものティラコレオが古河の胴体の辺りから現れて漆紀へと飛び掛かっていくが、漆紀はそれを空中で人間離れした膂力で殴り飛ばしていく。

「噛み付けないだと!?」

「おらああああぁぁぁ!」

跳躍で接近した漆紀は無防備になった古河の胸へと村雨を突き立てるが、彼は直前で身を逸らしたため村雨は彼の胸ではなく右肩に突き刺さる。

古河は苦悶の表情と共に、唸り声と怒声の入り混じった声を上げる。

「ティラコレオおおおぉぉぉぉ!!」

「させねえよ!」

漆紀は素早く村雨を古河から引き抜き、そのまま肩から袈裟斬りする。肩から脇腹へと村雨の刃が走り、皮と肉を斬り裂く。

「ぐっ……これが竜王の力……」

古河は立っていられずその場で膝を着いて、左手で右肩の斬り傷を押さえる。

「これで勝負ありだな。その出血だ、お前は死ぬ」

ティラコレオ達は消え、古河は首飾りを取り外すと強く両手で握って祈る。

「その首飾り、俺の首飾りと一緒でマジックアイテムだろ。なんなんだ?」

「これはティラコレオの牙の化石……小生が司祭様から与えられたものですよ……ごふっ」

「どうせ死ぬんだ、言いたい事聞いてやるよ。竜理教の説教ならごめんだがな」

漆紀は古河の胸に村雨の切っ先を向けたまま問いかける。

「小生は……元々、仏教徒でした」

「言いたい事を聞くとは言ったが自分語りを許可した覚えはない。黙れ」

「ぐふっ……手厳しい竜王様ですね……小生は幼い頃、住職になんというか……悪戯をされておりました。それを救ってくださったのが司教様です」

「坊主にオカマ掘られたってか。だからどうした、てめえは俺の敵だ、悲惨な過去があろうが同情はしねえぜ。世理架さん、返して貰うぜ」

「ああっ……気が…………うっ」

激しい流血で気が遠くなった古河は、そのまま前のめりに倒れた。

「……死んだのか?」

漆紀は村雨に付いた血を振り払うと、霧散させる。

「世理架さんは……どこに行った?」

竜院の中を見渡すが、いつの間にか世理架の姿が消えている。

「あの扉か?」

竜院の脇に扉があった。漆紀はその扉の元に駆け寄り、扉を一気に開ける。

「通路……この先か」

漆紀は廊下を走り、次の扉を開けると一つの部屋に着く。まず目に入ったのは大きなベッド。そのベッドの上には小さく蹲る世理架が居た。

「世理架さん、こんな所から早く出るぞ。おい、世理架さん!」

世理架は小さく消え入るような声で「わたくしはわたくしは」と壊れたレコーダーの様に同じ言葉を呟く。

「おい世理架さん!」

漆紀は世理架の左腕を掴んで無理矢理持ち上げるが、世理架はその手を振り払う。

「やめろ! わたしはここにいる!」

「何言ってんだよ! ふざけんなよ! あんた一人を助けるために、学徒会の会長だって、夜巳さんだって付き合って来てるんだぞ! 戦ってんだぞ!」

「それは……君の勝手にやったことだろう! わたしは」

世理架は過去に囚われている。醍醐との過去、そして今ある醍醐との現在。

全て醍醐という人間がもたらしている迷いである。

「あーだこーだうるせえ!」

漆紀は世理架の鼻っ面に右拳を叩き込む。けれど彼女もまた竜王、殴られた程度では打撲痕は出来ない。

「なにをする!」

「あんたこそなにしてんだよ! 散々竜王を嫌がってたあんたが、どうしてこんな所にいなきゃいけない!」

「わたしはここから離れられない!」

「ああそうか! じゃあ竜王になりたいのか!」

「そんなわけ……そうじゃない。わたしは」

「なら出るんだ! そうじゃなきゃ、あの醍醐ってヤツと話をつけろよ世理架さん!」

世理架の中の問題は、醍醐にある。ならば彼と話をつけた方が手っ取り早いと漆紀は考えた。

「醍醐と……話を?」

「ヤツは外で、夜巳さんと戦ってる。話をするために外に出よう、世理架さん」

漆紀がもう一度世理架に手を伸ばすと、世理架は数秒間一考すると彼の手を取る。

「話だ。話をするだけだ」

「それでいい」

漆紀と世理架は外で戦っている夜巳と醍醐の元へと歩み始めた。世理架の心の迷いを断つために。

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