22.同衾
東京都学徒会本部の食堂にて。
漆紀と彩那は小太郎に辰上家での事や誘拐、福井県の大寺院での事を話した。
「なるほど、話はわかりました。しかし心配ですな、勝手にその辰上家の妹さんを救出して、竜理教による報復がないか……」
「確かにその点は心配だな。でも夜巳さんの様子を見るに大丈夫だと思うけどなぁ」
「あのお嬢様なら大丈夫そうな感じですよ。なんていうか、優しいけど強かな感じはありましたからね」
「彩那嬢も同意見ですか。ならば心配するまい。それより、世理架さんの件ですな」
世理架が行方不明になっている件について小太郎は言及すると、漆紀と彩那の肩が上がる。
「それなんだよな……現在位置全く不明、手掛かりなし……そもそも俺、世理架さんがどこに住んでるかも知らないから手掛かりを探しようがないんだよな」
「竜王様、竜理教の射手が本当に死に際に言ってたんですか? 世理架さんを誘拐したって……それ本当なんですか?」
「確かに死に際に言ってやがったんだ。今は、辰上家の夜野田さんに調査を頼んでる。辰上家は大きな勢力にはちゃんと根を張ってるらしい」
辰上家に諜報能力があると知ると、小太郎は大きく肩を落とす。
「拙者、忍者なのにロクな諜報が出来ませぬな……正直忍者として恥ずかしいですぞ」
「仕方ねえだろ。お前諜報ってより実戦タイプの忍者だろ」
「そうですな……拙者らに今出来る事は無しか……ただ、福井県で何かが蠢いているのは確かです。それと、この前の大寺院前での学徒が大勢死亡した件、既にニュースにはなってますが集団急死としか報道されておりませぬ」
小太郎はスマートフォンの画面にニュースの一面を映し、それを漆紀と彩那に見せる。
「集団自殺じゃなく集団急死ですか。無理のある説明ですね。流石魔法です、警察の説明責任を苦しめる事にだけは長けてますね」
「警察も魔法と言うか、超常的な力の存在は恐らくもう周知しているのでしょうが、認めるわけにはいかないのでしょうな。それでこんな苦しい言い訳じみた集団急死などと……うーん、拙者頭が痛くなってくるでござるよ」
小太郎としても警察側の事情が心配であった。現場の確保や分析をする警察官達も魔法となれば常識が通用せず困惑するほかない。
「なんにせよ俺達に出来る事が今のところ無いんだ。こうやって駄弁ってるか各々訓練でもやってるぐらいしかやる事がねえ……歯痒い限りだな」
「とりあえず今日はもう解散にします? 自由行動ということで」
「それもそうですな。拙者も聞きたいことは聞けましたし」
「それもそうだな。あんまり話したいことないなー……」
漆紀も彩那も特に小太郎と話したい事は無かった。特段話して面白い話題もないので、解散する運びとなった。
漆紀は寮の部屋に戻り、備え付けのベッドに横たわって首飾りを握る。
「ムラサメ?」
『どうしたの?』
「世理架さんの居場所がわからないんだ。同じ竜王なら、お前の力で探知できたりしないかと思ったんだけど、ムリか?」
『無理。同族の探知機能なんかないよ』
「ダメかー」
『違う存在の位置ならなんとなくわかるんだけどね』
「違う存在って?」
竜王ではない別の特定の存在についての位置ならばムラサメは探知できるのだという。
『私の創造主。創造主の位置だったら探知出来る』
「それは、刀の製作者ってことか? とっくの昔に死んでるんじゃ」
『そのはずだけどなぜか生きてる』
「え、なにそれ怖い。人間やめてるじゃん」
『まあ人間やめてるのは確かだとは思うけど……それより、本題の方は役に立てないよ』
「そうか……まあ仕方ねえや。さてと、暇だし昼寝と決め込むか」
漆紀はベッドの上で身を横にして回復体位の体勢になって眠ろうとするが、ふいに部屋のインターフォンが鳴る。
「なんだよもう。眠ろうって時に」
漆紀は起き上がって玄関の扉の前まで向かうとゆっくりと扉を開ける。
「やっほー、竜王様。暇なんで来ました」
扉の前に立っていたのは彩那だった。
「暇なんでって言っても俺昼寝しようとしてたんだけど」
「私も一人で居てもつまらないんですよぉ。ほら上がらせて下さいよ」
「わかったわかった。ほら上がれよ、暇だし部屋にも別になんも無いけど」
漆紀がベッドに戻ると、彩那は部屋の中を見渡す。
「相変わらずエロ本の一冊もないとかつまらないですねー」
「エロ本はぜってー買わねえよ。お前が弄るだろうが」
「つまらないですね。暇ですねー……」
漆紀は彩那に構う事なくベッドに横たわって再び回復体位を取って眠ろうとする。
「ねえねえ暇って言ってるんですけどー! 暇な男女がやることと言ったらエッチなことでしょうが! 竜王様―!」
「うるせえー! 俺は眠りたいんだ! 眠らせて貰うぜ!」
漆紀は布団を覆い被さって眠ろうとするが、彩那は滑り込むようにベッドに上がり込む。
「おいやめろ上がってくんな!」
「何でですか? 何度も添い寝ぐらいした仲じゃないですか」
彩那はそう言って首を傾げると、布団を持ち上げて漆紀の傍に寝転がる。
「はぁ、なんでお前はなんでそう俺にくっつきたがるんだよ」
「何度も言ってると思うんですけど竜王様が好きだからですよ」
「俺にはその言葉が困り文句なんだってのに」
漆紀は竜王の力を持っているが、本人の気質もあってかどうにも彩那を恋愛対象というか性的対象というものとして見れないでいる。
「竜王様は、なんで私にキスの一つもしてくれないんですか? ハッキリ言って、EDとか玉無しと言われても仕方ないぐらい竜王様って淡白ですよ。本当に年頃の男子ですか?」
「……大事なことだから言っておく。それは俺が竜王のせいだ」
「はい?」
竜王であることが彩那の求めるコミュニケーションをしない理由だと漆紀は語り出す。
「竜王だから人間じゃないんだきっと。だから正直お前より……夜巳さんに最初抱き締められた時の方がドキッとしたし興奮もあった」
「私が、人間だからですか」
「多分そうなんだと思う。竜王だから、人間よりも竜に近い吸血鬼の夜巳さんの方がそういう対象として見れるんだろうな。俺、付き合うなら夜巳さんの方が良いのかもな」
漆紀が明言すると彩那の声色がくすんで鈍る。
「そう、ですか……」
「でも勘違いすんな。俺は付き合うなら夜巳さんって言ったけど、家族になるなら違う。家族になるっていうなら、夜巳さんより付き合いの長いお前の方が安心するよ」
「家族……ヤダ、竜王様。下げて上げるだなんてどこで覚えて来たんですか~?」
「俺は割とマジで言ってるんだけどな」
漆紀は落ち着いたトーンの声でいつになく真面目そうに彩那の方を振り返る。
「え?」
「お前よりもっと長い付き合いの女子だと、下田って女友達がいるけど、そいつも人間だから正直俺はなんとも響かなかった。でもお前とはかなり近い距離で関わって生活して、同じ家で寝て、同じベッドで寝て……お前とは正直一緒に居たいとは思える。これが恋愛的なものかは俺自身もよくわかんないけどな」
「一緒に居たいですか……でもそう言われると嬉しいです」
「でもお前にいくら胸を押し付けられたり、ゴム片手に迫られてもそういう気持ちにはなれない。多分それは俺が竜王だからだ。竜だから人間に興奮出来ないんだろうな。はぁ……」
漆紀の性的対象は人間ではないと、漆紀自身はそう断ずる。それはこれまでの自身の経験を鑑みて振り返った結果の判断であり、これについては彩那が口を挟む余裕はなかった。
「そうですか……やっぱり竜王様は竜王様だから、そうなるんですね……」
「こんな話しちまってすまねえ。でも正直言うと、一人で眠るのも最近寂しく思うところもあった。だから、このまま一緒に居てくれるか?」
「いいですよもちろん。では対価に……」
そう言うと彩那は眠りたいと完全に油断しきっていた漆紀から唇を奪った。
その時間、およそ四秒ほど。
「こうしても、私では何も興奮しませんか?」
「ドキッとか、興奮はない。でも、安心感はある。家族と同じような安心感か」
「安心感ですか……今はそれでも良いですよ。じゃあ、このまま一緒に寝ましょうか」
「ああ、眠るか」
漆紀は静かに目を閉じ、全身から脱力して意識を体から手放していく。
(竜王様の性対象は人間ではない。それでも私は、この人と絶対に一緒になる)
そう静かに密かに心の中で思うと、彩那も目を閉じて意識を体から逸らしていく。




